うごメモとanimation meme、『UNDERTALE』から考察するインディーアニメとオリキャラ(OC)文化について
うごメモと“animation meme”がおもしろいのでその話をします。
※ページ内に動画埋め込みすぎたのかスマホだとページの表示が遅いので、PCで読んでいただくのがよいかもです
animation memeは、既存の音楽を活用したキャラクターのアニメーション動画であり、そのムーブメントの総称です。
『INTERNET YAMERO』や『ロリ神レクイエム』のダンスアニメーションミームがその現代版ではありますが、その系譜は2000年代から登場し、“animation meme”とでも名指すべきひとつのジャンル・コミュニティを形成していました。
例えば、正面を向いたキャラクターが上下にリズムを刻む"head bop"が代表的なアニメーションで、(おそらく)2007年ごろにその表現形式が現れ、“animation meme”コミュニティにおけるひとつの定型として受け継がれています。
そして、2023年に、その"head bop"的な表現をMVに取り入れたボカロ曲「混沌ブギ」が2400万回再生を越える大ヒットを達成。
そのMVの制作には、もともと“animation meme”のスタイルで作品を投稿していたいちまるさんが起用されています。
※「ラヴィ」など近しい表現は過去にもある
そのほか直近のヒット曲となっているボカロ曲「オーバーライド」や「人マニア」、「ラビットホール」も“animation meme”の文脈で語れることが多い。
そこで、2000年代初期からYouTubeで発展していた”animation meme”というジャンル・コミュニティ"を改めて考えてみようという文章となります。
ボカロMVで今後こういうスタイルが増えそうなのと、“animation meme”はインディーアニメーターにとっても新しいコミュニティになりえると考えています。
まず今回の結論としては、
・2020年以降で“アニメMV”がアニメーターの作家性を発信する“メディア”(場)となり、インディーアニメーターたちのファンコミュニティが広がった。そして、2023年以降は“ミーム”がアニメーターにとっての新たな“メディア”になったらおもしろそう。
・“animation meme”は、海外がメインのジャンル・コミュニティでもあり、2010年代後半頃からはゲーム『UNDERTALE』、近年はアニメ『Hazbin Hotel』や『The Amazing Digital Circus』、ゲーム『Poppy Playtime』、Roblox、Countryhumansなどのカートゥーン調あるいは海外発でデフォルメの効いたキャラクターデザインの二次創作が人気です。
・一方で、「OC」(オリジナルキャラクター)による“animation meme”も人気で、“animation meme”発のキャラクターでグッズ展開しているアニメーターもいます。現代のインターネットは、一次創作のキャラクターより有名IPキャラクター(二次創作)が人気を獲得しやすい傾向にある中で、“ミーム”を活用することで「オリジナルキャラクター文化」が広がったらおもしろそう。
※そして、うごメモではOC(あるいは“代理”キャラクター)文化があり、その系譜としても発展している
では、具体的な話をしていきます。
■ animation memeとは?
animation memeは、既存の音楽を活用したキャラクターのアニメーション動画であり、そのmeme的なムーブメントの総称です。
実際に観てもらった方がイメージしやすいと思うので以下にて事例です。
○ 事例1:Freakshow memeの場合
上記が最初のFreakshow meme動画。
そのmeme動画に対して、ほかのクリエイターが同じ構成あるいはオリジナルな要素を追加して別の新しいanimation memeを投稿する。
↓
animation memeのコミュニティでは、キャラクターが上下にリズムを刻むアニメーションが代表的な定型です("head bop"等)。
一方で、そうじゃないパターンもあります。
◯ 事例2:Dr. Livesey-Walk memeの場合
さらには、特定の音楽をベースとして、
アニメーターそれぞれで異なる形式で作品を投稿するパターンもあります。
◯ 事例3:Two Time meme の場合
animation memeの発展の歴史、ミームや表現形式の変遷は、以下のサイトにまとまっています。
※animation memeは海外コミュニティですが、その起源は「Caramelldansen(ウッーウッーウマウマ(゚∀゚))」なのおもろポイントではある
ここでの結論としては、
