聖地でアマチュア無線(聖地QRV)のススメ
聖地巡礼とは
アニメやゲームの舞台となった土地や施設を訪れるファンが増え、マスコミに注目されるようになり、宗教上の聖地をめぐる旅になぞらえ「聖地巡礼」とよばれるようになりました。特に有名なのは埼玉県久喜市(「らき☆すた」2007年放映。以下同じ)、滋賀県豊郷町(「けいおん!」2009年)、茨城県大洗町(「ガールズ&パンツァー」2012年)ですね。
もともとアニメは架空の時代や場所が舞台の作品が多かったのですが、近年、実在の場所を舞台としたアニメが人気となっています。
アニメのキャラクターもストーリーももちろん架空のお話なのですが、舞台は実在するので実際にその土地を訪れると、まるで自分がアニメの世界に迷い込んでしまったような実に奇妙な感覚がわいてくるのです。個人的には史跡めぐりしている気分に非常に近いです。京都二条城に行って「この大広間で大政奉還が……」というのと同じ感覚で「ここが戦車に2回も突っ込まれた旅館か(大洗町の肴屋本店)」と楽しんでいます。
アマチュア無線とは
趣味にもいろいろあるけれど、国家資格が必要な趣味です。総務省から発行された免許にもとづき電波を送受信します。いちばん手軽な楽しみ方はハンディー機(手のひらサイズの無線機)での音声による交信でしょう。
「どこまで遠くと話せますか?」とよく聞かれます。ハンディー機なら建物の多い市街地ならせいぜい数kmですが、山の上など標高があって見通しのよい場所なら余裕で100km超の交信ができます。
交信の相手は、たいてい知らない人です。「たまたま同時刻に同じ周波数帯(しゅうはすうたい)を聞いていた」という偶然の出会いで、とりわけ旅先で交信した相手は、その後もう一生交信することはないかもしれません。
「知らない人と話をして何が楽しいの」と言われた事があります。わたしは一期一会の奇跡を楽しんでいます。
聖地での移動運用(聖地QRV)の実際
移動運用というのは、アマチュア無線の免許を受けた場所(たいてい自宅)以外に無線機を持ち出して運用することで、聖地巡礼でアマチュア無線を楽しむなら移動運用が中心になります。
アニメのファンが作品の舞台を訪れるようになったのは1990年代半ばごろからで、かく言うわたしは1993年夏に東京都港区麻布十番(「セーラームーン」1992年)を訪問したので聖地巡礼の古参と自負してます。
東京都八王子市高尾山
東京都心から約1時間のアクセス、登山客数世界一の山、高尾山。
わたしが初めて聖地巡礼と移動運用を兼ねて出かけた場所です。
2013年に放映された「R.D.G.(レッドデータガール)」、「ヤマノススメ」の舞台です。
登山客数世界一は伊達ではなく山頂はつねに人でいっぱいですので、アマチュア無線をするにはかなり勇気がいります。前回行ったときはちっちゃい子に“What are you doing?”と聞かれ“Radio, Amateur Radio” と答えましたが、首をかしげていました。
埼玉県飯能市天覧山
明治天皇が陸軍の演習をこの山からご覧になったので天覧山という名前に。ここもアニメ「ヤマノススメ」で登場する作品を代表する舞台です。山というより小高い丘ですが、関東平野を一望できます。空気が澄んでいれば富士山も。西武線飯能駅、JR八高線東飯能駅からも近く、移動運用スポットとしておすすめで、関東一円のアマチュア無線局と交信できます。
埼玉県久喜市鷲宮神社
トップ写真の『らき☆すた』マンホールが設置されている神社。社伝によれば、ヤマトタケルゆかりの神社で、関東最古級の神社とされています。関東平野のほぼ中央に位置し、標高も低く周りは住宅に囲まれているためあまり遠くとは交信できないだろうと思ってハンディー機を取り出したら長野県佐久高原に移動している局がCQを出していてあわてて呼んだら交信できました。距離約100kmでした。つづけて茨城県筑波山の移動局とも交信。筑波山は『ヤマノススメ』の聖地ですので、私自身初めての「聖地-聖地交信」となりました。
ハンディー機でアマチュア無線を楽しもう
ハンディー機では市街地ではせいぜい数kmの範囲でしか交信できないため、初心者は交信できない、あるいはできてもごく近所しかとどかないのですぐ飽きてやめるという話をよく聞きます。私も福岡市で開局したときは、アマチュア無線の周波数帯を聞いていてもまったく交信が聞こえず「福岡にはアマチュア無線家いないのでは」と思っていました。その後、自転車や自動車で走り回り高台なら交信できることを発見しました。聖地巡礼に限らず、お出かけの際にはハンディー機をカバンにいれて出先でアマチュア無線を楽しんでみてはいかがでしょう。
本稿初出:秋葉原無線部「もえれとりくすVol.1」2021年