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日本の”自分で始めた女たち”#7 「やりたいことをやめる必要はない。だってやりたいんだから」多田ゆうこさん(4)

多田 ゆうこ さん(高松市議会議員)

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多田ゆうこさんプロフィール
香川・さぬき市生まれ。フリーアナウンサーとしてテレビ番組のMC.各種イベントやセミナーでの司会、ナレーションなど、香川県を中心に幅広く活動。2007年に笑顔を軸としたビジネス研修、セミナー等を行う会社を立ち上げ、多田さん自らが「笑顔」の講師として、スマイルコミュニケーションによる人材育成に取り組んでいる。2023年4月、高松市議会議員選挙にて初当選し、現在、議員2年目。
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中村 以前トランプ氏がアメリカ大統領に選ばれたときに、アメリカの友人がどこかよその国に逃げたいと話していた。そうしたら別の友達が冗談で「ようこそ、選挙の心配のない国へ!」と言ったんです。
その瞬間、私もハッとして、どっちが幸せかといったら、少なくとも選べる幸せはあるなと。
 
多田さん そう、選べるんですよ。選べないところはつらいと思う。
 
中村 私たちあんまり「民主主義って何ですか」とは考えないじゃないですか。選ぶのが当然のところにいると。
 
多田さん その「選ぶ」という権利を放棄している人が6割もいるのは、政治に当事者意識がないからですよね・・・。
補助金ってあるじゃないですか。例えば、高松から大学に奨学金使って行って、帰ってきたら3年間で60万円補助しますというようなものだったり、いろいろあるんですよ。ただそれは数に限りがある。
 
中村 なんで十分な数がないんですか?
 
多田さん それは声なんです。困ってるよという声があると放っておけないから手厚くしようとなるけど、声を上げないとそのまま。声を上げるということのひとつが投票です。政治は自分の生活と関係があるって思ってもらわないとそうなるんですよ。
政治って、過去にすごく不当な目に遭った人が「なんでそんな制度がないんですか」と関わることも多い。その立場にちょっとでもなったら、つまり当事者になったら、考える人は政治の世界にスッーと入るんですよね。ちょっと興味を持ってくれたら、そこから先に新しい世界がバーっと広がるよっていうのは、足を踏み入れてみると分かる。
 
中村 踏み入れるのは面倒くさかったり怖かったりかな・・・。うちの娘が大学生なんですけど、政治に興味があって、大学生と国会議員の対話集会に行ったりしてるんですよ。
考えは私とはかなり違うし、偉そうなこと言ってくる。私もそれに文句は言うんですけど、「あなたが政治に興味を持つのはとてもいい。お母さんはあなたがいいと言うものは好きじゃないけれど、興味を持つことはすごくいいと思うよ」と、無理しながら言っています。
 
多田さん 政治家にならなかったとしても、例えば、自分の船(国)の操縦装置(国会議員)がどっちに向かう設定になっているのか、知る必要があると思うんですよ。その船(国)がどこに向かっているのか、何をしようとしているのかを知らないと、自分がどう動けばいいのか分からない。おかしいなと思ったら、船長(主権をもつ国民)は、操縦装置の設定を変えないといかんわけで。
 
女性議員が増えることは、投票と関係がある。
 
中村 多田さん、女性議員が増えるためにはどうしたらいいと思います? 何から始めたらいいんだろう。

3月8日の国際女性デーに女性たちと街頭活動。
多田さんの仲間の女性議員がデザインしたお揃いのジャンパーを着た。

多田さん いまの選挙のスタイルが変わらないと、ちょっとハードルが高いだろうなと思う。お金もかかるし。でも今ネットの時代でしょ。いろんな活動している人が私はこうしたいと発信していく方法もありますよね。
でも「この人いいよね」って誰かが見つけてくれたとしても、その見つけた人が投票に行かなかったら何も変わらない。

こんな話があるんです。この間の統一地方選挙だったかな、小学校の先生が子どもに、選挙の日、親と一緒に選挙に行って、どんなことをしていたかをレポートにまとめるっていう宿題を出したんですって。子どもは「お父さんいつ行くん、宿題なんやけど」。宿題ができないと困るから、じゃあ行こうかって。その学校の先生、すごいなと思ったんですよ。
 
中村 そりゃ絶対に行きますよね!
女性議員を増やすには、投票に行くことから始まるのか・・・。
投票率を上げるということは、それだけ自分と政治が身近な人を増やすっていうことですよね。
 
多田さん 「自分ごと」として考えることを増やすんだと思うんです。そこにはその人なりの問題意識がある。介護なのか子育てなのかは、人それぞれだけど。
 
中村 「政治家になりたいんですけど、どうしたらいいですか」という人には、なんてアドバイスします?
 