animation memeというジャンル・コミュニティが2000年代から海外(英語圏)で存在していた。最初はライトで定型なアニメーションからスタートし、既存の音楽をベースとしながらも、アニメーション作品として徐々にクオリティが高くなり、多様な表現・作品も生まれている。
そして、2020年以降、TikTokやYouTubeショートが台頭することで、animation memeがより大衆的なシーンと合流しつつある。
※他者のクリエイティブを自身の作品に組み込むことの制度的・心理的な変化も含めて
日本で馴染みのある海外アニメーターとしては、
音楽アーティストのEveさんやDUSTCELLさんのアニメMVを手がけていたRAMDARAMさんやKorumaさん、Zemyataさんらがもともとanimation meme出身です。
■ 日本におけるanimation meme
animation meme自体は海外発のコミュニティですが、2019年ごろから日本においてもanimation memeを取り入れたクリエイターが登場します。
※私の調べた限りではだいたい2019年ごろから活発になってるかな…?という感触
それが芝豆さんやノコチップさんといったうごメモ出身者と、
海外のanimation memeに影響を受けた(と思われる)いちまるさんです。
芝豆さんはもともとうごメモ出身で、日本勢によるanimation memeとしては(おそらく)最も再生されている動画を投稿しています。
ノコチップさんもうごメモ出身で、『UNDERTALE』のバトルアニメーションがむちゃくちゃかっこいいです。animation memeの形式を取り入れながら、3次元的なアニメーションもできるのが魅力です。
もうひとり近しいコミュニティで活躍する水綿さんもanimation memeのスタイルを取り入れてるクリエイター。
そして、2024年1月に公開されたVTuber・花芽すみれさんによる『人マニア』のカバー曲のMVも手がけていて、サビではanimation meme的な表現を取り入れるなど、テンポよく場面が動く完成度の高い動画になっています。
そして、さらにさらにもうひとりうごメモとは別の文脈でanimation memeで特筆すべきクリエイターがいちまるさんです。海外のanimation memeコミュニティから影響を受けていそうな作風が特徴的です(2020年より動画投稿開始)。
そのいちまるさんが、“head bop”を取り入れて制作したMVが、jon-YAKITORYさんの楽曲「混沌ブギ」という流れです。
結果として、いろんなパターンの「混沌ブギ」のanimation memeも生まれています。
https://www.youtube.com/results?search_query=%E6%B7%B7%E6%B2%8C%E3%83%96%E3%82%AE%E3%80%80meme
また、TikTokにおいては、2023年にためごさんという方がバズってました。
※TikTok版は2023年4月に投稿され、2024年5月時点で760万回再生・100万いいね(ユニバーサル ミュージックとTikTokのあれこれで音源削除されてるのでYouTube版を参考として)
※「honeypie」はanimation memeコミュニティで人気のmeme
※ためごさんはいちまるさんリスペクトでもある
TikTokだと、無能さんや揚田なすさんもオススメ。
ここでの結論としては、
日本においてもanimation memeを実践していたクリエイターたちがいて、そのコミュニティやスタイルが2023年以降にショート動画でバズったりMV制作に関わるなど、じわじわとコミュニティの外側にも波及してきているような印象です。
■ ボカロとanimation meme
また、最近はボカロMVのトレンドとしても、2020年以降の“アニメMV”的なスタイルとはまた違うanimation meme的な表現が人気を獲得しています。
2023年11月に投稿され、現在1500万回再生されている楽曲「オーバーライド」もサビでanimation meme的な表現を取り入れていたりします。
※「オーバーライド」はMAD文化的な側面も大きい
そのほか「人マニア」においてもanimation memeは人気です。
2024年に再ブレイクした「ラビットホール」も、アニメーターのchannelさんによる二次創作「Pure Pure」をきっかけとして、animation meme的な広がりを見せています。
ボカロとアニメーションの関係性でいうと、YouTubeという長尺動画のメディアが2019年ごろから大衆的な存在になることで、“アニメMV”というメディアが確立し、インディーアニメーターたちの作家性を発揮する場となった。
