狂気的でアンチモラルなゲーム『Limbus Company』解説と、“2024年のSCP財団”に関する考察
ゲーム『Limbus Company』がおもしろいのでその話をします。
『Limbus Company』は、SCP財団や映画『キャビン』などに影響をうけたインディーゲーム『Lobotomy Corporation』と同じ世界観を持つソシャゲです。
Project Moonという韓国発のゲームメーカーが手がける作品たちで、それら共通の世界観を(私は勝手に)"プロムンワールド"と呼んでいます。
今回の文章では、ゲーム『Limbus Company』をはじめ、プロムンワールドの魅力と「なぜいまProject Moonに注目すべきなのか」、「そもそも“SCP財団”っていまどうなってるんだっけ?」みたいな話をします。
まず結論として、
・2023年頃からゲーム実況で『Lobotomy Corporation』がプチバズしてて、プロムンワールドへの注目度が上がっています
・そもそもSCP財団が、2020年頃にYouTubeで流行ってて、プロムン作品のほか、The Backroomsなどの"SCP的な想像力"を持ったコンテンツも派生的に生まれています
・"アンチモラル"なスタイルからおもしろいモノが生まれそうかもという個人的な仮説がある(近年のホラーカルチャーの盛り上がりもこの辺が要因にもなってるかも?)
・近年、インディーゲームへの注目が高まる中で、インディー発でひとつのブランドを確立したProject Moonはおもしろいポジションにいる
そして、後半では、2024年においてSCP財団がどんな存在になっているのか、という話をします。
■ ゲーム『Limbus Company』とは?
『Limbus Company』は、プロムンワールドを舞台に、プレイヤーがLimbus Companyの管理人となり、12名の囚人を率いて各地に散らばる“黄金の枝”を奪還するバトルRPG(ソシャゲ)です。
プロムンワールドは、“都市”と呼ばれる架空の地域が舞台。
“都市”には26つの巨大企業(通称:翼)と、巨大企業それぞれが管理する区画(通称:巣)と、翼の管理が行き届かない無法地帯(通称:裏路地)があります。
Project Moon開発のゲーム『Lobotomy Corporation』(2018年)やゲーム『Library Of Ruina』(2021年)とも同じ世界観で、『Lobotomy Corporation』において象徴的なSCP的な怪物たちも登場します。
『Lobotomy Corporation』は、“都市”における巨大企業のひとつで、エネルギー会社として君臨していたL社で働くという設定でした。
『Limbus Company』では、L社以外の巨大企業が管理する各地域に赴き、"都市"を巡ることで、よりプロムンワールドを体験できる設定になっています。
プロムンワールドの特徴として、前述のSCP的な怪物たち(通称:幻想体)のほか、各巨大企業が超常的な現象を引き起こす技術「特異点」を保有し、それによって地域ごとに異なる"狂気的な"事情・シチュエーションが生まれています。
無法地帯となっている"路地裏"での「死」や「暴力」、SCP的な怪物たち、“特異点”や“ねじれ”などの超常現象、道徳も倫理も物理法則も通用しない狂った世界です。
■ 『リンバスカンパニー』の魅力
狂気に満ちた"都市"で、その人知を逸した異常性に蹂躙されながらも、キャラクターそれぞれが自身の過去や葛藤と向き合い、ほんの一握りの人間性をどうにか掴み取ってくる———————
各章ごとに何かの異常性と対峙する、そんなキャラクターひとりひとりのストーリーがむちゃくちゃいいです。
プロムンワールドの異常性は、「死」や「暴力」が日常の道徳や倫理観のなさ、物理法則すらも無視するオーバーテクノロジー"特異点"と、それらの技術がなんらかの犠牲によって成立するという"都市"経済のいびつさ、さらにはSCP的な怪物たちや異常現象の"ねじれ"にあります。
そんな"都市"の各地に散らばる“黄金の枝”を奪還するというミッションを課された囚人(キャラクター)たち。
ストーリーの進行としては、1章ごとに1人の囚人にスポットが当たり、現在は7章まで更新済み。
1-3章ぐらいまでは世界観紹介っぽい雰囲気もありながら、4章から一気にギアが上がって、おもしろくなります。
人間性なんて皆無に等しい世界で、頭のネジが1,2本外れてるようなキャラクターたちだけど、それでも彼ら彼女たちが抱える過去や葛藤はどこか王道的で普遍的だからこそ、ちょっとした人間的な一面が際立つし、ぶん殴られるような力強さのある物語になります。
救われてるのか救われていないのかも曖昧で、いろんなモノがぐちゃぐちゃになりながらも、その中からどうにか一抹の希望を見出すかのような切なさ、美しさがリンバスカンパニーの魅力です。
■なぜいま 『リンバスカンパニー』なのか?
