[ショートショート]ガール・オール・グリーン

 植物は今日と明日の境目が見えるだろうか。もしそうでないなら、私は植物に生まれたかった。私達は不必要なほど知能が高いせいで未来のことならなんとなく予想がつく。そのせいで見たくないものまで見てしまう。例えば現時刻A.M.6:45に目を覚ましてしまった私は、十五分後に鳴るアラームに怯えながら二度寝をするか、退屈な一限の、将来役に立たない数学の授業を犠牲にして今起きるかの選択に迫られている。
 少し考えたが今から快眠を得ることは難しそうだし、けたたましく鳴るアラームに心臓を縮めるのは癪なので、そうだな。コーヒーでも淹れようか、と起きることにした。景気よく布団を蹴り上げる。身体が覚醒の刻だと完全に気付いたようで、怠さも少なく自然と起き上がれた。
「『エア』、電気お願い」
 そう呼びかけると、部屋は柔らかい朝に似つかわしい光に包まれた。
 「コーヒーも」
続けて命令を下すと、キッチンの方から香ばしい香りがしてきた。エアが淹れ始めたようだ。その間に、私もトイレとかの要事を済ませた。
 水を汲んで、それを観葉植物にやった。始めの頃は植木鉢に収まっていたのに、すくすく順当に成長し、今では寝室の隅を独り占めしている。名前は知らない。
「エア、紫外線」
寝室が紫色になる。その光を葉緑体が吸収する。観葉植物は育ち、やがてイメージ図通りになる。
 リビングへ行くと、エアが用意した朝食Dとインスタントコーヒーとが湯気を上げていた。ちょっとのイレギュラーがあっても、私の生活はそんなに変わらないので良かった。
 私はそれを食べながらテレビを点ける。別に好きな番組があるわけじゃない。煩くしないと何となく落ち着かないのだ。
 しかしながら、朝のニュース番組が滑稽に感じられるのはなんでだろう。私の拗らせた思考か、はたまたテレビは悪だという浅慮か。 いや多分、もっと答えは単純だ。事件があって、暖かいごはんがあって、それが何になるのだろう、何に活かされるのだろう?この世界で。予想できる未来が“無い”世界で。
「エア、外を見せて」
部屋を囲っていた壁の1つが透明になる。
緑色の雨は今日も降りしきっていた。


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