Crazy Raccoon古参勢からみたライブ配信/ストリーマーの歴史

文化史的なモノが大好きなので、この文章がめちゃくちゃおもしろかったです。

元々Twitch Japanでお仕事されていた方の文章で、それこそTwitchのストリーマー文化は知らないことが多かったので、非常に勉強になりました。感謝。

そこでふと、esportsチーム・Crazy Raccoonについても改めてまとめておきたいなと思い、今回のnoteを書きます。
(というか、どっかでテキストにしたいと思いつつ、完全にタイミングを逃してたので「いましかねえ…!」)

ちなみに、私は2018年ごろのCrazy Raccoon黎明期から追ってる自称最古参なイチファンです。
(一応、本職はポップカルチャー領域のマーケターなので、そういう視点もありつつ)


今回の文章のポイントとしては、
・Crazy Raccoonがどのように発展したか?
・ストリーマー文化に対してどのような影響をもたらしたか?

まず結論としては、
・Crazy Raccoonは、2018年にフォートナイトのゲームコミュニティと並走するかたちでスタートし、その新興コミュニティの影響力拡大に比例して、Crazy Raccoonおよびその主催大会「Crazy Raccoon Cup」も知名度・人気を獲得していった。
・ストリーマーとesportsを繋げる橋渡し的な存在として、FPSゲームを軸に2020年以降のライブ配信文化を牽引。「Crazy Raccoon Cup」を通じて、ストリーマーとesportsプレイヤーの垣根を壊し、大会観戦およびesportsをよりポップな存在にした。

以下より具体的な話をしていきます。

■ 2018年に誕生したesportsチーム・Crazy Raccoon
2018年ごろの雰囲気として、ストリーマーの注目度が上がることで、“他者のゲームプレイを観て楽しむ”がアリなら(海外でも流行ってるし)esportsもいけるんじゃないか?という期待感がありました。

ただ、ストリーマーはトークがおもしろいのであって“ゲームが上手い”のを観るのとはまた別なのでは…?という問題もあり、実際にその2つのコミュニティには隔たりがあったように思います。

なので、esportsの魅力・熱量がより広い層に届くために当時必要だったことは、「ストリーマーを中心としたネットカルチャーとesportsをどのように接続するか?」という問いとアンサーだったと考えています。
※オリンピック云々とか“スポーツ”の文脈で議論されることもしばしば

そんな個人的な仮説があった中で、2018年に突如現れたesportsチームがCrazy Raccoonでした。

Crazy Raccoonは当初からネットカルチャー的なスタンス・立ち振る舞いが印象的で、特に、リズアートさんやだるまいずごっどさんなど、競技シーンで活躍できるレベルで上手くてストリーマーとしてもおもしろい稀有な才能をチームに勧誘したことは大きかったと思います。
※あるいは、イラストレーターのTSCRさんを起用して所属プレイヤーをキャラクター化したりとか

当時小学生だったリズアートさんは、競技勢ながらもほかのストリーマーとコラボしその存在感を示すなど、2つのコミュニティを繋ぐハブとしてもむちゃくちゃキーパーソンだったと考えています。
※リズアートさんによるネットカルチャー的な立ち振る舞いがおもろいっていう事例は過去にも動画で紹介してたりします:https://youtu.be/k22516bdMN0?si=l0AzZg-QEgooLBFZ

設立間もないCrazy Raccoonというesportsチームの知名度は、リズアートさんなどの所属プレイヤーたちの活躍によって向上していきます。

■ Crazy Raccoonと“ありけん鯖“というコミュニティ
そして、もうひとつ、
Crazy Raccoonの発展に大事だったのは、
“ありけん鯖“というゲーマーコミュニティの存在です。

“ありけん鯖“は、10代を中心としたフォートナイトプレイヤーたちの集まりで、リズアートさん(Crazy Raccoon)やまうふぃんさん(Riddle)などの競技勢をはじめ、ストリーマーのありけんさんやコーンさん(Crazy Raccoon)など、競技勢とストリーマーがごちゃ混ぜな仲良しグループでした。


ちなみに、ありけん鯖のメンバーを中心に開催されたBOXバトルトーナメントのハイライト動画は、YouTubeにて352万回再生され(2024年1月時点)、ありけん鯖のメンバーをライブ配信で応援する大会観戦配信は同接およそ6万人を達成する(ピーク時)など、むちゃくちゃ人気のコミュニティでした。


ありけん鯖のメンバーには、Crazy Raccoonのメンバーも多く、そもそもCrazy Raccoon代表のおじじさんがありけん鯖のライブ配信に参加してたりと、ありけん鯖が好きならそりゃCrazy Raccoonも知ってるよねっていう雰囲気がありました。
※Riddleなど他のesportsチームも垣根なく参加してるのがおもしろポイントだったりします


■ ストリーマーと「Crazy Raccoon Cup」 
さらに、ありけん鯖とCrazy Raccoonの関係性でいうと、
「ありけんカスタム」がむちゃくちゃおもしろくて重要だったと考えています。

