ねぇねぇ ずっと離さないで
11歳だった私は男性アイドルに夢中になった。
毎月雑誌を買い、付録のポスターを天井付近にまで貼って、見上げれば彼と目が合い、心が舞い上がる日々。
今考えると非常に恥ずかしく、よく見ると部屋の壁には多数の穴が空いていた。
私は彼が出演するテレビ番組をほとんど見ていた。
途中、自分が今どんな表情で彼を見ているのかが気になり、
表情が読まれないよう画面に映る彼を睨みつけるような目で見ていた。
そんな彼が出演するドラマには、後に私が彼以上に好きになる
クリープハイプが主題歌を担当していた。
相変わらずそのドラマも睨みつけるような目で見て、私と彼の関係も無事に最終回を迎えた。
その数年後。
14歳で私はスマホを手に入れた。
インターネットの世界は広いのに、
人と人との距離がやたら近かった。
一通りスマホの扱いに慣れた私は、友達としか見ることができなかったYoutubeを開き、ラジオでしか聞くことができなかった曲のMVを再生して、「この感動が何度も味わえるなんて…!」と興奮した。
そこでふと思い出した、“あの曲”の存在。
リズミカルで耳に残って離れないギターリフとベースライン。
そして淡々としていて、でも泣き叫ぶような声と音で
胸ぐらを掴まれた気分になるボーカルの歌声とドラム。
ドラマのタイトルを検索エンジンに引っ掛けると、3秒もたたずに簡単に見つかった。
YouTubeへのリンクに飛んでMVを見て曲を聞いた。
様々な箇所で音に追いかけられていると思ったのもつかの間、
あれは音ではなくコーラスの声だと分かった途端ハッとした。
さっきは記憶を頼りに私が曲を捕まえたのに。
警告音だと思って何も考えずにいたら人間の声で、気づけば彼らの曲に捕まっていた。
それから2ヶ月後。
私はCDを買うことを覚えた。
2歳年上の姉が大人みたいな顔をしてCDを買う姿と、それを見る母の横顔を交互に眺めた。
値段が高いものはほとんど買わない母に
「高いからそんなものは買うんじゃないよ」とつねられるのでは、と姉の心配をしていたらそんなことは無かった。
むしろ「CDを買う歳になったのね」と我が子の成長を喜ぶような見方をしていた。
それならば次は私の番。
普段貰うお小遣いの倍で売られているCDを手に取り、レジのおじさんにお会計をしてもらう、少し背伸びした私。
手にとったのは一番新しい曲が聴きたかったから、「泣きたくなるほど嬉しい日々に」初回限定盤を購入した。
レジ袋をサービスでつけてくれる時代だったから、ビニールから透けて見える丸い缶のケースを見ては嬉しくなった。
家に帰ってきてから一番の楽しみだったCDをラジオ機能しか使ったことのないラジカセで初めて聴いた。
カチッと力を入れて押さなければ収まらないCDをいつかはバリンと嫌な音を立てて割ってしまうのではないかと思い、壊れないよう慎重に収めて蓋を締めた。
両手に収まるほどの小さくて丸い歌詞カードを開き、ラジカセから流れる曲に合わせて歌詞を目で追いかける。
その行為が本当に愛しくて、音楽の聴かれ方が変わる今この時代でも大事にしている。
あれから数年後。
母からようやく承諾を得た。
高い買い物はほとんどしない母へ、毎月会費を払うことを条件に太客倶楽部へ入会。
クリープハイプのお客さんを凄く大事にしてくれていることが伝わる愛のあるコンテンツだらけで多幸感に包まれる毎日。
そしてこの企画の締切日に18歳になる私。
来年からは実家を離れて遠くの町で一人暮らしをする。
私の生活には嘘みたいにクリープハイプが大きく関係していて、クリープハイプがいるから人生が楽しくなる。
クリープハイプの存在は何にも変えられない。
これから先の人生もクリープハイプと歳を重ねていきたい。
死ぬまでクリープハイプから離れないよう掴まっています。
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