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【CASE STUDY BOOK4より 座談会企画01】「FM×断熱による都市経営に挑む」前半

NPO法人自治経営の“実践者による”公民連携事例紹介の書籍「CASE STUDY BOOK4」に掲載されている「自治経営FMアライアンスメンバーによる座談会」を特別に公開いたします。
座談会の前半では、FMアライアンスメンバーが、FMに取り組むことになったきっかけと、そもそも断熱が広まっていかない課題についてをご紹介します。

CASE STUDY BOOK4

【対談者】
三宅香織
倉敷市教育委員会学校教育部参事
NPO法人自治経営理事・中国アライアンス・ FMアライアンス

洞口文人
株式会社L • P • D代表取締役
NPO法人自治経営副理事長 FMアライアンス

川口義洋
津山市総務部財産活用課参事
NPO法人自治経営中国アライアンス(これらの肩書き取材当時のものです)

FMアライアンス主要メンバーの取り組み

−まず、みなさんから、自己紹介を含め各々の取り組みを教えてください。

川口
津山市役所の川口です。2019年に全国初の学校断熱ワークショップを実施 (CASE STUDY BOOK4参照)したんですが、そもそも僕が断熱に取り組むきっかけになったのは、2年前に都市経営プロフェッショナルスクール
(以下、プロスクール)を受講したことでした。最初は、公共空間をテーマに公民連携に取り組もうと思っていたのですが、アシスタントコーチの三宅さんに「学校断熱やっちゃいなよ」と言われたことで、そこから一気に学校の断熱ワークショップの事業を考えたんです。ちょうど、6月末頃だったので、やるなら夏休みでやるしかないと思って、プロスクールから津山に帰った次の日にはチームを作リましたね。最終的にはお金の調達が一番大変だったんですが、市の予算は一切使わずにクラウドファンディングや協賛金や資金調達し、ワークショップが実現しました。

−自分でやろうと思ってから、実際に実施するまでのスピード感がすごいですね。続いて、三宅さん、お願いします。

三宅
倉敷市役所で事務職として働いています。もともとファシリテイマネジメント(以下、FM)を10年以上前から取り組んでいて、施設管理と自治体の財政状況を睨みながら、ずっと仕事をしてきました。でも、仕事をしながら施設を集約したり、減らしたりするだけでは、限界だと気づいたんです。そんな中でプロスクールを受講して、単に施設を「減らす」だけでなく、「稼ぐ」ことの必要性を学びました。川口さんとは、エリア的に近いということもあって、もともとFM仲間で知リ合いでしたね。川口さんが実施した学校断熱ワークショップを横展開して、他の自治体にも広げていきたいと思いました。ただ、そのためには自分自身が実際にやる必要があると思って、今年の8月に倉敷市内の小学校で断熱改修ワークショップを実施しました。FMの活動としては、2020年に仙台市と塩釜市で講演に呼ばれて久しぶりにFM中心の話をしましたね。仙台は小学校の断熱改修の実証実験をやっている最中だったのですが、断熱すること自体はFMにかなり効果があるなと思いました。その後、自治経営内でFMアライアンスチームを作って新たな動きを始めています

学校断熱ワークショップのメリット

−三宅さんはもともと倉敷市でのFMのこれまでにない取り組みをされていて、それを市外のエリアに広域に広められてきて、「FMの女王」とも呼ばれています。続いて、洞口さんお願いします。