「ありけんカスタム」は、ストリーマーのありけんさんが主催するフォートナイトのカスタムマッチで、ありけん鯖のメンバーのほか、視聴者も参加できて、そのカスタムマッチをありけんさんが実況配信するという形式でした。

ありけんさんの実況配信を通じて、ありけん鯖のメンバーたちによるゲームプレイが視聴できるという、コミュニティの“遊び場”として機能していました。

そして、2019年ごろの「Crazy Raccoon Cup(以下、CRカップ)」は、ありけん鯖のメンバーも参加するフォートナイトのコミュニティ大会という側面が大きかったのですが、第三回大会では「ありけんカスタム」がCRカップの予選大会として開催されました。

これがめちゃくちゃよくて…(語彙)

「ありけんカスタム」のおもしろさは、
・ストリーマー主催大会の系譜(Shobosukeさんの「DONCUP」や渋谷ハルさんの「VTuber最強決定戦」、k4senさんの「The k4sen」等)
・ストリーマーによる観戦配信(ミラー配信)の系譜(先駆け?)
・CRカップの予選大会となることで、大会本番に向けての“物語づくり”に繋がる(Apex版CRカップの“練習配信”にも通じる部分がある)
・Discordを活用した実験的な試み(後述)


コミュニティのストリーマーがライブ配信を通じて仲間を応援するという構造は、「ストリーマーを中心としたネットカルチャーとesportsをどのように接続するか?」という問いに対するストリーマーと競技勢の関係性として、むちゃくちゃいいんですよ…

しかも、Discordの画面共有機能を使って、各プレイヤーは自身のプレイ画面を常時共有し、ありけんさんがそれぞれのプレイ画面を切り替えながら大会の様子を実況するというスタイル。
※ゲーム機能として存在しないいわゆるスイッチングを外部サービスでまかなう


これらが10代を中心とした新世代なプレイヤーたち、“ありけん鯖”というストリーマー・競技勢たちのコミュニティによって実施され、フォートナイトから始まったCRカップの熱量と影響力は、回を追うごとに増していきました。

そして、2020年の6月に開催されたフォートナイト版CRカップでは、同接が(調べた感じだと)およそ4万を達成(※公式配信はOPENREC)。

今でこそ十何万、数十万がボコボコ出てますが、ライブ配信文化がコロナ以降で盛り上がったことを考えると当時としては要注目の大会でした。

そして、遊びの延長のようであり、競技というシビアな感覚もあるCRカップの魅力は、2020年以降に大きく飛躍するApex版のCRカップにも引き継がれています。

2020年8月に開催されたApex版CRカップの第一回では、Apexというゲームの爆発的な盛り上がりとあわせて、(調べた感じだと)同接10万を達成し、大きな注目を集めることになりました。
※R.I.P. fortnite…

特筆したいのは、2020年に突如としてApexの巨大なコミュニティ大会が生まれたわけではなく、フォートナイト版CRカップを2019年から継続的に開催し、ありけん鯖のコミュニティとも連動しながら築き上げたファンベースがあってこその大躍進だったということです。

◯フォートナイト版 CRカップの参加者

※回を追うごとに少しずつ当初のコミュニティの外側にいたストリーマーも参加するようになっていきました

◯Apex版 CRカップの参加者

※Apex版CRカップの第一回大会ではありけん鯖のメンバーも多数参加してる

そして、この辺からは多くの人が知ってるかと思いますが、Apexが一大ブームを巻き起こし、CRカップおよびCrazy Raccoonもどんどんビッグになり、ストリーマーやesportsプレイヤーのみならずVTuberや漫画家、芸能人など、様々なコミュニティが混ざり合うコンテンツになりました。

その中で、ApexのesportsプレイヤーであるRasさんやMondoさん、Cptさん、Sellyさんたちの活躍によって競技シーンにも注目が集まる構造になり、さらにVALORANTの競技シーンにおいてもこれまで積み上げてきたCrazy Raccoonのファンベースと、ベルリンでの世界大会に出場するなどしっかりと結果を残すことで、よりesportsが発展・注目されるきっかけになったと考えています。

VALORANTにおいては、esportsチーム・ZETA DIVISIONとの関係性がやはり熱かったですね…

2018年以前よりesportsに魅せられていたレジェンドなesportsプレイヤーたち(旧Absolute)・ストリーマーたち(関さんやk4senさん等)が2021年ごろに現ZETA DIVISIONとして集結し、Crazy Raccoonのコミュニティとも混ざり合うことで、esportsというひとつの文化として大成したと考えています。

大会の観戦配信(ミラー配信)は権利の問題とかでなかなか難しかったりもするようですが、2021年8月の公式国内大会ではストリーマーの関さんと釈迦さんによる公認ミラー配信が実現し、その決勝戦である「ZETA DIVISION vs Crazy Raccooon」は、同接16万人を達成しました。
※参考URL:https://www.negitaku.org/news/n-24872

