理不尽、無差別襲撃に「5つの動機」 池田小で受け継がれる教訓とは【時事ドットコム取材班】(2022年01月30日09時00分)
多数の人を無差別に狙った襲撃事件が相次いでいる。「人生がうまくいかない」「死刑になりたい」。自分の境遇に絶望し、破滅を望んで事件を起こしたケースも多いとみられるが、こうした他人を道連れにしようとする行為は「拡大自殺」とも呼ばれる。理不尽な事件を未然に防ぐため、また、被害を避けるためにできることはあるのだろうか。(時事ドットコム編集部 太田宇律)【特集】時事コム
動機に「5つのパターン」
無差別殺傷事件を起こした人物の境遇や動機について、共通点を探った研究報告がある。2000~2010年に判決が確定した52人を対象に、法務総合研究所が犯行実態や背景をまとめた「無差別殺傷事犯に関する研究」だ。
研究によると、無差別事件を起こした52人のうち、犯行時の月収が20万円を超えていたのは3人しかおらず、40人(約77%)が無収入、もしくは10万円以下だった。同居する結婚相手や異性の交際相手がいたのは2人だけで、犯行時に「親密」または「普通」の友人がいたのも10人(約19%)にとどまるなど、「社会的に孤立して困窮型の生活を送っていた人物」が多いーとの傾向がうかがえたという。
また、犯行前に「自殺」を試みていたケースは約44%に上り、52事件全てが「単独犯」という共通点も見られた。
動機は ①自分の境遇への不満(22人)②親や上司など特定の人への不満(10人)③社会生活に行き詰まり、刑務所に逃れるため(9人)④自殺の踏ん切りをつけるため・死刑にしてもらうため(6人)⑤殺人に対する興味や欲求を満たすため(5人)の順に多く、➀~⑤のいずれか複数が合わさっていたり、動機不明だったりするケースもあった。
格差への「復讐」
立正大で犯罪学を研究する小宮信夫教授は、こうした無差別事件が起こるメカニズムについて、「たとえお金や仕事がなくても、友人や恋人、家族といった大切な人がいれば、犯罪を思いとどまるブレーキになる。そうした社会とつながる糸が1本、1本切れていき、本人にとって事件を起こすメリットがデメリットを上回ってしまうと、無差別犯罪に逃げることがある」と解説。「自分はもう失うものがない負け組だ」と思い込んだ人物が、命と引き換えに「勝ち組」や格差社会そのものに復讐(ふくしゅう)しようとする側面もあり、「勝ち組と負け組の格差が広がるほど模倣され、連鎖する」と語る。
「勝ち組」や「社会」は攻撃対象としては漠然としているため、代わりに「なりたかった自分」を象徴する嫉妬やあこがれの対象が標的になることもある。36人が犠牲になった京都アニメーション放火事件や、東大前で発生した受験生襲撃事件を例に挙げた小宮教授は「こうした事件も『標的の置き換え』で説明できる」と言う。
孤立や貧困、自殺願望といった特徴に当てはまる人が直ちに無差別殺傷事件を引き起こすわけではないと強調しつつ、「遠回りなようだが、こうした社会問題を解消することが無差別殺傷を抑止する一番の近道なのではないか」と続けた。
素早い共有で被害ゼロに
では、無差別事件に巻き込まれそうになったとき、被害を最小限に食い止めるためにはどうしたらいいのだろうか。手掛かりになりそうなのが、2021年11月に宮城県登米市の「豊里こども園」で起きた刃物男侵入事件だ。無職の男が園の柵を乗り越え、刃渡り12センチの刃物で職員に切り掛かったが、職員4人が連携して素手で取り押さえ、けが人は出なかった。逮捕された男は「子どもを殺す目的で侵入した。2人以上殺して死刑になるつもりだった」と供述した。
事件当日、園の周辺をうろつく男を発見した職員らは、アイコンタクトや身ぶり手ぶりで不審者が現れたことを共有。すぐに「雨が降りそうだから中に入ろうか」と言って、庭で遊んでいた園児約70人を建物内に誘導した。
園では、不審者が現れた場所を知らせる「いかのおすしが〇〇に届きました」という合言葉を決めるなど、普段から防犯訓練を徹底しており、男が柵を乗り越えたときには大半の園児が建物内に避難済みだったという。
このケースでは、➀緊急事態に備えた園のマニュアル通りに短時間で園児を避難させたこと➁不審者情報を素早く共有し、複数人で立ち向かえたことーなどが功を奏したと言えそうだ。園のマニュアルは「犯人と対峙(たいじ)しない」ことを前提としており、さすまたや防犯スプレーを備えていなかったが、立ち向かった男性保育士らは「逃げてしまったら子どもたちに危害が及ぶと思った」と振り返っている。
池田小で続く「実戦訓練」
2001年に通用門から侵入した男に児童8人が刺殺されるなどした大阪教育大付属池田小学校(大阪府池田市)は「学校安全の手引き」と題された危機管理マニュアルをウェブ上で公開し、改訂を重ねている。