第4回:トラウマインフォームドケア(TIC)の視点と日常支援
はじめに:トラウマのメガネをかける支援
社会的養護の現場では、過去の虐待や家庭環境から心の傷(トラウマ)を抱えた利用者も少なくありません。その影響は一見わかりづらく、表面的な行動や言葉となって現れることがあります。
支援者が「トラウマのメガネ」をかけることで、利用者の行動や反応を「単なる問題行動」ではなく、「過去の経験が影響しているかもしれない」と理解する姿勢が生まれます。この視点が、利用者に安心感を与え、信頼関係を築くための重要な鍵になります。
トラウマインフォームドケア(TIC)の4つの柱
安全性の確保
利用者が身体的・心理的に安心できる環境を提供します。
信頼性と透明性
支援者が一貫した態度を持ち、利用者との信頼関係を築きます。
選択と協働
利用者が自分のペースで意思を示し、支援に参加できる環境をつくります。
トラウマの影響を理解する
利用者の行動や感情の背景にあるトラウマを理解し、そのまま受け止めます。
日常支援での具体的なアプローチ
「怒りや反発の背景を想像する」
怒りや反発は単なる反抗ではなく、「過去に否定された経験への防衛反応」であることがあります。実例:Aさんの場合
Aさんは支援者が他者の気持ちを説明した際、「なんでそんなこと言うの!」と怒りを爆発させました。支援者は「今すぐ話さなくてもいいよ。落ち着いたら聞かせてね」と伝え、理由を追及しませんでした。後日、Aさんは「昔、無理に言うことを聞かされたのを思い出して嫌だった」と話しました。
「沈黙を尊重する」
沈黙は「何も話したくない」ではなく、「話すことで傷つくことへの恐れ」が背景にあることがあります。実例:Bさんの場合
Bさんは支援者の問いかけに対して無言でいることが多くありました。支援者は「話さなくても一緒にいるだけでいいよ」と伝えました。数週間後、Bさんは「今日は少し話してみる」と自分から話し始めました。
「突然の感情変化に驚かない」
トラウマの影響で、利用者が予期せぬ場面で涙を流したり感情的になることがあります。実例:Cさんの場合
Cさんが話しをしている際に、突然涙を流し始めました。支援者は「ここで泣いても大丈夫だよ」と伝え、Cさんが安心して感情を表現できるよう寄り添いました。
支援者が感情的に疲弊しないための工夫
「トラウマのメガネ」を外す時間を持つ
支援者が常にトラウマを意識しすぎると疲弊します。趣味や家族との時間など、自分に戻る時間を大切にしましょう。「完璧な支援者でいなくてもいい」と認める
支援者自身も「今日はうまくいかなかったけれど、それでいい」と自分を許す姿勢を持つことが重要です。小さな肯定を自分にも向ける
利用者が話さなくても、「今日一緒に時間を過ごせただけで十分」という視点を持ちましょう。支援者同士で話す場をつくる
他の支援者と日々の思いや困難を共有することで、気持ちが軽くなることがあります。
まとめ:トラウマのメガネをかけ、安心感を提供する支援
支援者がトラウマのメガネをかけることで、利用者の行動を否定せず、そのまま受け止めることができます。そして、支援者自身も「自分のままで大丈夫」と感じられる環境をつくることで、長く持続可能な支援が可能になります。
次回は、「支援者と多職種連携がもたらす力」をテーマに、チームで支援を行う意義と実践方法について掘り下げていきます。
あなたへの質問
あなたの支援現場で、トラウマのメガネを意識している場面はありますか?
次回もぜひご覧ください!