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7/8 ニュースなスペイン語 Carne de cañón:砲弾の餌食
闇が深い問題なので、今回はそのイントロだけ。
先週3日の深夜、マドリード市の繁華街にあるピザ屋(pizzerías)で発砲事件(tironeo)があり、入口付近にいた3人が至近距離(a bocajarro)で銃撃され、21歳の少年が重体となり(de gravedad)、病院に搬送された。
警察は発砲した人物(autor)の行方を追っているが、捜索関係者の間では、今回の事件は「ドミニカンズ・ドント・プレイ(Dominicans Don't Play)」 と「トリニタリオス(Trinitarios)」というふたつのラテンアメリカ出身者がつくる不良集団(bandas latinas)の抗争(reyerta)・報復合戦(ajuste de cuentas)との見方が優勢。
これらふたつのグループについては、2021年4月3日の小欄でも取り上げたことがあるが、対立関係(rivalidad)が代々受け継がれる(se hereda)というのだから、抗争が終わることはない。
そして、今回、また、抗争の新たなタネが撒かれてしまった。
しかも、その抗争の原因については、メンバーの大方が知らない(enfrentados entre sí por motivos que muchos de sus integrantes desconocen)というのだから、何とも不思議。
何故相手を殺るのかの理由が分からないまま、とにかく、拳銃を手に敵方のアジトに送り込まれる。
Carne de cañón(砲弾の餌食;原義は「砲弾の肉」)――。
訳も分からず、相手方に特攻を命じられる若者たちをこんな風に呼ぶ。
古くはウィリアム・シェイクスピア(William Shakespeare)の『ヘンリー四世(1597?)』に、「canon fodder(砲弾の飼料)」という表現があるらしい。
スペイン語の方は、語の造りから察するに、フランス語の「chair à canon(砲弾の肉)」と同じ発想だろう。
ウクライナ戦争に参加したロシア兵の口から「多くの若者が大砲の餌にされたのか」と憤っていたという読売新聞の記事もあるので、英語やフランス語以外にもある発想みたいだ(日本語では、行ったら戻ってこないという意味で「鉄砲玉」という表現が任侠の世界にはあるそうな…)。
それはさておき……。
2000年の初頭、スペインには「ラティン・キングス(Latin Kings)」という不良グループがあり、これが暴力的で、組織化された、影響力のある(violentos, organizados e influyentes)集団としては、パイオニア的存在(pionero)だったらしい。
ラティン・キングスが発足した当時は、まだ、縄張りと呼ばれるものを守る(defender el que consideran su territorio)ことに終始していて、組織化された犯罪には発展していなかった(no operan todavía en el crimen organizado)という。
時の経過と共に(con el tiempo)、ラティン・キングスは解体されたが、麻薬取引(narcotráfico)の一翼を担う集団が出現し、局面は第二ステージ(un segundo plano)に移ってゆき、現在に至る。
また、機会を見て、この問題は取り上げたい。
写真は不鮮明だが、発砲事件のあったビザ店の防犯カメラの画像。
右側の少年が、左側側にいる3人に向かって、拳銃のようなものを向けているように見える。
ところで、フランス語の「chair à canon」は、19世紀のフランスで名を馳せた政治家であり、作家でもあったフランソワ・ルネ・ド・シャトーブリアン(François-René de Chateaubriand)がナポレオンを批判する際に用いた表現とされている。
シャトーブリアンは美食家としても知られていて、牛一頭からわずか3%しか取れないヒレの部位を好んで食べたという。
この「幻」と評される最高級のヒレが現在、彼の名を冠していることは言うまでないが、その肉好きのシャトーブリアンが、砲弾の餌食を指す用語に、「飼料」ではなく、「肉」を使ったのは、さてさて、偶然か。
出典
https://www.rtve.es/noticias/20240706/bandas-latinas-espana-rivalidad-se-hereda-utiliza-a-jovenes-como-carne-canon/16174647.shtml