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【第22話】離れても…

楽しい時間だけを共有する竜(仮)。

小6ながらも精神的な繋がりを確信する隆史(仮)。

小学校生活も終盤となると通っていた小学校がとんでもなく広い校区だった為に卒業すると離ればなれになる子が出てくるので女子がソワソワしだす。

告白するだの、しないだのと。

相談を受けると私は2つ返事で…

盗られる前にツバつけとけ。

(要約)告白することでうまくいかなくても意識させることが出来る。

と、告白を勧めた。

中学で別々になるなら尚更である。

その気はなくても自分のことを好きやと言う女の子がいることは忘れないはず。

意識させる事が大事ということは何となく分かっていた。

とはいえ私は竜に告白はしなかった。

お互い好きというのは分かっていたからか…

何より私は、何かあるなら隆史やと思っていた。

何か…というのは、合宿最後の夜に抱き寄せあったその続き的なこと。

中学生になっても隆史とは続いていくと思っていたから、続いたその延長線上にあることだろうと。

スイミングもそろばん教室も卒業と同時に終了となる。

でも中学校は、これまた広い校区のお陰で隆とは同じ中学に行ける。

竜とは別々の中学。

それを悲しいとは思わなかったし、未練も無かった。

3学期に制服の採寸も済ませて、小1の時のような引っ越しで疎外感を味わうことはもう無いと安心していた…

が…。

またしても、大人の事情は水面下で動いていたのである。


卒業式を来月に控えた2月初旬の日曜日。

両親から話があると言われた。

引っ越すから。

また?!

オトン、オカン、私、弟。

この4人で隣の市に引っ越すと。

チビは?!

鶏はすでに虹の橋を渡っていた。

マンションやから置いてく。

置いてく??

置いてくの一言で、全てを悟った。

おじいちゃんとおばあちゃんは、ここに残るんや。

そして引っ越す理由は一つ。

嫁姑戦争

問題が戦争になっていたのは分かってましたけどもね。

今度はちゃんとあんたの卒業と入学に合わせたから。

いやいや、そういう問題じゃない。

おじいちゃんとおばあちゃんと暮らす!

と言ったらアホかと一蹴。

アホはどっちやねん、どこまで親の都合で振り回す気やねん。

目の前が真っ黒

とは、この事かと。

すっかりナリを潜めていた闇の部分がまた心の隅っこから侵食を始めていた。

掃除してもしても生えてくるカビの如く。

根っこがやっかいよね。


次の週の日曜日には引っ越し先の中学が委託している制服業者の所にいた。

今なら隣の市くらい何でもない。

でも当時は携帯どころかポケベルもない、ましてや12才。

引っ越すことは別れと同じ。

引っ越すことを聞いた1週間、隆史には何も言えずにいた。

誰にも引っ越すことを言えなかった。

ところが、余計なことをしてくれるやつはどこにでもいるもので…

さすがに近所の人間は引っ越しを知っていて、そのなかには同級生もいた。

運悪く隆と同じクラスだったそいつは、私が引っ越すことを吹聴して回っていた。

私が引っ越しを聞いてから10日ほど経ったスイミングの帰り道、隆史が切り出した。

ほんまに引っ越すんか?

ビクッ…

うん…。

誰かから聞く前に自分の口から言いたかった、早く言えば良かったと後悔した。

そのまま2人、無言のまま歩いた。

離れたらどうなるのか、電車なら同じ沿線やけどリアルに距離が出来たらどうなるのか…

2人とも分からなかった。

だから何も言えなかった。

目を見て話せる距離から手紙のやり取りとか何故か話題にもならず…

離れても…大丈夫…

互いに捻り出した精一杯の言葉。

大丈夫じゃない予感…

離れたら終わるんやったらそれまでよ。

とか豪語するのはまだ何年も先の私の話で、12才の2人には距離を埋める自信が無かったんやろう。

刻一刻と過ぎていく日々、引っ越しまでのカウントダウン。

崖に向かって一歩ずつ歩いていく感覚。

親を恨んだ。

再び恨んだ…というべきか。

おばあちゃんは、しょっちゅう泣いていた。

いつでも遊びにおいでと、電車に乗って。

おばあちゃんの泣き顔を見て私も泣きそうになる。

その度にトイレに駆け込んだ。


そして小学校最後のそろばん教室の帰り道、隆史からある提案を持ち掛けられた。


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読んで頂きありがとうございました!

もう引っ越しはしたくないなぁ…

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