黒い蛾、白い蛾
自然選択の実例:工業暗化
進化心理学やその理論の基になっている進化論はしばしば机上の空論と言われることがあります。
なぜなら、進化心理学が頻繁に持ち出す進化的適応環境や進化論が説明する進化とは現在生きている人が見たことがない過去が主な舞台だからです。
しかし、進化論の中心的な概念である自然選択が実際に観察できる例は実は多くあるのです。
例えば、工業暗化という現象が自然選択の実例として広く知られています。
工業暗化とは19世紀のイギリスで工業化が進んだために、オオシモフリエダシャクという蛾の中でも、黒い個体の数が増加した現象を指します。
なぜこのような現象が見られたのでしょうか?
これを理解するためには、まず自然選択を理解する必要があります。
自然選択とは、平たく言えば、どの個体が生き残るのかをあたかも自然が選んでいるように見えることからそう名づけられています。
工業暗化の例で言えば、黒い蛾と白い蛾はどちらも元々存在していましたが、工業化が進み、大気汚染がひどくなると、黒い蛾の方は捕食者に見つかりにくくなります(白い蛾の方が目立つということ)。
そうなると、白い蛾は捕食者に多く狙われることとなり、生き残った黒い蛾たちの子孫は親の形質(黒)を受け継ぐことになるので、結果として黒い蛾が多くなるわけです。
自然選択を実際に観察できるのは基本的に工業暗化の例で見られるような蛾などの昆虫や小動物になります。
なぜなら、ヒトや象などの大きな動物は寿命が長い為、研究者が研究対象の動物に起きる変化を観測する前に寿命を迎えてしまうからです。
工業暗化の例が教えてくれることは、捕食者に見つかりにくい色の個体が生き残るなど、生き物の体の色にもしっかりとした"意味"があり、どの色の個体が生き残るかは環境次第ということです。
参考文献:
Sargent T.D., Millar C.D., Lambert D.M. (1998) The “Classical” Explanation of Industrial Melanism. In: Hecht M.K., Macintyre R.J., Clegg M.T. (eds) Evolutionary Biology. Evolutionary Biology, vol 30. Springer, Boston, MA. https://doi.org/10.1007/978-1-4899-1751-5_8