そしてそして、2022年のVALORANTの世界大会ではいろんなストリーマーたちによるミラー配信が行なわれ、多くのストリーマー・視聴者が見守る中で(日本における同接は29万人)、ZETA DIVISIONが世界3位という快挙を成し遂げるという、ほんとに感動的な大会でした。

2010年代から続くesportsシーンと、現在のストリーマー文化が重なり合い、結実した、文化史的にもほんとに素晴らしい瞬間だったと思います。

そのストリーマーとesportsの歴史において、それらを繋ぐ存在として、Crazy Raccoonが与えた影響は非常に大きいモノだったというお話でした。


■ ありけん鯖から考察する“ライブ配信とDiscord”の関係性

さて、ここからは少し違う視点で、
Crazy Raccoonというよりは、ありけん鯖から考察する“ライブ配信とDiscord”の関係性というテーマを少し考えていきます。

結論としては、
2020年以降のライブ配信文化は、Discordがなければ成立しなかったのではないか?

そして、Discordがライブ配信文化に与えた影響を考えると、
文化史において、“ありけん鯖”が象徴的な存在である、という話です。

まずライブ配信文化について、
・ストリーマー同士がわちゃわちゃ遊んでるのを観て楽しむ
・たまに意外なコラボが発生したりするちょっとしたアクシデント性
・横のつながり、コミュニティを通じて、新しいストリーマーを知ることできる
このあたりがコロナ禍という社会的な状況も含めて、人気になった理由だと思いますが、

上記のようなコンテンツを生み出すために、Discordが果たした役割は文化的にもむちゃくちゃ大きいのではないかと考えています。

現代において、ストリーマーなら誰しもが活用しているDiscord。いわゆるボイスチャットツールですが、サーバーという概念によって、出入りが簡単なコミュニティ・”場”をインターネット空間上に作ることができます。

上記のようなわちゃわちゃ感、ゆるくストリーマー同士が繋がりあえるコミュニティ、放課後の溜まり場的なコミュニケーションを生み出す上で必要不可欠なサービスです。
※ゲーム内VCやskypeとかだと難しそう
※そう考えるとストグラとかその発展系な感じもあるな

ライブ配信というコンテンツの性質上、初見でファンになるというよりは、例えば推しのストリーマーのライブ配信で絡んでるのを見て知って、そこから新しくファンになるケースが多いんじゃないかと思ってます。

例えば、いわゆるスト鯖などの横の繋がり・関係性を生み出しやすいコミュニティを通じて、新しく人気を獲得・注目されるストリーマーが定期的に現れるという構造になっています。

ライブ配信の勝ち筋は、「活動者同士のコミュニティをいかに作るか?(あるいは既存のコミュニティに所属できるか?)」で、だからこそ"箱推し"的なアプローチをライブ配信文化で行なったにじさんじ・ホロライブが現在のシーンを牽引することになったのではないかと考えています。


そして、にじホロが台頭する2018年ごろに、“ありけん鯖”も誕生するわけですが、そのコミュニティ名がDiscordのサーバーであることに由来しているのがむちゃくちゃおもしろいです。

そして、もっというと、ありけん鯖では時折ライブ配信中にOBSでDiscordのサーバー自体を画面共有してたりと、Discord自体をコンテンツに組み込むという画期的なことをしていたりします。

本来はクローズドなコミュニティとして活用されるDiscordの空間をライブ配信でむしろ共有するというコンテンツは、「Discord × ライブ配信」という現代のコンテンツのあり方を予見・象徴するようなアプローチです。
※ご本人たちはそんなことを一切考えていないと思いますが

当時のありけん鯖は、(メンバーたちのSNSでの発言から察するに)暇なときに覗きにいくと、とりあえず誰かしらがサーバーにいる、というまさに放課後の溜まり場のような空間になっていたようで、誰かがライブ配信をしているとふらっとほかの人がやってきて雑談が始まるみたいなことも多かったです。
※ライブ配信中だということに気づかず会話を始めちゃうみたいなアクシデントもありつつ…

ありけん鯖、むちゃくちゃおもしろかったんですよ…

Discordによってインターネット上に放課後の溜まり場的な空間を再現しそれをそのままコンテンツにするという2020年以降のライブ配信文化の形式を2019年ごろから実践し、そのコミュニティ名がDiscordのサーバー由来であることも含めて、“ありけん鯖”は現代のライブ配信文化を語るうえで欠かせない存在だったと考えています。

もっというと、これまで語ってきたように、Crazy Raccooon(esports)の歴史においても、“ありけん鯖”はとても重要だったので、ありけん鯖、むちゃくちゃおもしろかったんですよ…

以上です。


この“放課後の溜まり場的なコミュニケーション”を軸に、
コムドットの考察とかカウンターとしての歌い手文化(暴露コンテンツとか女子研究大学とか)のおもしろさとかも書いてるのでぜひ読んでね。


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