さまよう無戸籍者、爪切るヒーロー◆極寒のテントから見た「路上」の年越し【時事ドットコム取材班】(2022年01月20日10時00分)
感染拡大が続く新型コロナウイルスの影響で職を失うなどし、生活に困る人も出た2021年。こうした困窮者や路上生活者は、行政窓口が閉まる年末年始をどう過ごしたのだろうか。長年、名古屋市での越冬支援に参加してきた記者が、年をまたいで実施されたボランティア活動を報告する。(時事ドットコム編集部 横山晃嗣)〔動画あり〕
「共に歩める越冬を」
「凍死することなく、一人で寂しい思いをすることもなく、生活保護の人も、ここで一緒に手伝い、仲間になり、悩みを打ち明けて共に歩めるような越冬にしたい」ー。行政機関や企業の「仕事納めの日」とされる2021年12月28日夕、付近に雪が残った名古屋市内の公園で、名古屋越冬実行委員会の代表、東岡牧さん(57)は路上生活者やボランティアスタッフらを前にこう訴えた。
実行委は市内の19団体で構成され、年明けに行政窓口が再開するまでの約1週間、路上生活者らを24時間体制でサポートする。スタッフは公園内に設置したテントに交代で泊まり込み、昼夜2回、炊き出しを実施。食料や衣類、毛布なども無料で提供する。初日の夜の炊き出しメニューは親子丼で、列に並んだ52人からは「肉が大きい」などの声が上がった。
テントには、希望すればスタッフ以外も宿泊できる。初日に宿泊した路上生活者らは5人ほどで、記者も許可を得てテントに泊まることにした。気象庁によると、この日午後10時の市内の気温は1.6度。断熱用に床に敷き詰められたプラスチック製の資材の上に毛布4枚を敷き、さらに4枚をかぶる。それでも底冷えがし、2時間おきに目が覚めた。
翌朝午前5時半すぎ、テントの外で物音がした。気温は0.2度。顔を出すと、泊まっていた路上生活者が「寒い」と言いながら越冬活動のためのたき火の準備をしていた。
実行委の一日は長い。支援2日目の29日はたき火が消えないように番をしつつ、昼夜の炊き出しを行う一方、衣類提供や無料散髪を実施。深夜、終電が終わる時間帯を見計らって近隣を巡回し、高架下などで野宿している人たちにカイロや非常食、栄養ドリンク、マスクなどを配り歩く。この日の夜回りではちょうど50人に支援物資を届けた。
「無戸籍、まずは生活保護を」
越冬会場では、炊き出しなどのほか、医師の診察や弁護士の法律相談を無料で受けることもできる。支援3日目の12月30日、法律相談に訪れた30代くらいの女性に話を聞くことができた。
女性によると、幼いころは児童養護施設などを転々として暮らし、その後、ガソリンスタンドやキャバクラ店、建設現場などで働いて生活費を稼いできた。食べる物もなくなり、無人駅や橋の下で雨風をしのいだこともあったという。環境を変えたかったが、運転免許を取得することもできなかった。戸籍も国籍も持たないためだ。生まれた年、誕生日すらはっきりしないのだという。
女性の相談に応じた森弘典弁護士(55)によると、戸籍も国籍も持たない路上生活者は珍しくない。こうした無戸籍・無国籍者は、そもそもの出生届が提出されていないケースが多く、女性のように幼少期のことを覚えていない人もいる。「無戸籍、無国籍は在留資格がない外国人と同じ。何の保障もなく、まともに働くこともできない」と森弁護士。「まずは女性の住所を確定させるために生活保護を申請し、その上で就籍手続きを行う」という。
相談を終えた女性は「日本国籍か在留特別許可のどちらかを取得し、フォークリフトなどの資格を取って自分が好きな建築関係の現場仕事をやりたい」と夢を語った。
越冬会場にパトカー
この日の正午過ぎ、炊き出し中の越冬会場が騒然とする事態が起きた。愛知県警の警察官が、足を痛めた高齢男性を連れてきたのだ。