【第20話】乱(れる)心
一緒に暮らしているおじいちゃんは球が丸いスポーツ全般が得意だった。
初孫の私が生まれて女だと分かった瞬間、叩き込むのは野球からソフトボールへとシフトチェンジしていた。
市内の各町内会や子供会にはソフトボールクラブがあり、当然のごとく入会を余儀なくされてほとんど毎週日曜日は練習していた。
おじいちゃんからの英才教育と元々スポーツ好きなのもあって学年の制限が無い練習試合には割りと早い学年から参加していた。
まぁそこらの女子に負けるわけもなかった、力が違う。
そしていよいよ5年生。
ソフトボールクラブの公式試合は5年生から参加可能となり、ことある事にトーナメント戦等の試合が開催されていたので私も当然選手にエントリー。
晴れて公式試合デビューとなった。
初めての公式戦は広いグラウンドに出向いての試合だった。
女子のキャッキャウフフは苦手やけど、ソフトボールの試合ともなればそれは無し。
結構ピリピリして、新5年生を値踏みし牽制しあっていた。
そういう空気は大好き。
試合の準備をして体をほぐしているときだった。
グラウンドのフェンスの向こうに見覚えのある顔。
…?
隣の席の無愛想なアイツ、竜(仮)だった。
目が合ったけど、相変わらずの無愛想。
(スルーかよ)
ま、いいけど。
敵チームのスタメン表を見ると竜と同じ名字の6年生がいた。
年子の姉がいるってことか。
そうやって兄弟の応援にきている子は多かったので、竜もそのクチだった。
割りと広いグラウンドで8つのクラブチームが来ていた中、こういうクラブ活動にガチになる選手の親があちこち走り回り各々の敵チームを観察していたのを覚えている。
ガツンとかましたる。
根っからの戦闘好きである。
もちろんうちのおじいちゃんも観にきていた。
孫の公式試合デビューやからね。
いよいよ試合開始、対戦相手は竜の姉がいるクラブチーム。
私はピッチャーで4番打者。
英才教育で物心つく前からボールを触っていたのと虫取りで鍛えた手足、石壁も軽々登る…
人生で一番、自信に満ち溢れていた時期だった。
初めての試合は緊張どころか解き放たれた野獣の如し。
完封ではなかったけど、一点も取られることはなくホームランもぶっぱなして華々しくチームは勝利を得た。
敵チームのピッチャー、竜の姉が負けて泣いていた。
泣くほど悔しい気持ちは分かる、そのうち私も味わうやろう。
明日、竜と顔を合わせるのが気まずいなぁと思うくらいには私も成長していた。
少し人の気持ちを思い図るくらいにはね…
私は竜に背を向けるように、笑顔で手を振るおじいちゃんの元へ走った。
翌日、いつものように教室に入り席についた。
それに気付いた竜が駆け寄ってきた。
私は身構えた。
もちろん文句を言われる筋合いは無い、勝負の世界やしね。
でも覚悟はしておきた…
「おまえ、昨日凄かったなぁ!!」
キラキラした笑顔でそう言った。
…!?!?
昨日までの無愛想はどこにいった?!
「いやでも、あんたの姉ちゃん泣いて…」
竜は遮るように続けた。
「ええねんええねん、あいついつも自信満々でなぁー」
おっと、耳が痛い(笑)
私も自信満々やったけど、とは言えず。
おはようの挨拶をする間柄もすっ飛ばして、それから私と竜は性別を越えた友達…
おや、どこかで聞いたハジマリやなぁ。
でも隆史の時とは違う。
私は無愛想から突然キラキラした笑顔で話し出した竜の顔を好きやなぁと思っていた。
小学5年生の私…隆史がいるから他の子を好きにならない、好きになるのはオカシイ…
そこまで明確な事は当時は考えて無かったけど、何となく隆史に対しての罪悪感が芽生えていたのは覚えている。
色んな想いや出来事を重ねて一緒にいたいから好きやと思ったのが隆史。
無愛想からの反則笑顔で、いわゆる一目惚れ状態の竜。
無邪気な小5のご乱心。
両想いと片想い、燃えるのは片想いなんですよねーと言うのは今の私。
おそらくそんな体質になったのは、この時がキッカケだったに違いない。
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読んで頂きありがとうございました!
まだまだ、雨が続く(;´Д⊂)
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