始めようとおもえなかった

iTunes Stationはハズレのない曲が連続で流れるから良い。それはそのはずで、自分の好きな曲からレコメンドされてくるから外れるはずがない。JD、レディへ、ナンバガ、バズマ、teto、……あげればきりがないがとりあえず好きなものが揃っている。普段のようにアルバム聴きではないから、次に開くアルバムを考えなくて良いのが、なかなか好都合だ。それにしても、好きが揃ってるか。あまり考えなかった感覚だ。
だいたい、地雷よけが基本になっている。私も避けられる側だったり、避ける側だったりする。あなたはどうか知らないけど。極端に合わないものじゃなければ、だいたい好き。それ以外はもう眼中にすらないけど。そういう冷たさが自分の中にも備わっていると気付いた時、少しばかり身悶えた。でもそれは確かなことだ。もともとここは地雷原だ。あなたがそうだと思っている通りに、残念なことがらはたくさんある。それを楽しめるひとも多少はいるのだろうけど、私はそうじゃなかったっていう話。あるいは私もそうなのかもしれない。そうなのだとしたら、何もかも墓に持って行ってしまおう。私のくだらない肉や魂と共に地底に引き下ろしてしまおう。ヘドロとなって分解されることのないゴミと一緒に二度と掘り出されることもなく、そこに安住してしまおう。

「ほら、風呂上がったら部屋着に替えるじゃないですか、そこにもついてるんですよね。」ゴミ拾いをした時のことだった。ゴミは草木が生え散らかったところの根にへばりついて、そいつは離れることはなかった。それを取ろうとしたら草木のひっつき虫に絡まれたのだった。水分には吸い付かなくて固形物には付着する類のものだから、しつこくていけない、ということだった。寝るまでついてくるのか、こいつは。
部屋に帰ったら手が臭った。たぶん自分が吸っていたタバコの匂いだろうけど、あえてゴミの匂いだと思い込んだ。服を替えると、そのひっつき虫はすでにいなかった。私のご相伴にあずかることはなかったようだ、そいつは。そいつもゴミから逃げようとして背伸びしたんだろう。そして間違えてついてきて、そして寝る直前となって私から逃げ出したのだろう。軟弱なやつめと罵ってやることもできたが、落としきったものに言っても仕方のないことだった。

弱肉強食、なんて一番嫌いな言葉だ。人間同士食い合うことなんかないんだ、という正論が私を邪魔する。違う。その事実は変わりない。だた、それに乗っかるかどうかの違いがあるだけだ。それを否認するのではなく、正確な仕方で、正確な場所で、正確な時機に自らの力を使うことを通して、その事実を反転させる。それが全てだろう。安住しきっている人間が作り出せる余裕だな、と自嘲する。きっとあなたにはそう映っている。つくづく醜い生き物だと思うよ、私は。

小説を書こうと思ったことが何度かある。そして今もそう思っている。文フリで知り合った人がいろんな文章を書いている中、私は何も書かずじまいでふらふらとしている。ただ朽ちていくことそれ自体が私の美学なのかもしれないが、それはそれで記録しないと、あるいは何かしらの形でアウトプットしないと、何も残らないだろう。もし私に書く力が残っているなら、それをどこかに刻み込むことは、一定の価値がある。あなたはそうじゃないと否定するだろう。それが正しいと思う。結局、私が書かないことについていえば、端的に諦めがつかないだけなんだと思う。別にアウフヘーブンクとか言わないにしても、何もかも諦めきって、朽ちていくことを意識の運動としてではなく一つの精神の歴史的出来事として回収できたら、違ったのかもしれない。ただ、そうはならなかった。少なくとも今は。まだ捨てられないんだと思う。何を? そこは自分で見つけるさ。

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