メタボ健診は見直しか
5月なかばから金曜日だけ、弘前市の健生病院健診科で働き始めた。
5か月も続けると、いろいろ気づくことがある。
受診者は、二つのグループに分かれるようだ。
病気の「早期発見」を求め主体的に受診する〈人間ドック・がん検診〉と、労働安全衛生法に基づき「義務」として受ける〈職場健診〉である。
後者には「会社から受けろと言われたから来た」と本音を語る正直者も多い。そして「タバコも酒もやめる気はない」と続ける。
聞かれもせぬのに強弁する姿を見て疑問がわく。なぜ自暴自棄(?)になるのだろうか。
依存症には、薬物・ギャンブル・タバコ・酒・過食など枚挙にいとまがない。
「分かっちゃいるけど……」と言う。「分かった」つもりでも、自分の心と体の依存には気づいていない。
それでいて、他人には冷静だ。
「どうしてカルト宗教などに騙されるんだろう」などと。
自分の依存症に気づきさえすれば、「ストレス解消のため」という誤った思い込みの喫煙・飲酒・過食もリセット可能である。
〇生きるとは動的平衡。食物で明日の我が身を再構築せむ(医師脳)
特定健診(いわゆるメタボ健診)の開始は2008年だった。
心血管系疾患の「早期予防・早期発見・早期治療」という御題目には、誰も異を唱えられない。
しかし、受診率(2018年度)は54%、保健指導実施率は23%と、それぞれの想定(70%以上・45%以上)より低い。
さらにコロナ禍のおり、実施率・受講率の低下が危惧されている。
アメリカの有名な医学雑誌(JAMA Internal Medicine誌オンライン版2020年10月5日号)で、京都大学の福間真悟氏らの「特定保健指導に心血管危険因子の改善効果は見られない」という論文を見つけた。
「特定健康診査を受けた勤労世代の男性では、特定保健指導によって体重は1年後にわずかに減少したが、血圧、HbA1c、LDLコレステロールなどの心血管リスク因子改善は認められなかった」という結果。
さらに、著者らは
「特定健康診査の費用が高額(年間約160億円)であることを考慮し、そのシステムを再評価する必要がある」とも述べる。
とかく何事も「前例踏襲主義」で、見直しなどせずにひたすら継続したがる日本では珍しい研究だ。
「よくもまあ、研究費がついたものだ」と、驚いてもいる。
健診に携わる爺医としては、いささか微妙な立場なのだが……。
〇養生は自ら律するものなればメタボ健診も潮時なるらむ(医師脳)