①ゆっくり実況者・天色鮫さんのロボトミ実況がおもしろい
まずはとにかくコレに尽きる。
ゆっくり実況者の天色鮫さんが2023年から投稿を開始した『Lobotomy Corporation』の実況動画がとにかくおもしろいです。
いわゆる“ゆっくり”によるゲーム実況で、初見にもわかりやすい解説もあって助かる。SCP的な怪物たちを"キャラクター的"に魅せる愉快なイラストや編集もよいです。
2023年4月にロボトミ実況を初投稿し、2023年8月に投稿されたロボトミ実況まとめ動画は現在350万再生を突破。
ロボトミは2018年発売のタイトルながらも、天色鮫さんの投稿開始時期から少しずつ注目度が上がっていて、なんなら過去イチの人気になっています。
近年はストリーマーコミュニティで人気を獲得することで注目されるインディーゲームも多いですが、そんな時代にあって、ひとりのクリエイターによる編集動画をきっかけにひとつのゲームタイトルが再発見されるのはおもしろい流れです。
そして、(たぶん私のように)天色鮫さんのロボトミ実況をきっかけに、Project Moon作品の沼にはまった人も多そうと思ってます。
※雰囲気でリンバスやってたので解説動画ありがてえ…
②そもそもSCPが近年流行ってる?
“SCP的なモノ”が近年流行っていて、そういう文化的なトレンドによって、『Lobotomy Corporation』とそれを土台としたプロムンワールドが受け入れられてる気がします。
個人的な感覚としては、2020年頃にマイクラでSCPのMODが流行ったのと、サイレンヘッドがTikTokでバズったことがSCP再ブームのきっかけになったと考えています。
◯SCPのざっくりとした遍歴
2008年:SCP爆誕 →インターネットミーム的な感じで広がる
2012年:ゲーム「SCP – Containment Breach」が登場し、ゲーム実況される
2013年:日本でも注目される →SCP-173をきっかけとして、同年にはガッチマンさんが「SCP – Containment Breach」を実況する
2016-18年:動画作品やModやが登場 →海外発でクオリティの高いSCP関連の動画が投稿され、Garry's ModやマイクラでSCPのMODが登場
2020年:日本でも流行る →マイクラの実況動画でSCPが流行る。SCPの解説チャンネルも増える。同時期に、サイレンヘッドも流行る。
2022年:The Backrooms爆誕 →SCP的な側面をもつThe Backroomsが人気になって、映像作品や実況動画が流行る
2024年:SCPがじわっと世の中に浸透してそう →“SCP的なモノ”が社会的に共通認識として生まれてそう。書籍や漫画など商業的にも採用され始めている。
日本の場合は、2020年頃にマイクラキッズたちにSCPがウケて、YouTubeでSCPの解説動画も増えてっていう流れ。
※近年で人気の解説チャンネルは2020年以降設立のものが多い
※コロコロコミックの「ブラックチャンネル」も2021年にSCPネタの動画を投稿している
インターネットミーム的にSCPを認知していた層に加えて、マイクラキッズやYouTubeユーザーにも広がった。
※それぞれ700万回再生以上されてる
そして、同時期に、サイレンヘッドがTikTokでバズります。
サイレンヘッド自体は2017年にtrevor_hendersonという方が創作したキャラクターですが、TikTokでのバズとあわせて、なぜかSCPとして扱われることもしばしば。
※実際はSCPとしては公式的に認められていない
これは日本のみならず世界的にも同様の流れで、“SCP的なモノ”の土壌が耕されることで、そこから似たようなThe Backroomsも2022年に登場。
さらに前述の天色鮫さんのロボトミ実況も注目されるという流れかなと。
2023年末には、SCPを扱った商業本「大迫力!異常存在SCP大百科」が刊行され、2024年3月から少年ジャンプ+でSCPを参照してそうな漫画「ゴーストフィクサーズ」が、同年5月にはSCPを真正面から扱った漫画「SCPって何ですか?」が登場するなど、商業レベルでも注目され始めてる印象。
※SCPの歴史は長いけど、漫画系以外だと、西東社の「大迫力!異常存在SCP大百科」が商業本としては初っぽい。「大迫力!異常存在SCP大百科」も第2弾が2024年に出てるので、いい感じに売れたのかなと推測します。
インターネットカルチャーとして長年の蓄積がありながら、2020年以降でSCPがより大衆化することで、"SCP的な想像力"が色々なジャンルに波及し始めている。
