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桜の季節3

前回の桜の季節はこちら。

  庄之助が一雄に語りかける。

「一雄は神木と言う言葉を知っとるか?」

「知らない。」

「神木とはな、神社などで大切に祀られている木の事を言うんじゃ。」

「へー。」

「それ以外にも100年以上生きた木には神が宿るとされていて、その木も神木と呼ばれておるんじゃ。」

「100年も!」

「じつはな、うちのこの桜の木も100年以上生きてる立派な神木なんじゃよ。」

「え!?本当!?」

「詳しくは分からんが、この木は江戸彼岸という種類でな。かれこれ300年は花を咲かせ続けとるんじゃ。凄いじゃろ!」

「300年!?すごい!」

「実はな、ワシは一度だけこの桜の木と話をした事があるんじゃよ。」

「桜の木とお話し?」

「はは、可笑しいか?」

「木が喋ったの?」

「いやいや、木が喋った訳じゃなくてな。正確にはこの桜の木の精に会ったんじゃ。」

「気のせい?」

「いやいや、木の精じゃよ。今から大体50年程前の話じゃ…。ここにある日記にも書いてある、聞かせてやろう。」

「うん!」

「50年前、わしもまだ若かった。世話をしてくれていた伯父さんにはよく迷惑をかけたもんじゃ。あの時も確か喧嘩して追い出されてな。裏から入ろうと中庭に来た時だった、風が吹いたんじゃ。」


─50年前

  中庭へ入ってきた若かりし庄之助。

「クソ!ちょっと喧嘩したくらいで締め出す事ないだろうが!」

ガチャガチャ

「ダメか!裏も鍵がかかってやがる!」

  強い風が吹き抜け桜の木の方向に気配を感じた。

「誰だ!そこにいるのは?!」

  庄之助が目を凝らしよく見るとそこには白い着物姿の人が立っていた。

「お前誰だ?ここで何してる?」

「しぃ~、落ち着いて下さい。私はここに住んでる者ですよ。」

「嘘をつくな!泥棒だな!」

「嫌だな~、いつもここに立ってるじゃないですか。この桜ですよ?」

「はぁ?桜?何言ってるんだお前、あたまおかしいんじゃないか?」

「ひどい!相変わらず口が悪いですね、庄ちゃんは。」

「どうして俺の名を?」

「覚えていますか?7歳の時、私に登って下りられなくてピーピー泣いていた事を。」

「な!どうして!?」

「17歳の時には女の子に振られて私の下で泣いてましたよね。」

「どこで見てやがったんだ!人前では絶対に泣かないと親父が死んだ時に決めたのに…、見られてたのか…。」

「あ、大丈夫ですよ私は人では無く桜の木ですから。人前ではないですよ、桜前ですね(笑)。」

「まさか?そんな馬鹿な!本当に桜の木なのか?」

「鈍いですね。さっきからそう言ってるじゃないですか、庄ちゃん。」

「気持ち悪い!そんな呼び方するな!」

「ええ~、庄ちゃんは庄ちゃんでしょ?」

「知るか!…でも信じられない、桜の木なのに人?そんな話し聞いたことない!」

「そりゃそうでしょ。こうして人前に姿を見せるのなんて初めてですから。話しかけるのも初めてですよ。他の木もこんな事してないでしょうね。」

「他の木?」

「ええ、私たち木は100年以上生きるとこうして自由に動けるんですよ。」

「知らなかった、それは驚きだな。」

「フフ。」

「でも、どうして話しかけて来たんた?他の木は話しかけたりしないんだろ?」

「他の木の事は分かりませんが、私が話しかけた理由はあなたがとても寂しそうだったから、話しかけて欲しそうだったから。」

「俺が?バカバカしい!俺は寂しくなんてねぇよ!」

「本当にそうですか?」

「しつこいな!」

「私はずっとここであなたを見ていたのですよ?」

「だったら知ってるだろう。俺はずっと1人だったんだ!1人でいる事にはもう慣れてる。」

「ええ、小さな時にご両親が亡くなり、自分の家なのに不自由な思いをしている事も。」

「それももうすぐ終わりさ!俺が成人したら伯父さん達には出て行ってもらう、俺は1人でやっていくんだ!」

「そうですか…。でも無理はしないでね庄ちゃん。辛い時は昔の様に泣きにおいで、私はいつでもここにいますから。」

  風が強く吹き桜の精は去ろうとした。ずっと1人だった庄之助は桜の精の言葉が嬉しかった。去ろうとする桜の精に庄之助は、

「ちょっと待てよ!」

「え?」

「これからも俺は人前では絶対に泣かない!これは俺の信念だ!」

「ええ。」

「それでも!…それでも、どうしても泣きたい事があったら…。泣きたくなったらここに来るよ!いいか…?」

「ええ、もちろん待っていますよ。」

  そう約束をしてニコリと笑った桜の精は消えてしまった。庄之助はいつまでも桜の木を見上げていた。

つづく


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