【政策⑤】アベノミクスは狙い通りになったのか?そしてコロナ後のトレンドとは?
前回、アベノミクスで日銀が国債を大量に購入し、それによりインフレを作り出そうとしたというお話をしました。今回はその結果どうなったか?そしてコロナ後の世界の状況、そして日銀の現状についてもみていこうと思います。
政府日銀の期待に反して前年比2%のインフレは起こらず
日銀はアベノミクス開始以降異次元の規模で国債の買い入れをすすめました。しかし、実際は政府や日銀の思惑通りにはいきませんでした。日銀が目標としていた2%のインフレ目標をアベノミクスの期間中ほとんど達成できなかったのです。
下図のようにアベノミクスの期間中、物価は目標とする前年比2%の上昇にほとんど達しませんでした(2014年は消費税の5→8%への引き上げの影響があります)
それはなぜか?銀行は異次元緩和でたくさんのお金を持っていますが、そもそも個人や企業があまりお金を求めておらず、貸し出しが伸びなかったため、世の中にお金が出回らなかったのです。
それは下の図でも確認できます。この図の中で出てくるマネーストックとは、簡単に言うと世の中に出回ってるお金の全体量を示します。マネタリーベースとは、日銀が供給したお金の量を表します。この図で明らかなように、アベノミクスの期間中、マネタリーベースの増加に比べマネーストックの増加は鈍く、世の中に出回るお金の量が期待ほど増えなかったことが分かります。
では、日銀が各銀行に供給したお金はどこにいったのか?
それは、実は日銀の当座預金にあるのです。
当座預金とは、各銀行が日銀に持っている口座のことです。貸し出し先のなかった各銀行のお金は、現在約500兆円ほど日銀の口座預金に預けられています。
この、多額の日銀の当座預金こそが、今後日銀のアキレス腱となる可能性があります。なぜなのか?
トレンドの転換、アフターコロナはインフレの時代
みなさんご存じの通り、世界では、コロナ禍からの消費回復や、世界情勢の不安定化による資源価格の高騰から、歴史的なインフレ水準となっています。
アベノミクスの期間中、前年比2%以上のインフレをなかなか達成できなかった日本でも、資源高や円安による輸入品価格上昇の影響で、2022年4月以降継続して消費者物価指数が2%を上回るようになってきています。
インフレが過度に加速してしまうと、それを抑制する目的で中央銀行は利上げをします。利上げにより、銀行が貸し出す際の金利が上がり、借金をする個人や企業が減り、結果として世の中に出回るお金の量を減らそうとするのです。
前回ご説明した江戸時代の貨幣改鋳を思い出していただくと分かりやすいかもしれません。江戸時代、金貨に含まれる金の量を減らし、その分多くの貨幣を幕府が作ったところインフレが起きました。つまり、世の中のお金の量が増えるとインフレになります。インフレが高進した場合、中央銀行は世の中に出回るお金の量を減らし(市中からお金を回収し)インフレを抑制しようとします。
とくにアメリカでは、最近やっと横ばいになってきましたが、2020年以降インフレが加速しています。そのためアメリカの中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)は、通常より大きい上げ幅で利上げを続けています。
日本では、異次元緩和が継続されているので、日米の金利差はどんどん大きくなってきています。(先日、日銀が長期金利をプラスマイナス0.5%に拡大しましたが、緩和が続けられていることに変わりはありません)。通常、お金は相対的に金利の低いところから高いところへ流れる傾向があります。(お金を預けるなら、金利が高いほうがいいなと思うのは自然なことですよね)。そのため、今はやや落ち着いてきていますが、一時期1ドル152円台に迫るまで円を売ってドルを買う流れが加速しました。
自国通貨安となると、輸入品の値上がりによりインフレが加速します。そのため、通常であれば金利を上げて自国通貨を買ってもらうことでお金の価値を守ろうとします。世界各国は、日本と異なりコロナ後の景気回復もあったためよりインフレが加速しました。そのため、インフレ抑制のため相次ぎ利上げを行っています。
日本はコロナ後の景気回復が弱く、世界各国ほどのインフレには見舞われていませんが、日米の金利差により昨年からは想像もできなかったほどの円安水準となりました。アメリカの利上げのピークアウトが予想されるようになりやや円安は一服していますが、状況は予断を許しません。
今後仮にさらなる円安に見舞われたとき、日銀は円の価値を守るため利上げを迫られることになるかもしれません。しかし、日銀は利上げをするにあたって深刻な問題を抱えてます。それが当座預金との関連なのですが、次回以降具体的にどんな問題を抱えているか?お話していこうと思います。