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縫って直して21年「面白い」が原動力◆治癒率95%のおもちゃドクターに会ってきた【時事ドットコム取材班】(2023年06月10日08時30分)
東京都国分寺市の住宅街の一角。きょうも、足を骨折した犬のぬいぐるみや、断線した電車、踊れなくなったサンタクロースが来院する。そこは壊れたおもちゃを診療する「おもちゃ病院」。開院から21年半、約8000件を治療してきた「ドクター」に会いに行ってきた。(時事ドットコム編集部 川村碧)
月60~70件、カルテで管理
2023年5月下旬、掲げられた「国分寺おもちゃ病院」の看板に目をやり、呼び鈴を鳴らす。中から「はーい」と柔らかな声が聞こえ、「おもちゃ病院」とプリントされたエプロン姿の男性が出迎えてくれた。「ドクター」こと角文喜さん(75)だ。案内された「診察室」の作り付けの棚には、部品や工具、治療を終えたおもちゃが所狭しと並んでいる。
「よくあるのは、動くぬいぐるみやプラレール、ラジコンカーの修理。最近はハト時計なんかも。何でも来ますね」。依頼は、メーカーによる修理が終了した古いおもちゃが中心で、月に平均60~70件が持ち込まれる。在宅時にはいつでも引き受けるという角さんが受け取る治療費は部品代だけだ。
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角さんは1件ずつカルテを作成し、「動かない」「音が出ない」といった症状と治療の過程を写真付きで記録。直したおもちゃと共に、持ち主に渡す。故障の原因は、電池の液漏れや断線、ギアの破損がほとんどで、ただの電池切れというケースも少なくない。「壊れた原因はいろいろですが、さび取りや部品交換で済むことが多く、治癒率は95%。子どもは大人が考えているような遊び方をしてくれないけれど、自由な発想で遊ぶのが子どもの良いところ」と笑う。
もともとは養護学校教諭、専門学校で技術磨く
角さんはもともと、障害児が通う養護学校の教諭で、知り合いなどからもらった廃棄寸前のおもちゃを自分で直し、授業で使っていたそうだ。開業のきっかけは、新聞でおもちゃ病院を知ったこと。「ちょっと手を掛ければ、おもちゃは直せる。自分もできるかもしれない」。「先輩ドクター」に教えを請い、在職中の2001年、自宅の建て替えを機に開院した。退職後には専門学校で3年間、電子工学を学び、技術を磨いたという。
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「開院当初はまったく…。近所へチラシをまいたり、ホームページを開設したりして、だんだん依頼が増えた」と振り返った角さん。「新型コロナの感染拡大前は、近所の子が『直してほしい』と持ってくることもありました。隣に座らせ、なぜ壊れてどうやったら直るのかを見てもらっていたんですよ。元通りに動くと大喜びしてくれる。コロナで持ち主と直接会えることが減り、さみしいですね」と話す。
「思い出のおもちゃには、さまざまな価値がある」
開業して21年半。さまざまな事情を抱えた人が角さんに助けを求めて来院した。
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17年9月、中年男性が持ち込んだのは、上半身が汚れ、ぼろぼろになった抱き人形だ。「認知症の母親が食事の際に隣に座らせてごはんを食べさせている。とても大事にしているので、なんとかしてもらえないか」との依頼だった。
解体して胴体の型紙を取って、防水仕様の布を縫い合わせる。修理とはいかず、一から作り直す大手術だった。「裁縫はあまり得意ではないのですが、なんとかうまくいった。1週間くらいかかりましたが、喜んで持って帰ってくれたのでほっとしました」と語る。
「末期がんの夫のため、昔家族で遊んだおもちゃを直したい」という依頼もあった。動かなくなっていたのは、レバーをひいて打ち出した玉を落とさないよう、はじき返すピンボール型のゲームで、無事修理して引き渡した。「しばらくして再会した女性から『亡くなる前に家族で集まってゲームをして遊び、夫はとても喜んでいた』と感謝されました。おもちゃとはいえ、人によってさまざまな価値がある。できる限り直してあげたい」と力を込める。
障害児用スイッチ開発「自分で遊べるように」
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角さんは、修理と同じように「おもちゃの改良」にも力を入れている。教員時代、「寝たきりで指や足の一部しか動かせない子でも、その部位に合わせたスイッチがあれば、おもちゃで遊ぶことができる」と実感したためだ。軽い力やわずかな接触で電源が入るスイッチなど17種類を開発し、取り付けのほか、希望者への販売も行う。
取材した日も、動くぬいぐるみへのスイッチ取り付け依頼が入った。来院したのは、障害児保育園の女性保育士。園には手足が不自由で知的障害などがある2~5歳の子どもたちが通っているという。
「音や光で『自分で動かした』と実感できることが大事」。角さんが保育士に語った言葉です。後半で紹介します。
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