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【第23話】ふたりのせかい
「卒業したら遊園地行かへん?
…ふたりで。」
隆史(仮)からの提案だった。
ふたりで…
「行く……行く!!」
断る理由はどこにも無かった。
私は、っていうよりここらに住んでる子供が言うところの遊園地と言えば生駒山上遊園地。
お膝元に住んでいるんやから当然。
なんなら1年に1回は遠足で登ってるんやから…。
ところが…
隆史が提案したのは慣れ親しんだ生駒山上遊園地じゃなく…
私の引っ越し先、隣の市にあるちょっと珍しい遊園地。
あやめ池遊園地だった。
その名の通り、あやめ池を取り囲むようにして展開されている駅前遊園地である。
思いっきり住宅街でもあるわけやけど、平日には普通列車しか止まらなくて土日祝日と長期休暇の間だけ急行列車も停車駅になっていた。
現在は取り壊され跡地には私立の小学校が建っているけど池は健在。
隆史がここを選んだのには2つの理由があった。
卒業式が終わって2日後には引っ越しの私が生駒山上遊園地だと距離的に遠くなる。
あやめ池遊園地なら沿線上のほぼ真ん中に位置するので互いに移動距離が変わらない。
そして最大の理由は恐らくこれ。
2人のことを知ってる人がいない(はず)。
あやめ池遊園地を提案した隆史には今でも最高の賛辞を送りたいと思ってる。
今考えても慣れ親しんだ遊園地より、2人のことを知ってる人がいないであろう遊園地のほうが断然いい。
最初で最後のデートになるような気がしてたから、せめて誰の目も気にせず過ごしたい。
口に出さずとも2人の想いは同じだった。
卒業式までの間、学校が終わったら隆史と計画を練った。
親に嘘をついて行こう。
親に嘘をついて資金調達しよう。
帰る時間は決めないでいよう。
気が済むまで2人で遊ぼう。
そして私が自分だけに課した決めた事。
隆史の前で泣かない。
笑顔だけ覚えていて欲しかった。
卒業式、担任やクラスメイトには適当に別れを告げワンワン泣いてる女子達を横目に親と家に帰った。
引っ越しを恨めしく思っている感を醸し出しながら、帰り道で交渉を開始した。
ソフトボールのチームメイト全員で生駒山上遊園地に行くから参加の許可と金くれ。
まぁこんなところである。
引っ越した後にあるから電車代とか多めにくれ。
負い目があるからか案外簡単に許可され、そこそこの金額も渡された。
店の手伝いでコツコツ貯めていたお金を放出する隆史とはえらい違いである。
そうそう。
1年の時に取っ組み合いの喧嘩をした山之内とは最後まで話すことはなかった。
後日談として中学進学と共に別の施設へ行ったとか。
竜は、2番目に好きな男かと思っていたけど結果的に違っていた。
楽しいだけで、顔も好みやったかもしれんけど、あくまでそれだけやった。
離れることに悲しくもなく、バイバイの一言で終わる程度。
1番目に好きなのが隆史ではなく、隆史だけ。
身をもって知った。
引っ越しの前日、両親は出掛けた。
私と弟とおばあちゃん、おじいちゃんの4人で夜ご飯を食べた。
久しぶりのおばあちゃんのご飯。
おばあちゃんが言った。
「最後の晩餐やなぁ…」
その意味は当時分からなかったけど、悲しい意味を持つ言葉だということは分かった。
おばあちゃん、泣いてたから。
意味を知ったときはショックやったな。
泣きそうになった私はまたトイレに駆け込んだ。
引っ越しの朝、おじいちゃんがお小遣いをくれた。
隆史との計画に使う資金に組み込まれたのは言うまでもなく…。
私は泣きながらチビに暫しの別れを告げた。
またすぐ来るからと。
おばあちゃんとおじいちゃんにも同じことを言った。
残される方が辛いと今なら思うけど、思い図る余裕は無かったな。
そしていよいよ決行の時である。
隆史との約束、引っ越して初めての日曜日、朝10時にあやめ池遊園地のチケット売場の前。
何があってもこの日この時間に、互いが必ず行くから、待ってるからと。
生涯で忘れられない1日。
<当時のあやめ池遊園地>
ここで小学校生活が本当の意味で終わりを迎える。
私は少し早めに家を出た。
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