洞口
僕は、もともと仙台市役所で建築職として勤務していましたが、1年前に退職して、現在は妻と一緒に設計事務所を経営しています。僕は、三宅さんや川口さんとは違って、FMスタートではありませんでした。結果的に、今では自分の中でFMと断熱はつながってきましたが、最初は、仙台で公共空間の利活用を中心に公民連携事業を実施してきました。その後、2018年に公民連携事業という都市経営を考える部署から、営繕の部署に異動になりました。営繕課では総務係で庶務的な部署だったんですが、周囲を見ながら企画を立てられる環境にあったので、異動した後すぐに自分には何ができるか模索していました。ちょうど異動した年の8月に豊田市の小学生が熱中症で亡くなってしまうという痛ましい事故が起こったんです。このことがきっかけで全国的にエアコン導入の動きが加速しましたが、このときに断熱をしっかリ取り組まないといけないと思いました。子どもの命をどう守っていくかという健康被害の問題もそうですし、エアコン設置の財政的な問題や CO2排出の問題など、それらを解決するための事業を打っていく必要があると考えました。まずは、エネルギーまちづくり社(以下、エネまち社)の竹内昌義さんを仙台市役所にお呼びして、職員向け研修を実施し、 2019年には小学校での断熱に関する実証実験の予算化にこぎつけ、2020年度に実証実験をスタートすることになりました。エネまち社と一緒に企画を進められたきっかけは三宅さんからFMの話を聞いたことも大きかったです。まずは事業を進める際に、基本的にFMをしっかりしないといけないと気づきました。断熱の企画を作る中で、FMと連動させて、どのくらい市の財政的に効果があるのかということを考えて資料をまとめたのですが、結果的に、それが財政課を説得する武器にもなリ、事業化にこぎつけた要因でもあります

効果がある断熱がなぜ広まっていかないのか?

−洞口さんのお話を聞くと、どちらも、FMの女王と呼ばれた三宅さんがきっかけになっているんですね。断熱の必要性について、FMとして成果が出ているはずなのに、なぜか広がっていかないなと感じています。日本だとまず先に空調設備が広がってしまったせいでしょうか。空調設備を投入したせいで、学校にこれ以上、熱環境に関するお金を入れられないということもあるのかなと個人的には思っています。

三宅
学校に一気にエアコンが入ったのは補助金政策の賜物だと思っています。この時期を逃すと補助金がもらえないということで、有無も言わざず、行政として申請せざるを得なかった。FMをやっているメンバーはみんな「空調設備の前にまず断熱が必要だ」と思っていたと思います

学校はエアコン設置を進める前に断熱が必要だった@三宅作成

川口
断熱をきちんとすれば、空調の馬力を半分にできますよね。空調設備のダウンサイジングをすれば維持管理費も下がるし、CO2の排出も抑えられる。それなのに、補助金が空調の機械設備にしか使えなかったので、断熱に手をつけられないまま、エアコン導入に至ってしまったと思います

−全国の学校に一斉にエアコンが投入されたわけですが、学校現場では、ギリギリまで暑さを我慢してエアコンのスイッチを入れず、子どもが倒れてしまったという事例があリました。

洞口
断熱が進まない理由は何でしょうかね?もしかすると、空調設備を入れていると、10年というタームで、新たな設備に更新する必要があるということで、設備屋が儲かるということなのかな。

三宅
もともと日本における家庭用エアコンの売リ方から見ても、そもそも断熱という建築性能には関心が持たれないですよね。家電量販店では、「10畳用エアコン」とか言って、広さだけで販売していて、建物性能には一切触れられていないんですよね

洞口
そういう意味では、行政職員である技術職の人たちが、自分たちでお金を計算して、設備を考えられるスキルがあれば、メーカーから提示される見積金額に騒されないようになると思うし、公共施設の設備を考える上でも大事なことだと思ったりしています

三宅
その点で言うと、行政内部では、建築と設備の部署が分かれていて、連動していないですよね。連動していくことが必要で、公共施設を建てる上でも、建築と設備の両方が工事等の数値を見て判断できるようになる必要があリますね

川口
施設の予算というと、1億、2億規模になると思いますが、そこに入ってくる設計事務所は断熱のことを考えている人はほとんどいないと思います。大きな空調を入れた上で、どのお金を削減するかというと、断熱の部分になってしまうことが多いです。施設を作るための予算は上限が決められているのに、ランニングコストについては、上限が決められていないことにも問題を感じています。だから、成リ行きで作って、できた瞬間から経常費になるのに、そのことを作っている最中に考えられていないことが問題だと思います
(聞き手 佐倉市 榊田大輔 取材日2021年10日)

次回は、後半の対談の続きをご紹介します。「複合化施設の問題点、組織体制」などについてになります。お楽しみに!!

過去のCASE STUDY BOOK1〜3はこちらで購入できます。今回の記事を掲載しているCASE STUDY BOOK4に関しては今後オンラインでの販売予定しておりますので、また自治経営Facebookページ等でお知らせいたします。

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