その流れにおいて、SCPをモチーフとして、そこからより世界観を拡張しているプロムンワールドはおもしろいポジションだと考えています。
ちなみに、The Backrooms関連だと、
ゆっくり実況者のむちゃたぬきさんとボカロPの■37さんがオススメです。
◯ゆっくりむちゃたぬきさん
ゲーム『Escape the Backrooms』のゆっくり実況ですが、とにかくおもしろいです。
むちゃたぬきさんの動画はテンポがいいので耳心地がよくて、1秒あたりの情報量も多いため、賑やかで観ていて楽しい。
YouTuber・ゲーム実況者による動画文化から、VTuber・FPS系ストリーマーのライブ配信文化を経て、ショート動画がイチジャンルになった現代において、ショート動画のテンポ感が浸透しつつあります。
ショート動画の影響で、いわゆる“倍速視聴”など動画視聴に対する感覚が変わってきている中で、その時代の感覚にマッチしたコンテンツも生まれてくると考えています。
“ショート動画以降”の動画文化を語る上で、むちゃたぬきさんの編集はかなり時代にマッチしていて、個人的には(SCPやThe Backroomsのトレンドも含めて)2024年を象徴するようなクリエイターのひとりだと思います。
▼ むちゃたぬきさんの編集力が大暴れしてるオススメ動画 ▼
◯■37さん
■37さんは、The Backroomsの前身的存在の“リミナルスペース”をモチーフとした楽曲シリーズを投稿しているボカロPの方。楽曲のよさはもちろんのこと、リミナルスペースを連想させる3DCGによるMVも■37さん制作というつよつよムーブ。
③インディーゲームの発展系として
近年、注目が集まるインディーゲームの文脈としても『Limbus Company』およびProject Moonはおもしろいです。
『Lobotomy Corporation』は、Project Moonが手がけるゲームとして、売上本数100万本以上を達成するなど、インディーゲームとして大ヒットを記録。
その成功を足がかりに、現在は30人程度の中規模のゲームメーカーとしてゲーム開発を行なっているようです。
ソシャゲ(運営型ゲーム)において、キャラゲーがレッドオーシャン化して久しく、近年は3Dがベースになるなどクオリティ向上によって開発費も高騰してるらしい。
ゲーム『原神』はまさにその筆頭で、その影響をうけて『幻塔』や『鳴潮』が登場したり、2025年以降はPROJECT MUGENや『Neverness to Everness』なども期待されていたり、札束での殴り合いが加速しそう。
キャラゲーに限らず、AAAタイトルで多額の開発費と時間をかけたけど爆死みたいな例も多く、そういった流れも踏まえてインディーゲームに注目が集まっているのかなと推測します。
その中で、『Limbus Company』は、上記の流れに対して、独自のポジション・運営スタイルを築いていておもしろいです。
ソシャゲにおいて開発費を回収するために、ガチャによる課金は必須ですが、『Limbus Company』の課金システムはちょっと特殊で、ガチャよりシーズンパス(数ヶ月ごとの定額課金)が大事だったりします。
『Limbus Company』は2Dベースのゲームではあるので、AAAタイトルほどの開発費は必要ではなく、ガチャでがっぽり儲けるというよりは、シーズンパスの安定収入で地盤を固めて、細く長く継続することをまず大事にしているという印象です。
運営へのインタビューなどを読むに、事業として拡大するよりも、まずはとにかくプロムンワールドを他者と共有したい、そのために12人の囚人たちの物語を描き切りたいという気持ちの方が大きいのかなと勝手に思ってます。
そもそも本国韓国では年齢制限がある時点で、ビジネスとしてスケールさせるつもりがあまりなさそう。
その上で、キャラクターコンテンツとしては、企業としてコミケやTOKYO GAME SHOWに出展し数時間待ちの行列ができる程度にはちゃんと人気があるという、ものすごく絶妙なポジションにいます。
インディーゲームでヒットを出したゲームメーカーの次の展開として、キャラクター・世界観で横展開という方法。
インディー発のホラーゲーム『Poppy Playtime』も、キャラクター・世界観をベースにして、同じゲームシステムで継続的に作品を出していくというスタイルで近しい雰囲気を感じます。
④アンチモラルという現代へのカウンター
近年の個人的な興味として、「まともなもの」「ちゃんとしたもの」「健全なもの」が求められる現代において、「道徳的でも倫理的でもない不健全なものがどう受容され発展するのか」に興味があります。