多田さん 「じゃあやってみよう、一緒にやってみよう」。
やりたいことをやめる必要はない。やりたいんだから。どうやったらやれるかについては、やりながら考える。やり方を知ってからやろうと思ったら絶対できない。だって、分かんないじゃないですか。
 
中村 議員になる時、聞いておいてよかったなってアドバイスと、聞かなくてよかったものがあると思うんですが、それって何でしたか。
 
多田さん アドバイス・・・、「あなたならやれるよ」「そのままの多田さんでいいんじゃない」、ポジティブな言葉には背中を押されるけど、ネガティブなことも言われました。
「やってどうするの」「こうなったら困るやんか」「落ちたらどうするの。政治色がついたら仕事できんやろ」というマイナスなこと・・・というか、私のことを思って、リスクをいっぱい言ってくれているんですよね。それもものすごく大事だけど、何かをやろうと思うとき、リスクを考えていたらできないと思うんです。チャレンジして当選できなかったとしても、その過程で出会った人は自分の財産だろうし・・・そういうふうに思うんです。

ポジティブ、ネガティブ、絶対に両方出てきますから。足を引っ張っているんじゃない。ものすごく心配してくれている。
 
中村 愛情ゆえのネガティブを聞いて、そのときに自分はどうしたらいいか考える・・・
 
耳に入る声すべてが、応援のように聞こえてきた
 
多田さん そう。出馬の結論を出すまでの1カ月間はせめぎ合いです。
寝る前は、「自分がやるしかないやろ」って思って寝るんですよ。でも朝起きたら、「なんで私がせないかんのやろか」って思ったり。
その都度その都度考えるし、いろんな人にいろんなことを言われたり。テレビから聞こえてくる声が、応援の声に聞こえたり。いや、自分に言われてはいないんですよ(笑)。本を読んでいたらそれが、「やっぱりやめたら」みたいな声に聞こえてくる。

その数がね、「やるしかないよ」みたいな声に聞こえてくるようになってくる。全部。

多分言われている内容は同じことだと思うんですけど、やらないのがマイナスに聞こえてきだした。言葉って受け取り方がある。その受け取り方がプラスにしか変わっていかなくなると、「やるしかないだろう」と。
最初は半々ぐらいなんですよ。「私がしないといかんやろ」とか「私は無理だろう」というのが。それが逆転するんですよね、なぜか。心配の声が期待の声に聞こえたり(笑)。
 
中村 そうやって気持ちが固まっていったんですね。

多田さんが自分の名前を書いた投票日。
中村も他選挙区ながら、多田さんの当選は気になっていた。

多田さん でも実際、議員として(政治の)場所に立てるとなったときは、ものすごく震えました。私に投票してくれた2662人。私のことを直接知らない人も一票を入れてくれた。知人だけではこの数にはならない。
「私はこういうことしたい」と言って選挙に出ましたが、期待を寄せて票を入れてくれた。絶対その声に応えたい。その期待ってなんやろうか?それを考え続けたこの1年。空回りした1年。がむしゃらで、分からんから。
気付いたら1日も休んでない。自分のことをした日が1日もなかったんですよ。働き方改革とか言ってるのに(笑)。それに、視野が狭くなってる自分に気が付いた。余裕がない。話を聞いていても、余裕がなかったら聞こえてこない。
 
中村 多田さんの政治家を始めた話って、消化しやすい政治の話だと思いました。難しい話はいっぱいあるから、そうじゃない話を聞くと新しい見方で政治を見れるんじゃないか。
 
多田さん それって特別なものなのかな? 
 
中村 「選ばれる」っていうことが普通の人はないから。
 
多田さん 選ばれる重みはあります。野党だから何を言っても何もできない、それゆえに、ときに迎合していると言われることもある。
今までいろんな仕事をやってきても体に支障がでたことがなかったんですよ。でもこの仕事は体にでた。それは、私はもっとできると思ってやっていたのに、そんなに言うほどできないってことだったり、もっと役に立ちたいのに何してるんだろうという歯がゆさだったり。
同時に、自分の課題をクリアにして、これとこれはつながるんだなと探したりする1年でした。時間がないんですよ。ものすごく早く過ぎて。いま、「これとこれをやりたい」と声に出したことがつながったりとか、ちょっとずつ面白さと難しさがわかってくる。
 
中村 当選されて1年前ですね。
 
多田さん はい。選挙の一番はじめは11月7日。自分の顔と名前の付いたのぼりを持って交差点に立てと。もうね、正気の沙汰じゃないですよ。その時は小川淳也さんがいたので、先に小川さんがしゃべって「はい、多田さん」とマイクを渡されて。
そこで覚悟が決まった。そこからはひとりでも平気でした。よくあんなことしたなと思うけど、あとは普通で、楽しかったんです。伝え方も自分らしくというか、自分が楽しそうに街頭に立っていたら相手も楽しくなる。

