説得の技法を使いたい相手
自分の商品の魅力を伝え、相手に欲しいと思ってもらえること。
フリーランスになった私にとって、これはまさに身につけなければならない重要なスキルとなります。
私は公務員時代、「消費生活センター」という職場に所属していたことがあり、そこでは数々の悪質商法の手口を目の当たりにすることができました。
毎日大量の相談が寄せられ、その相談記録を読んでいましたが、とても興味深く感じていたのが、「最初は断るつもりだったのに、気づけば契約していた」という相談者の陳述があまりに多いことでした。
デート商法、SF商法、オレオレ詐欺など、本当に使い古された手口と理論。
センターの相談員の人達は、
「何でこんな手口に引っ掛かるんだろうね。自分なら引っ掛からないのに」
と言っていましたが、私は、
「自分も含め、ほとんどの人間は簡単に騙されやすい」
と思っていました。
「世の中には、説得の技法に長けた「説得のプロ」が大勢いて、実に様々な場面で、気づけば相手の思うように誘導されてしまっている」
当時の職場の上司から紹介された「影響力の武器」という本を読んで、このようなことを学びましたし、相談記録を読めば、この本で紹介されている説得の技法のいづれかに該当する手口を見つけ出すことができました。
実は私自身も、後で考えると
「何故あんなものに大金を出してしまったのだろう」
と思えてしまうような失敗経験はたくさんありました。
そして、私の「思わず契約してしまった失敗談」にももちろん、それらの手口は見事なまでに使われていましたし、その手口とは、別に脅したりするものではなく、実に巧みにこちらの欲求を引き出して、割高な買い物をさせるというものです。
完全に冷静な状態ならば、そういう割高で胡散臭い商品など買わないのですが、心の盲点というか弱点ともなる「欲求」を巧みに刺激することで、人は簡単に操られることを痛感しました。
説得の技法とは、人の無意識にも働きかける、とても恐ろしいものです。
だから、私はこれまで、
「当初その気がない人を自分の思い通りに説得し、自分の利益に導くこと」
に対しては、若干の抵抗感がありました。
仕事上、手口を知る必要はありましたし、消費者啓発講座でそれらの手口を知ってもらい、被害を予防することに大きなやりがいを感じてはいました。
ただ、私自身が自分の収入のために誰かを説得するということには、潔癖とも言えるほど慎重になっている部分があり、それが今後フリーランスとしての活動に支障をきたす恐れがあると考えています。
もちろん、こちらから売り込まずに、相手が欲しいと思ってくれるように相手のニーズに沿った魅力的な商品を開発することと、相手が望む以上の効果をその商品によって得てもらうことができれば何もいう事はありませんが、そうであるにして、まずは商品に振り向いてもらう働きかけが必要です。
だから、いづれにしても、説得の技法を身につけることは不可欠なのかもしれません。
そして、今の私には、本人の意に反してどうしても説得しなければならない相手があります。
それは、私の父です。
80を超えた父は、多少認知症を患っています。
元々、趣味の少ない父は、ますます家に引きこもり刺激に乏しい生活を送っています。そして話す話題もあまり楽しくない内容が増えました。
そんな父をどうやって外に連れ出し、刺激を与え認知症の予防と改善をしていくか。
これは、父だけの問題ではなく、一緒に暮らす母の負担軽減のためでもあります。
私としては、介護保険のデイサービスを利用してもらい、父が留守の状態を作って、その間、母を解放したいと思っています。
ただ、父は、プライドが邪魔をして、他の高齢者と一緒にそのようなサービスを利用することは断固として拒否するでしょう。
だから、私は父と母の健康寿命を守るために、説得の技法を駆使し、何とか父に介護サービスを受けてもらいたいと思っています。
この試みを実行することで、私はフリーランスとして道が開けてくるような気がします。