『Limbus Company』およびProject Moonが描く「死」や「暴力」などの残酷性、"特異点"が持つ特殊な性質は、まさに道徳や倫理観のなさの上に成り立っています。
道徳や倫理観のなさは既存のルールや法則に従わないということでもあり、常識や物理法則を無視するような異常な現象がプロムンワールドには存在します。
その予測できない異常性 = "異常性を秘めた未知"がプロムンワールドの最大の魅力だと考えています。
『Lobotomy Corporation』の「SCP的な怪物たちの性質を職員を犠牲にしてでも調査して管理する」というゲーム性は、未知を既知に変えるという体験のおもしろさでもあります。
それに対して、『Limbus Company』の魅力は、SCP的な怪物たちだけでなく、各巨大企業が保有する"特異点"というオーバーテクノロジー的なアイテムに“異常性を秘めた未知”があることです。
それぞれの“特異点”が持つ性質は、作中世界でも秘匿されることが多く、キャラクターたち(とプレイヤー)は物語のなかで、その“特異点”が持つ異常な側面と対峙することになります。
どんな異常性があるのか?というワクワク感にも繋がります。
そして、それは、道徳も倫理観もない、人間性のかけらもないような残酷な性質で、プロムンワールドはその異常性によって成り立っている。だからこそキャラクターたちがその奥底に抱える人間的な一面にスポットがあたるとき、その対比によって、ドラマとしてより力強いものになります。
2024年は、同じく「死」や「暴力」(と一部性表現)をそのスタイルに取り込んでいるアニメ『Hazbin Hotel』が大ヒットを記録していたりして、現代のフィクションにおいて、“アンチモラル”はおもしろいキーワードだと考えています。
また、個人的な仮説ではありますが、近年のホラーブームを“アンチモラル”の視点で捉えるのもおもしろそうと思ってます。
ホラーというジャンルは、「これは“ホラー”です」という前提のもと、「死」や「暴力」を描きやすく、アンチモラルに触れやすい。今年大人気となった『行方不明展』も、「不謹慎だ」という意見が少なからずあったけど、中止になるほどの大炎上にはならなかった。
会場のエントランスには、行方不明者のポスターをオマージュした展示物が壁に所狭しと貼ってあり、それをバックに記念撮影する人もいて、"モラル"が求められる時代にそれが成立していることに驚きがありました。
無自覚的にでもそういう"アンチモラル"を求めてしまう心理があったりするのかなあと思ったりしています。
■2024年におけるSCP財団
ここからは『Limbus Company』やProject Moonから離れて、SCP財団について話します。
2024年においてSCP財団がどんな存在になっているのか、という話です。
まず結論として、SCP財団は、闇落ちしたポケモンみたいなキャラクター文化に変化しており、インターネットカルチャーを象徴する文化です。
そして、2020年以降、コロナ禍でインターネットが生活空間になったこと(バーチャルの時代)と動画文化の発展により、“未知”がなくなったことで、"超国家的な組織が秘匿しているSCP財団"という設定がより共感しやすくなったのではないかと考えています。
まず、現実世界(自然)と比較して、インターネット空間は管理された安全な空間です。また、TikTokやライブ配信が動画撮影というアクションをより大衆に広めました。
個人的な感覚としては、2020年以降は、より一層気軽に動画を投稿する人(あるいは晒す人)が増えたと感じています。あるいは、旅系YouTuberが増えたり、心霊スポットでライブ配信する企画も多いです。
誰かが口裂け女と遭遇しようもんなら間違いなく動画撮影されてSNSにアップされるでしょう。
つまり、動画撮影やライブ配信が大衆化する以前よりも「(この現実世界に)もしかしたらいるかもしれない」という感覚はより一層薄れつつあると考えています。
だからこそ、“一般人には秘匿された存在”(SCP財団)であるとか、”現実世界ではない異空間に飛ばされる”(The Backrooms)という設定をまず一旦挟むことで、それにより「もしかしたらいるかもしれない」という未知への期待を保つことができます。
現実世界から未知がどんどん淘汰されていく中で、フィクションに未知を求める感覚が強くなってるのかもしれない。
コロナ禍で街から人影がなくなったとき、サイレンを鳴らしながら街を闊歩する化け物・サイレンヘッドがTikTokに投稿され、拡散されました。
家にいることが推奨される時代では、家の外が未知の空間に変化します。
