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肩を3回たたかれ思い切って振り向いたら、とんでもない異次元に飛ばされた本屋

(※以前書いたものを、懐かしく思いながら編集したものです)

「大人になるっていいなと思ったことは何ですか?」
と、質問を受けている芸能人がテレビで映っていた。

好きなところに行ける。好きな食べ物が食べられる。欲しいものが買える。
私がとっさに浮かんだのが、この3つだった。

「わあーなんだよこの答え!」
自分でいっといて恥ずかしいのだが、苦笑してしまった。
逆に大人になって不便が増えたかもなあ、むしろそんなことを考えていた。


不便だと思うその一つに、すごく疑うことを覚えてしまった私がいる。
「これって面白そう!」ということが、「えっ本当にいいのこれで?」なのである。
それはある意味大人の知恵というか、私を助けてくれることでもあるのだけれど、如何せん、子どものころのように「面白そう!」を素直に受け取れないのだ。

そんなある日のこと。
天狼院書店を教えてくれた人がいた。

「へえ~個人経営の本屋さんなのかねえ?今どき?」「変わった名前だねえ」私の中での天狼院書店の第一印象は、これだけだった。
そしてその日は、二度と天狼院書店の名前が頭の中にめぐることはなかった。

一週間後、美容院に行ったときのこと。
はじめて担当してくれたスタッフさんが突然、
「あのーお客さまは俳句に興味はありませんか?」といってきた。

「えっと、俳句ですか?あの五・七・五の」
「はい、そうです」

何なのこのスタッフさん?新手のセールスかしら……と私の心の声。
そしてなんとそのスタッフさん。俳句に興味がないかもしれないこの私に、
自ら読んだ俳句のメモを見せてきた。

わあ、やっぱり新手のセールスかもしれない。
ちょっと引くんですけど。
若干ビクビクしながら受け取った小さなメモ用紙には、
鎌倉を訪れて、咲いていた紫陽花のことを読んだ俳句が書いてあった。

あっ、なかなか私好みの俳句かも。へえ、人は見かけによらないものね。「ステキな俳句ですね」とメモをお返しすると、
スタッフさんは嬉しそうにいろいろ話しはじめた。
「いや、これこれしかじかでしてね。それで天狼院書店という、~でね」

んっ、天狼院書店? どこかで聞いたことがあるぞ……。

最近は一段と「あれ、それ、これ」が増えてきた私の記憶力も、あの変わった名前は印象に残っていたようだ。一週間前の記憶が蘇る。
このスタッフさん、天狼院書店のこと知ってるんだ、へえー。

これで天狼院書店の名前を聞いたのは、ニ度目になった。

まあまあ人生長く生きているとさ、一度や二度はけっこうあるのよ。
「そうそう」と自分にいいきかせながら、家に帰ってきたのだった。

さらに一週間後。
気分転換にお香を焚こうとしていたとき、新しいお香立てが欲しい気分になった。早速ネットでインド雑貨のページを読み漁る。
そして、とあるインド雑貨を取り扱う店主のブログへと飛んだ。

「私の書いた文章が、天狼院書店のページにアップされました!」

ムムムッ三度目。これはどういうことか?
またしても天狼院書店の名に出会うとは。
私はここではじめて、天狼院書店を検索してみることにした。

名称未設定のデザイン (3)


季節が変わると、やけに日が短くなるのを感じる。
部屋が暗くなった気がして、電気をつけようと椅子から立ち上がったとき、
たぶん私は「ほう……」とため息をついていたと思う。

本屋さんのはずなのに私の常識を超えて、とんでもない異次元に飛ばされた感覚になった。
これはまずい、どうしよう、大人としての安全装置が外れてしまいそうだ。
「そんなホイホイ、ボタンを押すものじゃないでしょ。それよりもやることあるよね」
もう一人の私が、もう夕飯の支度をするようにと促してくる。

一度ならず三度も出会った。これは紛れもない事実。
唸りながら、またしても天狼院書店のページに吸い寄せられる。

とそのとき、店長さんのメッセージが目に飛び込んだ。

「三度あったら、それをボクはやりますね」
(的な文章だったと思う)

「ぱかーん」

私の中で何かが外れた音がした。「あー安全装置が外れてしまった!」
こうして私は、ライティングゼミ・キックオフへのスイッチを押してしまったのだった。(※ライディングゼミ=この本屋で開催されるゼミの一つ)

正直、参加スイッチを押すまでの間、ちょっと子どものころにタイムスリップをしていた気がする。

素直にやってみたいことを楽しんで、失敗してもそれを笑っていたあのころ。
本屋に行くと、なぜかトイレに行きたくなったあのころ。
本が好きで、一度本屋に泊まってみたいと思っていたあのころ。

三度肩をたたかれて、思い出した。
「書いてみたい」という気持ち。

大人になると変に賢くなって、素直な好奇心のスイッチを、逆に見ないようにしていたのかもしれない。
天狼院は時間さえあやつり、私を異次元に飛ばしてくれるタイムマシーンのようにも感じた。

実際にライティングゼミ・キックオフに参加してみたら、
本当にそこはリアル異次元だった。
飲み物は頼めるは、食べられるは、謎の部活はあるはで、ちっとも本屋らしくなかったからだ。

でもその異次元の空間と参加者さんから、心地よい刺激を与えてもらった。
よくわからないけれど、素直にその時間を楽しめたことがすごく嬉しかった。

この異次元空間で、子どものころのように楽しもうとする私がいる。
天狼院書店はこれからさらに、どんな異次元空間と風景を見せてくれるのだろうか?
きっと四度目の肩もたたいてくれるかもしれないなあ、そんなことを思いながらこれを書いている。

(※数年前に出会った本屋さんです。はじめて本屋さんは
  本や物を売っているだけではないと知りました)

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