※アニメーター・こむぎこ2000さんによる『ジャイアントキリング』や『不革命前夜』、#indie_animeのコミュニティ発足を皮切りに、EveさんやずとまよさんたちによるインディーアニメーターのMV起用
※2019年以前はハチさんやEveさん、はるまきごはんさん等
※animation meme的な文脈だとナユタン星人さんとか
2020年以降の“アニメMV”がエポックだったのは、“アニメMV”が何百万何千万再生される“メディア”になって、インディーアニメーターの作家性が大衆に届く場になったことだと考えています。
そして、TikTokと2021年に実装されたYouTubeショートによるショート動画の発展によって、2023年には『INTERNET YAMERO』や『ロリ神レクイエム』を代表例として、いまは“ミーム”が新たなメディアになっている。
また、「混沌ブギ」や「オーバーライド」のようなキャラクターが音楽にあわせてリズムを刻むアニメーション(head bop)は、ショート動画と相性がいいです。
※正直、いわゆる"アニメMV"的なスタイルより制作コストも低い
■ 『UNDERTALE』以降のキャラクターデザイン
animation memeは、オリジナルキャラクターによるアニメーションのほか、(海外を中心としたコミュニティのため)やはり海外発のキャラクターコンテンツの二次創作が人気です。
そして、ざっと調べた限りの肌感ですが、日本においてanimation memeを実践しているクリエイターたちも海外発のキャラが好きな方が多い印象です。
その代表例が『UNDERTALE』。
そして、近年は、animation memeに限らず、『Hazbin Hotel』や『The Amazing Digital Circus』などの海外発のキャラクターコンテンツが日本でもヒットしています。
ここからはあくまでも考察ですが、 2017年に『UNDERTALE』が大ヒットを記録することで、『UNDERTALE』がブッ刺さった層にとって、カートゥーン調あるいは海外発のデフォルメの効いたキャラクターデザインが馴染みのあるデザインになったのかなと考えています。
そして、それはディズニーやアメコミなどの従来の英語圏発のキャラクターとも違う消費やムーブメントが起こっている印象です。
(キャラクターデザインとしてはある種のカートゥーン的ですが、それぞれインディーズなのも特徴的です)
つまり、日本のキャラ文化において、日本的な美少女やイケメンをベースとしたキャラクターデザインとは異なる、新しいジャンル・デザイントレンドが開拓されているともいえます。
『UNDERTALE』のサンズ(骸骨キャラ)が、ヒト型のキャラクターデザインと同じような二次創作などのオタク的ムーブメントを起こしているという状況が実はそもそもちょっとエポックで、そのムーブメントが『Hazbin Hotel』や『The Amazing Digital Circus』の人気にも繋がっているのではないか。
アニメ『君の名は。』やゲーム『原神』が到達した日本的なキャラクターデザインとはまた違う、カートゥーン調あるいはデフォルメなキャラクターデザイン、ヒトではない何かの見た目をしたキャラクターコンテンツが日本においてもよりポップな存在になっている。
もちろん『パワーパフガールズ』など人気の作品は過去にもありますが、それらとは異なる刺さり方をしていると感じています。需要のあり方自体は、美少女やイケメンベースのキャラクターと変わらないような物語性や関係性が楽しまれています。
“『UNDERTALE』以降”とくくってしまっていいのではないかと思うほどに、近年は『Hazbin Hotel』や『The Amazing Digital Circus』、『Poppy Playtime』などのインディーズな海外発キャラクターが同時多発的な人気を獲得しているのがおもしろいです。
そして、日本において、“『UNDERTALE』以降”的なキャラクターデザインが受け入れられてる理由として、うごメモにおける"オリ棒"(オリジナル棒人間)文化が大きかったりするのかなと考えていたりします。
実際、オリ棒の派生として、"丸顔人外"というカテゴリがあったりします。
『The Amazing Digital Circus』のポムニやジャックスなんかはまさに丸顔人外的なキャラクターデザインです。
うごメモがブッ刺さってた層・世代にとって、デフォルメなキャラクターデザインや人外が馴染みのあるキャラクター像なのかもしれないと考えています。
そして、(美少女やイケメンをベースとしたキャラクターデザインと比較して)シンプルなキャラクターデザインの方がアニメーションとしては動かしやすい。
例えば、ためごさんはまさに丸顔人外的なオリジナルキャラクターで、Countryhumansというこれもまた丸顔なキャラクターのanimation meme動画を投稿しています。