雨の日も交差点に立つ多田さん

私の失敗なんて、人は全然気にしてない。
 
中村 最後に多田さんにとって成功とは何か、聞きたいです。
 
多田さん 成功・・・成功・・・なんやろ。「ありがとう」かな。役に立てているってことだから。私にとって成功っていうのは、誰かの役に立てていること。目の前の人かもしれないし、大勢の人かもしれない。
政治の世界なら「これが達成できたら」という成功もあるだろうし、うーん・・・高松の投票率がめっちゃ上がったら成功。
でもやっぱり、ずっと死ぬまで誰かの役に立てているんだってなったら、それが私の成功かな。
それが途絶えたときに敗北感がある。でも、役に立ちたいのに役に立てない時期があったから、いまがある。マイナスのものすごく苦しいときにはヒントがあるし、実はラッキーなんですよね。
 
中村 高松の料理研究家の人が、苦しいときは、本当に自分は何が好きなのかが分かるといっていました。
 
多田さん 同感です。本当に転機ってあるじゃないですか。転機の時にいかに浮上できるか。転機でくじけてしまうと引きこもってしまったり自殺してしまったり。
もがいたらもがいた分だけ人との関わりができるし、見ていてくれる人もいるから、本気でもがく。

いろんなところでつながっていますもんね。今までも「多田さんこれやってみて」って言われて、「絶対無理やろ」って思っても、この人が言うんやったら、この人に応えようと思ってやってきた。それでチャレンジしてきたし、やってみて大失敗したこともあったけど、それだけは自分をほめてあげる。この道ではやって行けんのんちゃうかと思ったことはあったけど。
でも、自分の失敗って、人は気にしていないもんね。
 
中村 ああ、そうかもしれない。じゃあやったほうがいい。
 
多田さん やったほうがいい。ちょっと「どうしよう?」と思ったら、やろう。

人にやりたいことを言ったほうが叶いやすいような気がします。人に説明できるって、ある程度咀嚼できているということだから。そうしたら人が「あそこに行ったら」とかを教えてくれる。
私もボランティア活動から政治家になっている。ジバン・カンバン・カバンもない。私のような人が選挙に出るなんてちょっと前だったら考えられなかった。時代が変わったから、やろうと思ったらやれる。

でも最終的には自分で決めないと誰かのせいにしてしまう。最終的にやると決めたのは自分。選挙に出ると決めたのは私。やると覚悟を決めてやってみたら、スーッとやれたりするから。自分でハードル上げないでって思いますね。
 
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インタビューを終えて

このインタビューの公開は7月で、と決めた時、2024年7月が政治や民主主義のことを考える月になるとは思っていませんでした。都知事選、アメリカ大統領選挙、終わらない紛争、分かち合いをめざす五輪・・・

私事ですが、小3のとき、地元の市議会議員選挙に立候補した女性議員の主張がとてもいいなと思い、家に来ていた彼女の選挙ハガキを見て、頑張ってくださいと応援するハガキを書いたことがあるのです(なんせ書くのは大好きでしたので)。
当時、ひとりで留守番をしていた家に事務所から電話が来てお礼を言われたのですが、なぜか父親の知ることとなり、非常に怒られました。子どもが政治に興味を持つなんてまだ早いと。
その経験がトラウマ的になり、長年、政治は敬して遠ざけるスタンスでいました。周りの人と政治や選挙について話しても小さな分断があることを知ることになるし、それを論破できる知識も主張もありません。

だけど今回、多田さんに話を聞きたいなと思ったのは、選挙に出る人も全員(かどうかは知らないけれども)いろんな葛藤や分断への恐怖があったと思うんですよ。その中で、やはり「出る」と決めた人を突き動かしたものは何なのか、知りたいと思ったからです。
政治に興味がある人だけではなく、今のままじゃ何かが違うと違和感を持っている人にも、響くものがあるのではないか。
自分の言葉で、私たちの毎日と地続きの視点で政治の話をしてくれる多田さんの話で、政治家のリアリティーをもっと身近なものにできたらと思いました。

私は、政党や意見の違いはあれ、女性の議員が増えるといいと思っています。本当に何か社会に言いたいことがある、何か変えたいことがある。それを自分の頭で考えて自分の言葉で言える。そんな人が増えると、もっと生きやすい世の中になるのではないかと思っています。多田さんのインタビューで、自分の価値観に気づきました。

(おわります)

本文中の写真はすべて、多田ゆうこインスタグラム、多田ゆうこ後援会Facebookより。

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