マンホールの写真撮影に順番待ち?「サミット」も盛況◆人気の秘密はどこに?【時事ドットコム取材班】(2023年06月03日)
アニメなどとコラボレーションしたご当地限定のマンホールぶたが人気だ。愛好家は「マンホーラー」と呼ばれ、デザインの由来や設置された街の歴史などを記載した「マンホールカード」が高額転売されることもある。普段、気に掛けたこともなかったマンホールぶた。人気の秘密は、どこにあるのか。(時事ドットコム編集部 谷山絹香)
都内に150種類以上
2023年4月下旬、JR御茶ノ水駅(東京都千代田区)から南に歩いていると、見慣れない黄色のマンホールぶたが目に飛び込んできた。描かれていたのはアニメ「鉄腕アトム」に登場する「お茶の水博士」だ。少し歩くと、主人公「アトム」と、その妹の「ウラン」が描かれたものもあった。顔の周りにサクラの花がちりばめられたデザインに、思わずシャッターを切る。
東京都下水道局のホームページで紹介されているだけでも、こうしたデザインマンホールぶたは150種類以上あった。図柄は地域に関係するものが目立ち、例えば、葛飾区亀有には、漫画「こちら葛飾区亀有公園前派出所」にちなんだふた、ウルトラマンシリーズを手掛ける「円谷プロダクション」発祥の地、世田谷区には「ウルトラマン」や異星人「バルタン星人」のふた、といった具合だ。
御茶ノ水エリアに鉄腕アトムのふたが設置されているのは、アトムが「お茶の水小学校」に通っていたことや、お茶の水博士の名前に由来するという。
魅力にとりつかれ10万枚撮影
1万種超のマンホールぶたを10万枚以上の写真に収めてきたというマンホーラー、白浜公平さん(45)=東京都文京区=は「やはり、一番はご当地性」と魅力を語る。デザインマンホールぶたとの出会いは、20年ほど前に茨城県つくば市を訪れたとき。大学で天文学を学んでいた白浜さんは、宇宙船が描かれたマンホールぶたに目を奪われた。図柄はJAXA筑波宇宙センターにちなんだものだったが、後日、同じつくば市内を歩いていると、今度はヒマワリが描かれたふたが目に入った。
「この前は宇宙船だったのに…」。調べてみると、ヒマワリは「平成の大合併」でつくば市に編入合併した旧茎崎町の「町の花」だと分かった。「合併でなくなった町のインフラがそのまま残っているのは面白い」。全国各地を回って写真を撮影するようになり、小笠原諸島などの離島にも足を運んだ。
特に印象に残っているのは、静岡県磐田市にあったマンホールぶたという。再開発に伴い撤去される予定だったが、昭和初期のある一時期だけ走っていた「光明電気鉄道」のシンボルマークが描かれており、歴史を調べた白浜さんがテレビ局の取材で「貴重なふた」と訴えたことで、市の埋蔵文化財センターに保存されたそうだ。「デザインがきれいというだけでなく、ふたに描かれているものから街の歴史や土地の成り立ちが推理できたりする。宝探しのような要素もあるのが面白い」と力を込める。
掃除、こけの観察、「マンホールサミット」も
マンホーラーは年々増加傾向にあり、白浜さんによると、好きなキャラクターのふたを掃除して回る人や、ふたのくぼんだ部分に生えたこけを観察する人もいるという。「ふたの写真を撮り始めた頃は『あの人、何やってるんだろう』と不審がられたが、今では撮影の順番待ちになることもある」と笑う。
下水道の役割や機能の理解促進などを目的に、年1~2回開催されてきたイベント「マンホールサミット」の来場者も急増している。主催する「下水道広報プラットホーム(GKP)」によると、2014年の第1回サミットの来場者は約300人だったが、22年の第10回には約1万4000人が訪れた。当日は数時間前から開場を待ちわびる列ができ、マンホーラーによるトークイベントも満席が続いたという。
GKPの担当者は「22年は新型コロナの影響で3年ぶりの開催となり、その反動もあったと思うが、まさか1万人を超える人が集まるなんて夢にも思わなかった」と振り返る。スタンプラリーや缶バッジづくりなど、子どもも楽しめる企画も豊富で、「キャラクターが描かれたふたを見るアニメファンから、孫を連れた親子3世代まで、来場者は老若男女さまざまだった」と語る。
デザインマンホール、沖縄にルーツ?
マンホーラーを引き付けてやまないデザインマンホールぶた。業界関係者の間では、第1号は1977年から使用されている那覇市のものと言われる。市によると、普段、市民の目に触れることのない下水道をPRするため、マンホールぶたに着目。「ナハ」の文字を図案化した市章を魚が取り囲んだデザインにしたそうだ。「下水処理できれいになった水の中を、魚たちが喜び群れ遊ぶ様子をイメージした」という。
年間のマンホール受注の9割近くをデザインぶたが占めるという「長島鋳物」(埼玉県川口市)によると、下水道整備は1970年代以降、水質汚染問題を背景に急ピッチで進められ、イメージアップのため、地域の花や鳥、代表する観光地などをあしらったふたを導入する自治体が出てきた。その後、マスコットキャラクターで地元の名所や名産品をPRする「ご当地キャラブーム」が到来し、2010年代に各地の「ゆるキャラ」が描かれたマンホールぶたが登場。近年、アニメや漫画、企業などとコラボレーションしたり、市民にデザインを公募したりする動きが広がったという。
長島鋳物の井上好道営業部長は「特にこの4、5年、その土地にしかない『一点もの』が増えている。SNSでマンホールぶたの写真が拡散され、ふたを目当てに県外から観光客が訪れることも珍しくない」と語る。
累計1000万枚超え、人気のマンホールカード
その人気を後押しするのは、「マンホールカード」だ。全国各地のダムを写真付きで紹介する「ダムカード」をヒントに、GKPが2016年から配布を開始。総発行枚数は1030万枚に達し、23年7月下旬には第20弾が発行される予定だ。