"アニメ"というと、TVアニメ的なモノがイメージしやすく一般的ですが、時代の変遷やメディアの変化も含めて、そうじゃないアニメーションの形式が盛り上がってもおもしろいよなあと思ったりしてます。
※だからこそ、YouTubeという新しい動画プラットフォームで“アニメMV”という形式に注目が集まったのはおもしろかったわけです
「animation meme」と「デフォルメなキャラクターデザイン・人外」は、現状としては、海外ユーザーがメインではあるのですが、例えば、個人のアニメーターさんが世界に対してアプローチする際には適していると考えています。
※そして、日本のアニメ文化においても、TikTokやYouTubeショート、うごメモ、『UNDERTALE』などのエポックな現象や作品、クリエイターによって、それらが大衆的な存在になるかもという今です
例えば、金寺さんというアニメーターが、デフォルメなデザインのオリジナルキャラクターでanimation meme的な文脈をふまえた作品を投稿していておもしろいです。
テンポよくヌルヌル動くモーションが視覚的に心地よくて、キャラクターの関係性をショート動画でわかりやすく見せています。
日本のアニメやイラスト文化において、こういったデザイン性の一次創作のキャラクターがもっともっと増えると楽しそうだなあと思います。
■ animation memeとオリキャラ文化
オリジナルキャラクターの話でもう少し言うと、animation memeの文脈発でビッグヒットをとばす何か新しいキャラクターが登場する可能性がありそうと思う一方で、むしろ全人類がオリジナルキャラクターで遊ぶ時代になったらおもしろそう。
そう思ったのがこちらの動画。
「ラビットホール」のanimation memeをRobloxの自分のアバター(キャラクター)で再現したアニメーションです。
このアニメーションを制作したOrbさんは、Robloxの中でほかのひとのアバターのイラストを描いてたりします。
アバターはいわばオリジナルキャラクターです。VRChatでは自分のアバターをSkebで描いてもらうみたいなこともあります。
あるいは、うごメモでは"代理キャラ"という自分の分身的なオリジナルキャラクターを創作する文化があったり、近年はTRPGでオリジナルキャラクターを作って楽しむ文化も人気です。
これまで有名IPキャラクターの二次創作がインターネットは人気でした。みんなが知ってるキャラクターの方が共感を得やすく、注目してもらいやすいからです。
ただ、animation memeが一般的な“メディア”になることで、ミームを活用することでオリジナルキャラクターでも見てもらいやすくなります。
数百万数十万再生の動画をanimation memeで定期的に投稿する人気アニメーターが登場する世界線もおもしろいですが、基本的には数万再生程度だけどオリジナルキャラクターがたまにバズるアニメーターが10万人いる、みたいな世界線になったらそれもそれでおもしろそう。
インターネットの構造上、有名IPで遊ぶ時代ですが、自分のオリジナルキャラクターで遊ぶ時代がきたら楽しそうだなと思います。
近年の創作文化の広がりをみていると、ワンチャンありそう。
以上です。
最後に、ここまでで紹介しきれなかったですが、今回の文章のアイデアのきっかけになったオススメのアニメーターたちを紹介します。
■ HyuNooさん
“animation memeでオリジナルキャラクターの関係性を描く”を一番上手くやってそうなアニメーターさんです。
■ SkyeWeiさん
animation memeメインではないけど、調べてて知っためちゃすごアニメーターさん。それぞれでスタイルが異なるけどどれもこれもクオリティ高くてよいです。
■ Kaaatieさん
animation memeを取り入れた動画を投稿する中で、2024年3月に公開したオリジナルキャラクター『Fundamental Paper Education』のアニメーション動画が人気となり、現在1900万回再生を達成。ホラーテイストは近年のインディーズ作品の特徴な気がする。
■ 海外系キャラクターの二次創作系
・GH'Sさん
・POCHI SCIENCEさん
animation memeの文脈から少しそれますが、海外系キャラクターコミュニティの大きさをなんとなく感じる。
■ 天色鮫さん
「animation memeによる人外キャラクターの確立」という点で、animation memeの文脈とは全然違うし、そもそもアニメーターではなく、ゆっくりゲーム実況者だけど、天色鮫さんはおもしろいです。
ゲーム『Lobotomy Corporation』に登場するアブノーマリティたちをキャラクター化してる。
『Lobotomy Corporation』の実況動画もめちゃくちゃおもしろいので、みんな観ような。