ライフストーリーワークを通じて子どもと歩む旅
社会的養護の現場では、宿泊旅行を行事として行うことがありますが、その方法は施設ごとに異なります。私が特にこだわっていたのは、一人ひとりの子どもの意見を尊重し、それを旅の計画に反映させることです。今回は、子どもと私の個別旅行という形で、彼の希望を叶える特別な旅を企画しました。
思い出深い旅:生まれた場所を巡るライフストーリーワーク
この旅では、子どもの生まれ育った場所や過去の思い出が詰まった場所を巡ることを目的としました。ある子どもと共に、彼の生まれた町を訪れることになり、彼は「小学校の先生に会いたい」という願いを話してくれました。
旅の計画段階から、彼と一緒に訪問する場所や道順を考えました。「どの道を通るか」「昔住んでいた家を見に行きたい」といった希望を聞きながら、彼の思い出をたどるルートを決めました。移動は自動車を使い、彼が「この通学路は友だちとよく通ったなあ」「この公園で遊んだことがある」と、車内で思い出話をたくさんしてくれました。その一言一言が、彼にとっての大切な記憶を辿る時間になっていると感じました。
サプライズの再会と感動の瞬間
旅のハイライトは、彼の通っていた小学校でのサプライズ再会でした。私たちが小学校を訪れると、昔の担任の先生が彼を迎えてくれました。しかし、それだけではありません。先生が彼のために、当時仲良くしていた友人たちとの再会の場を用意してくださっていたのです。彼は友人たちの姿を見た瞬間、驚きと感動で涙をこぼしていました。
その後、校庭で再会を喜び合う彼と友人たちの姿を見ながら、私も胸が熱くなりました。彼らは昔の思い出話に花を咲かせ、「あの頃の自分たちは、こんなふうに笑っていたんだね」と懐かしそうに笑い合っていました。「またみんなに会えるなんて思ってもいなかった」と彼が語る姿を見て、この旅が彼にとって大きな意味を持つものになったと感じました。
旅館と温泉で過ごす「気持ちの整理の時間」
再会の喜びを胸に、小学校を後にした私たちは、温泉旅館に向かいました。宿泊場所として選んだのは、自然に囲まれた静かな温泉旅館です。ここでの時間が、彼にとって心を落ち着け、過去を振り返る「気持ちの整理の時間」になればと思い、この旅館を選びました。
旅館に着くと、彼は「ここならゆっくりできそう」と言って、早速温泉へ。温かいお湯に浸かりながら、彼はその日の出来事や昔の思い出について語り始めました。「友だちに会えて、本当に嬉しかった」「先生も僕のことを覚えてくれていた」と、満面の笑みを浮かべながら話す彼の姿が印象的でした。
また、温泉から上がった後、彼は旅館の静かな和室でくつろぎながら、地元の季節の食材を使った豪華な懐石料理を楽しみました。普段は味わえない料理に感激しつつ、「こんなふうに過去を振り返りながらゆっくりするのは初めてだ」と語る彼の姿を見て、特別な時間を共有できたことに私も喜びを感じました。
事前準備やその後の会話も旅の一部
この旅の素晴らしさは、事前準備や旅が終わった後の会話も、旅の一部として続いていることです。彼と一緒にどの場所を訪れたいか、どんなことをしたいかを話し合った時間は、彼自身が自分の過去を見つめ直す貴重な機会になりました。
そして、旅が終わった後も、彼とその時の思い出を振り返る機会がたびたびありました。再会した時に、「あの時の友だちとは今でも連絡を取り合っているんだ」と嬉しそうに教えてくれたり、旅の話が今でも話題に上がります。「あの旅のことを話していると、またあの時に戻ったみたいだ」と彼が語る瞬間は、私たちにとっても、旅が今も続いていると感じる時間です。
ライフストーリーワークを通じた特別な旅の価値
このように、ライフストーリーワークを取り入れた個別旅行は、単なる観光ではなく、子どもにとって自分の過去と対話するための機会となりました。自分の生まれた場所を訪れ、昔の人々と再会することで、彼が「自分の物語」に向き合い、そこから新たな自分を見つける手助けができたと感じています。
例えば、旅の帰り道で彼が「自分の人生も捨てたもんじゃないな」とつぶやいた瞬間、私はこの旅が彼にとって、過去を受け入れ、新しい一歩を踏み出すきっかけになったのだと強く感じました。旅は一時の楽しみではなく、彼にとって未来に繋がるものだと確信しました。
まとめ
私の「こだわり旅」は、子どもたちと一緒に過去を見つめ、未来へと歩みを進めるための時間を共有することです。ライフストーリーワークを通じたこの個別旅行は、ただ楽しいだけではなく、子どもが自分自身を理解し、前進する力を得る機会になりました。これからも、心に深く刻まれるような、子どもたちと共に歩む旅を大切にしていきたいと思っています。