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「木を見て森を見ず」―社会的養護の現場から考える支援の本質

児童養護施設や自立援助ホームなどの社会的養護の現場では、子ども一人ひとりに寄り添う支援が求められます。しかし、目の前の支援に集中しすぎると、支援の本来の目的や子どもの将来を見失ってしまうことがあります。

私が児童養護施設で働き始めた頃、目の前の子どもたちの課題に全力で向き合っていました。学校でトラブルを起こせばすぐに話を聞き、進路に悩む子には夜遅くまで相談に乗る――そうした支援を続ける中で、ある上司の言葉が今も心に残っています。

「支援は、その場しのぎの対応ではなく、もっと先を見据えたものであるべきだよね。」

最初はピンときませんでしたが、上司は続けました。

「目の前の子どもにしっかり寄り添うことは大切だけれど、支援の先にどんな未来があるのかも考えたいよね。」

この言葉に、私ははっとしました。目の前の支援に集中するあまり、子どもが自立するための長期的な視点を持てていなかったのです。


「森を見渡す視点」を持つことの大切さ

この経験をきっかけに、私は「短期・中期・長期」の視点で支援を考えるようになりました。

たとえば、ある子が「大学に行きたい」と希望したとします。以前の私は学習支援を手厚くすることばかり考えていました。しかし、本当に大切なのは以下のような視点です。

  • なぜ進学を希望しているのか?(目的の明確化)

  • 学費や生活費はどうするのか?(経済的な準備)

  • 卒業後の生活設計は?(将来を見据えた支援)

目の前の支援に集中しすぎると、「とりあえず進学できたけれど、その後の生活が厳しくなってしまった」といった状況に陥ることもあります。支援者として大切なのは、子どもが将来、自分の力で生きていけるようにサポートすることなのです。

ただし、支援者が意思決定をするのではありません。意思決定をするのは本人であり、支援者はその選択を支える立場であるべきです。子どもが自ら考え、納得したうえで進む道を選べるよう、情報提供やサポートを行うことが求められます。


「木」と「森」のバランスを取るために

「木を見て森を見ず」にならないためには、以下のポイントを意識することが重要です。

1. 短期・中期・長期の視点を持つ

目の前の課題だけでなく、半年後・1年後・5年後を見据えた支援を考え、長期的な成長をサポートする。

2. チームで情報を共有する

支援が一人の視点に偏らないように、スタッフ間で情報を共有し、多角的な視点で支援を行う。

3. 現場の枠を超えた視点を持つ

自分の施設内だけでなく、他の施設や地域、社会全体の動向を知ることで、より効果的な支援を行う。


「森を見て、その中の木を支える」

「木を見て森を見ず」とは、一つの物事にとらわれすぎて全体像を見失うことを指します。しかし、社会的養護の現場で求められるのは、「森全体を見た上で、その中の木をしっかり支えること」ではないでしょうか。

子ども一人ひとりに丁寧に向き合いながらも、支援全体の方向性を見失わないことが、子どもたちのより良い未来につながります。

上司の言葉をきっかけに、私は「支援の本質」を見つめ直しました。そして今も、「木と森のバランスを考えながら支援すること」を大切にしています。

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