【第24話】最初で最後(後編)
チケット売場を出て、長い長い橋を渡ったら遊園地が広がる。
周りを取り囲む池には白鳥のボートがプカプカ。
(ほんと不思議な空間、今はもう無いのが悔やまれる。)
乗り物が大好きな2人やったけど、流行る気持ちを押さえてゆっくり手を繋ぎながら橋を渡った。
あやめ池遊園地は初めてではない。
でも何もかもが違って見えた。
ありきたりやけど、誰と来るかでこうも違うものかと。
数年後、距離に負けない年齢になって…そこで初めて出会っていたら…
恐らく好きにはなっていない。
当時の私も今の私も、そこには確固たる自信があった。
距離に負けてしまうような、綱渡りのような…そんな時に出会って深まった絆やからこそ…
側にいないと脆い。
客観的にみても本当に切ない。
だからこそ、最初で最後の今日は全てを焼き付けて全力で楽しまないと…
これから待ち受けるたくさんの苦難のなかで一筋の光りになるような…
橋を渡りきり、手を繋いだままどちらからともなく小走りで向かったのはジェットコースター。
計画を立てたときに2人して乗ろうと決めていた。
並ぶ時間も、少しの沈黙はありつつもこの後何乗るとか何食べるとか…その日の話だけをした。
順番が来て先頭を陣取った。
発車の合図と共に頂点に向かっていく途中、安全バーを両手で掴んでいた私に隆史(仮)が右手を差し出した。
私も左手を差し出して、また手を繋いだ。
一生、ずっと繋いでいれる手じゃないと分かっていたからこそ今日はずっと繋いでいたかったのかも…
たぶんお互いに…
頂点から真っ逆さまに落ちると2人でバンザイしながらとにかく笑った。
楽しくて幸せで仕方なかった、あの時の気持ちは今でもはっきりと覚えている。
後でまたこれに乗ろうと言いながら奥へと進み、次に乗ったのは…
定番のブランコ。
奥に見える家は民家、すごいとこよね(笑)
ここは別々に座ることになったけど、回転中も互いの顔を見ながら笑いあった。
次はブランコからすぐ近くにある…
手前のジェットコースターと奥のサークル。
手を繋げるところは必ず手を繋いでいた、そんなところを高校生カップルに茶化されたりもした。
気恥ずかしさは一切無くて私と隆史は笑顔で応対した。
2人でここは外せないと言って向かったのは絶叫系でも高所系でもなく…
いわゆるビックリハウス(笑)
鏡だけの部屋やったり、全てが逆さまやったり。
ここで一生2人で迷っていたい気持ちにさせられた。
そんな素振りは微塵にも出さなかったけど、2人だけでいれるならそれもいいと。
もちろん、子供だましのアトラクション。
そこはあっさりとクリアしてしまう。
ちょこちょこと乗り物に乗って、12時を少し回った頃…
お腹空いたなと2人で遊園地にありがちなポテトやハンバーガーを買って芝生に座り分け合いながら食べた。
良い天気で、芝生の上で食べるご飯はとても美味しかった。
学校帰りの公園で2人で食べるオヤツとは全く違った。
昼からも何度も同じ乗り物に乗った。
お化け屋敷もいった、2人でゲラゲラ笑いながら作り物のお化けを堪能した。
まだ日が落ちるのが少し早い時期、夕方には少しづつ空がオレンジに染まっていった。
池のボートを眺めながら、手を繋ぎボーッとしていた。
だんだん、だんだん、オレンジが濃くなっていく。
次に乗るものが最後かもしれない、そんな時間だった。
たくさんアトラクションがあるなかで、1つだけ乗っていないものがあった。
これは計画を立てたときに決めていた、最後に乗るのはこれにしようと。
なぜかお互いにそう思っていて、当日もそれは揺るがなかった。
…観覧車。
小学生の2人にはとても大きく見えたけど、今ならこじんまりした観覧車かな。
観覧車に乗ろう、これを言えばもう遊園地は終わり。
閉園時間を知らせるアナウンスが聞こえる、もういかないと乗れなくなる。
言わんと…
そう思って隆史の顔を見たとき、隆史も私を見た。
「…いこうか。」
同じタイミングで切り出した。
互いに繋いだ手をギュッと強く握り直した。
もう笑顔が辛くなっていた、2人とも下を向いていた。
観覧車に並び、自分達の番になったとき係のおっちゃんが向かい合って座るように言った。
言われるまま向かい合って座ったとき、いつも横にいた隆史が前にいることに違和感を感じた。
いつも横にいて、今は前にいて、これが終わったら背中を見てサヨナラ…
扉を閉めて、段々と上に上がっていくと隆史が立ち上がり横に座った。
そしてまた手を繋いだ。
夕陽が嫌みなほどキレイで眩しい。
眩しくて少し目を反らすように顔を隆史の方に向けた。
隆史も顔をこちらに向けた。
「眩しいなぁ~」
と2人で笑いあった。
そう、これが一番落ち着く。
横にいて笑い合う…最後かもしれんけど。
頂上に差し掛かったとき、夕陽の眩しさも頂点に達した。
そして、お互いに顔を寄せ合い眩しさから逃れるように目を閉じ…
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読んで頂きありがとうございました。
このときのことは、思い出すと手が止まりを繰り返してしまいました(^^;
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