八潮市の陥没事故を受けて

この事故の件、上下水道インフラを生業としている人間としては何かしら書いておきたいな、ということはずっと思っていました。ただ、ただただ悲しくて中々書けずにいたのですが、まとめて書きます。

管路のメンテナンスが進まない理由

いわゆる「ヒト」「カネ」「モノ」と言われる問題が理由であると言えますが、もう少し詳しく。

「カネ」の問題
まずはここに尽きます。管路の耐用年数は40〜50年とされる中、年2%更新しないと維持できない管路の更新は全国平均で年1%を切っています。企業の研究開発により、管路を補強して耐用年数を100年程度まで引き延ばす技術も出て来ていますが、更新にしろ延命化にしろ、金がなければ工事はできません。こうした工事は自治体から発注され、民間事業者が入札・受注し業務を遂行するわけですが、金がなければ発注できないのです。上下水道事業は「独立採算制」を採っており、原則上下水道の使用料金で事業を成立させなければなりません。(正確には国県の補助金や借入金などにより収入は得ています。)ですが、水道料金は電気料金ほど上がってない、と感じている方は多いのではないのでしょうか。また、使用量に応じ徴収するため、昨今の節水、また人口減による使用量減により、収入は減っている自治体が多いと認識しています。一方で物価上昇・賃金上昇に伴い工事に係る費用は著しく増加しています。
さて、ではどうしたらいいかというと根本的解決には水道料金を上げるしかない、というのが基本路線です。ニュースでは2050年までに料金を平均3倍しないと維持できないという報道もありましたが、この業界に携わっている人からはそれでも足りない、という声も耳にします。果たして自治体は料金を上げられるのでしょうか。まず自治体側から考えると、特に首長は消極的にならざるを得ないと言えます。選挙に悪影響が出ますから。管路の問題は多少先延ばしにしても大丈夫、と考える政治家は多い気がします。(そして強ち完全に間違っているわけでもないという。全国で毎日複数件陥没は起きていますが、事故には大してならない規模がほとんどなのです。)そして住民。まず言うでしょう。「値上げはやめて」と。こうして先延ばしにされ続けて、高度経済成長から60年、できあがったのが老朽化インフラ大国日本です。
この改革に必要なものの例としては、国レベルでの強力なリーダーシップが必要です。簡単に言えば石破首相が「水道料金を全国的に上げるよう自治体に強く要請する」と表明する、とか。他責であれば首長は動くようになります。下水道を緊急調査しろ、とかそんなこと言ってる場合じゃないのです。来年度予算の上下水道に係る予算、なぜ今年度予算と1円たりとも変化していないのでしょうか。

そして「ヒト」の問題
ぶっちゃければ、カネがあっても工事はできません。ヒトが足りないからです。民間事業者も、魅力的な仕事は激しい競争になりますが、見向きもされず、公告されたのにも関わらず不調になり先延ばしにされる事業も多くなりつつあります。業界にいて思うのはやはり給料水準。官需の仕事は儲けが少ない。元を辿れば税金なので。やはり「カネ」に帰着するかがします。あと業界の人には失礼ですが、イノベーションが足りない。カネがないので優秀な人材が足りない。個人的は事業会社が有象無象のコンサルより給料低いのは現代の大きな課題に感じています。

まとまりませんが、一旦こんなところで。本当はもっと色んなことを書きたいですが。
今回の事故では悲しみも強く感じましたが、それ以上に水インフラを取り巻く状況に改めて怒りを覚えました。そして対応にあたり批判にさらされているであろう自治体職員の方には頭が上がりません。この事故をきっかけに、事業・業界全体の課題が広く知られ、変革していく流れになって欲しいです。特に上下水道は電気・ガス以上に事業スパンが長く、変革が起こしにくい事業です。あって当たり前ではなく、多くの人の苦労によりなんとか維持されている現状が広まり、関心を持ち続けていただけるとまだ救いはあるのではないかと思います。最後に、絶望的ではありますが被災者の救出が一刻も早くなされることを祈っております。

※出典はないです、所々誤りがある可能性は正直あります。すみません仕事じゃないので。フェイタルなミスあればコメントください。有識者がnoteにはたくさるいると思うので。


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