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正月と十字架

祖父母と伯父と伯母は
墓地の隅、十字架の下
それぞれの骨壷におさまって
さらに小さな扉の奥に並んでいる

静かな墓参り
天主堂が見える小さな丘

いつかの正月

料理上手な祖母のおせちを皆で囲んでいた
大きな体で忙しなく皆をもてなす祖母の
多すぎるもてなし
大満腹の私は動けなくなって退屈し
痩せて小さな祖父が
ビール片手に窓辺の椅子に腰かけ
皆の様子を眩しそうに
そして神妙さも兼ねた顔で眺める姿を
なんとなく見ていた
そして目が合うと
刺身は食べたとや、ここにまだあるぞ
と、祖父が真顔で無茶を言った
それを耳にした祖母はすかさずやってきて
私の前に刺身の皿をどんと置き
たくさん食べんね
と無茶を言った
赤飯もまだいっぱい炊いとるけん
と、また無茶を言われ
もう食べれんもん
とは、なんとなく言えず
ハマチの刺身を口に運ぶと
あんなに満腹だったのに
あまりの美味しさに顔がとろけた
そして赤飯のおかわりが運ばれてきて
刺身も赤飯も
ぐいぐいと腹へ押し込むように食べた

そこには伯父や伯母もいて
ほかにも大人や子どもの親族がいて
父や母の笑い声もしていた
陽射しがたっぷりと注がれ
冬なのに
春のような眺めだった

あの正月には愛が溢れていたから
これでもかと愛が溢れていたから
思い起こすと切ない
愛しい

マチアス、マリア、トマ、マグダレナ

愛しています
あなた方は皆
可愛くて
すばらしかった

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