その特殊な環境下が、動画として街に現れたサイレンヘッドという化け物に対して、「もしかしたらいるかもしれない」というリアリティ、未知に対する期待感を与えました。
2020年のコロナ禍によって、世界的に人々の生活環境が変わる中で、未知に対する感覚も変化した。
結果として、もともと2017年にtrevor_hendersonさんが創作したサイレンヘッドは、2020年に投稿されたTikTokの動画をきっかけに注目を集めました。
そして、誰が言い出したかどういう経緯か調べきれなかったのですが、サイレンヘッドはSCPであるという説(公式的には否定)も広まることになります。
また、コロナ禍でゲームがコミュニケーションツールになり、生活空間(バーチャル)にもなりつつある中で、その代表的存在であるMinecraftでSCPやサイレンヘッドが流行ったこともまたおもしろい現象です。
個人的には、SCPが持っているゲーム的な感覚も、誰もがゲームに親しみを持つような時代にマッチした理由かなと考えています。
SCP最大の特徴である「確保・収容・保護(特別収容プロトコル)」という設定は、ゲーム的な攻略条件が設定されているということでもあります。
だからこそ、ゲームの攻略動画的なSCPの解説動画がYouTubeでも馴染みやすかった。
※もっというと、ゲーム制作の題材・ギミックとしても採用しやすい
※The Backroomsの“noclip”という設定もゲーム用語・ゲーム的感覚
最後に、SCPはインターネット時代を象徴する、ポケモンのようなキャラクターコンテンツであるという考察も話します。
この考察は、以下の記事や書籍から着想を得ているので興味がある方はぜひ読んでみてほしいです。
ヒトは、未知な事象に対して、妖怪的なキャラクター化をして、それらに対する対処法を言い伝えや慣習などで広めてきた。そして、妖怪からウルトラ怪獣、あるいはポケモンのような“博物学的ヴァリエーション”のあるキャラクターコンテンツに発展した。
※前述の「キャラクター・マトリクス」から解釈した内容
怪獣が自然災害のオマージュだったり、ポケモンが自然のキャラクター化であると考えると、バーチャルの時代になったからこそ、もはや自然がモチーフではないSCPが台頭してきたと考えられるのではないか。
過去にポケモンを論じた中沢新一さんの書籍『ポケットの中の野生』では、ゲームにおける自然的な体験としてのポケモンを語っていましたが、さらに時代が進むことで、未知としての自然がもはやなくなり始めているのかもしれない。
中沢さんによるポケモン論のベースにある「野生の哲学」の個人的な解釈としては、未知(自然)を分類し体系化することで、物事に構造を見出す行為・思想と捉えていて、SCPはその現代版なのではないか。
つまり、(自然に未知を感じづらくなった現代において)ヒトは"SCP"という未知を自ら生み出し、さらにその上で様々な事象から”SCP的なモノ”を見出して分類し、SCPという体系を創造する遊びを生み出した。
報告書という形式やレベル別の分類もそうだし、2020年以降で初めて商業的に刊行されたSCP関連書籍が「大迫力!異常存在SCP大百科」なのも象徴的です。
SCPはインターネットカルチャーを象徴するような、ウルトラマンの怪獣やポケモンに連なるような“バリエーション”が大事なタイプのキャラクターコンテンツということです。
ちなみに、ビックリマンチョコも“バリエーション”ベースのキャラクターコンテンツかなと思うのですが、ビックリマンチョコについて論じた大塚英志さんの書籍『物語消費論 ー「ビックリマン」の神話学』では、80年代のムードとして、"都市伝説"なるモノが登場し、子どもたちに人気が広がっているという話も出てて、めっちゃおもろーってなりました。
80年代は経済発展によって都市開発が進む中で、均質化され管理される”都市”に対する人々の息苦しさから"都市伝説"が生まれ人気になったというような話が書いてあって、2020年以降のシチュエーションともリンクする感覚な気がします。
バーチャルな時代におけるSCPの需要の変化をはじめ、初音ミクのようなインターネットによる匿名的な共同創作、レフ・マノヴィッチが書籍『ニューメディアの言語』で語ったようなデータベースと物語の関係性(インターネットは一貫性のある物語が成立しない)などの要素も含めて、SCPはまさにインターネットカルチャーを象徴する文化です。
そして、それは“未知”という人類普遍のテーマがひとつのキーワードになっているのではないかという考察でした。
以上です。
プロムンはいいぞ…というのと、
天色鮫さんとむちゃたぬきさんの動画がおもしろいぞという話でした。