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「園児に刃物」は氷山の一角か◆表に出ない不適切保育【時事ドットコム取材班】(2022年12月09日20時10分)
保育士が園児に暴力を振るったり、暴言を吐いたりする「不適切な保育」が各地で相次ぎ発覚しています。子どもの安全を守るはずの保育士が加害者となり、周囲もそれを止められなかったのは、なぜなのでしょうか。こうした問題について、現職保育士に聞き取り調査した専門家に話を聞き、背景を取材しました。(時事ドットコム編集部 太田宇律)
暴行、暴言相次ぎ発覚
静岡県裾野市の私立「さくら保育園」で発覚した虐待事件。1歳児クラスを担当する6人中、3人の女性保育士が行っていたとされる「不適切な保育」は、市が確認できただけでも計16件に上る。市の報告書には「園児を宙づりにした後、まっ暗な排せつ室に放置する」「カッターナイフを見せて脅す」といった行為が羅列され、3人は暴行容疑で逮捕された。
保育士による不適切行為は、静岡県以外でも相次いで発覚している。仙台市の認可外保育所の保育士は「服が汚れるから」と園児に下着姿で食事をさせたとして処分され、富山市の私立認定こども園では、園児を物置に閉じ込めたり、尻を棒で突いたりしたとして、20代の女性保育士2人が暴行容疑で書類送検された。
ほかの園でも「刃物」
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福島大の三家本里実准教授は、こうした「不適切な保育」について、労働社会学の観点から研究している専門家だ。一連の事件などについて尋ねると、「もちろん驚きもあったが、『やっぱりこういう事例は各地で繰り返し起きているんだ』と改めて思った」と語った。これまで保育現場で行ってきた聞き取り調査で、こうした行為は「決して珍しいことではない」と感じていたという。
三家本准教授は2021年7月~10月、東京都や神奈川、宮城県など各地の現役保育士や看護師に対し、保育園における不適切な保育の現状や背景について聞き取り調査を実施。その結果、対象となった16人全員が「不適切な保育を見たり、聞いたりしたことがある」と回答した。16人が証言した行為のうち、身体的なものは計16件、心理的なものは計13件。そのほかに「ネグレクト(義務放棄)」も計4件あった。
身体的な不適切行為は、「泣いている子の口に拳を入れて黙らせる」「言うことを聞かないからと、手を後ろにしていすに縛り付ける」といったもの。心理的なものでは、「言うことを聞けない子は嫌い、と言う」「そのタオルを持ってきたら、あしたはこうだからね、と言って殴るそぶりをする」といった暴言や脅しが並んだ。さくら保育園の事件と同様、「刃物を見せて脅す」「暗い部屋に閉じ込める」という回答もあった。
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声を上げても「思い過ごしだ」
こうした不適切行為は、なぜ横行するのか。三家本准教授は主な原因として、①保育現場の人手不足②離職率の高さ③園側のもみ消し④外部の目が届かないことーの四つを挙げた。調査対象となった保育士らはいずれも慢性的な人手不足の中で勤務しており、決められたスケジュール通りに業務を回すために園児を拘束していたなどとする回答が目立ったという。
「昔に比べ、保護者との関わりがすごく希薄化していると感じる」。聞き取りに対し、そう話したベテラン保育士もいたそうです。後半に続きます。
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