続・バイオーム様インタビュー(後半)『収益性とエコシステム』編
一般社団法人日本ゲーミフィケーション協会の田中(以下、JGA田中)です。今回は、株式会社バイオームの代表取締役である藤木庄五郎さん、事業部 企画・運営の山中利郎さんと座談会の後半です。
前回は、『コロナ明けによる変化と生き物への興味』です。季節によって投稿内容の変化、コロナでユーザー数や行動の変化、生物への興味、興味を持つことの大事さについて、興味深い話を聞けました。
今回のテーマは、『収益性とエコシステム』です。マネタイズポイント、生物生息データの使い道、今後の構想についてのお話です。
JGA岸本:
今の「Biome(バイオーム)」は、ユーザーは無料で使えて、課金要素も広告もないようですが、どのように収益を上げているのでしょうか?
藤木さん:
「Biome(バイオーム)」に関しては、サービスと収益を切り離しています。
資金調達をしている他、地方自治体や企業などからの収益もあります。
直近で言えば、東京都の生物インベントリ(地域に分布する動植物の種類目録、分布図など)作成に関する委託費をもらっています。
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2023/08/02/documents/02_02.pdf
また企業に関しては、「Biome(バイオーム)」のクエスト機能を活用した生物多様性保全に関するIR活動の支援をさせていただいたり、昨今では「TNFD」と呼ばれる、企業活動などの人間の行動が生態系にもたらす影響を開示する枠組が整備されてきましたが、こういう情報開示を支援するパッケージなども展開しています。たとえばある工場が周囲の生態系に悪影響を与えていないかという情報を開示する際に、工場近辺の生物データを提供したり、実地調査する際の専門的な調査ツールを提供することができます。
ということで、サービスとは違うレイヤーを用意し、そちらで収益を上げています。
JGA岸本:
同業他社はいるのでしょうか?
山中さん:
この分野のデータベース屋さんがあまりいないので、同業他社は少ないと思います。バイオームはコンサルではありませんが、近い業界はコンサルタント系ですね。
藤木さん:
強いて言うなら、株式会社ウェザーニューズの構造が近いかもしれません。ウェザーニューズさんも自治体や天候にかかわる海運会社等の企業にデータを提供しています。中にはビールの仕入れに使っている企業もあるみたいですね。
JGA田中:
なるほどですね、確かに「Biome(バイオーム)」も「ウェザーニュース」もB to Cではユーザー投稿型のサービスで情報を収集しつつ、B to Bではより高度な情報を提供する形は似ていますね。今現在、ユーザーからはどのくらいのデータが集まっていますか?
藤木さん:
82万人を超えるユーザーから500万件以上のデータが集まっています。
実際に地図を見てみるとこんな感じに、日本中網羅されています。
JGA田中:
船の航路上に鳥のデータが集まっているのは面白いですね!
これだけの数があれば、その中には新種の動植物もいるのでは?
藤木さん:
もしかしたらあるのかもしれませんね!ただ、それが日本では未知なだけで外来種の可能性もあります。外来種は入ってきたらすぐに駆除しないとあっという間に定着してしまう恐れがあって、そうなると生態系維持の観点から問題が出てきます。時間との勝負なので、アプリで外来種が投稿されたらすぐにアラートを出して知らせるというような、外来種アラートのサービスもやっています。
JGA岸本:
今の段階でかなりのデータが集まっていると思うのですが、今後の展開として予定していることはありますか?例えば、箱庭構想であったり動画から割り出せるような機能であったりがあると。
藤木さん:
箱庭構想はコレクション性を活かせるのはいいなと、前々から思っていましたが、すぐに飽きられてしまうのではないかという疑念から、まだ実現はしていません。またARを実装してほしいという話も聞きますが、体験の面白さ的には「う〜ん…」という感じですね。ただ、スマートグラスを使った体験なら、それはありかもしれませんね。
それから動画をコマ割りして動植物を特定することは技術的には可能で、検討もしたんですが、データ量が大きくなり、サーバー負荷が今の100倍になりそうだという試算になりました。さすがに、そこまでのメリットもないので、とりあえず現状としてまずは複数枚から判定する、くらいのところからやろうかと思っています。
あとは、野望として、「Biome(バイオーム)」を使った「生き物探し」をひとつのアクティビティにしたいと思っています。「釣り」・「登山」・「生き物探し」のように、ですね。もう少し詳しく言うと、こういったアクティビティを定義付ける要素の一つは「道具」だと考えていて、例えば「釣り」の場合だと、「釣り竿」や「釣り針」という道具の存在が「釣り」の重要な要素になっていると思うんです。それと同じように、「Biome(バイオーム)」という道具が「生き物探し」という新たなアクティビティを定義付けてくれるんじゃないかと期待しています。そうして、楽しみながら生態系を維持できる仕組みを広げていきたいです。
JGA田中:
巷では、「人間も自然の生き物であり生態系の一部なので、人の行動が生態系を破壊しているとか多様性を失わせているというように見えるのも自然の摂理であり、生態系の進化である」という話を聞くこともあります。これについてはどうお考えですか?
藤木さん:
これに関しては、ナンセンスだと思っています。正直なところ、その議論には個人的にあまり興味がありません。人間が自然の摂理によって生態系を破壊するのであれば、それを食い止め、生態系を維持したいと考えるのもまた人間です。あくまでも人が自分たちの理想やメリットのために、評価したり行動したりする、ただそれだけのことでしかないと思います。我々としては、生態系を維持し保全することは人間にメリットがあり、人間のためになると思っています。また、生態系の維持や保全といっても、もともと生き物が少なかった場所にたくさんの種類の生き物がいる状態にするとか、闇雲に生き物の数を増やすのではなくて、積極的に人の手を借りなくてもその場所の生態系がずっと安定している状態にする、というのが大事だと思います。生き物が絶滅してしまったり、増えすぎて害になったりすることもなく、バランスよく循環している状態こそが健全なエコシステムだと考えています。とは言え、特定の空間内にどのくらいの多様な生物がいるのが安定状態なのか、簡単にはわかりません。でもより多くのデータが集まれば、その場所の理想的な状態というのもわかってくるかもしれません。
我々は愛護団体ではないので、このエコシステムを冷静に見極める、あくまで観測者という立ち位置を守っています。まずは生物多様性をちゃんと客観的に評価できるような、情報のプラットフォームを作るのが重要だと思っています。生物多様性を保全するためには何らかのルール作りが必要なのは間違いありませんが、その際に大切なのはやはり客観的なデータです。我々は生物データのプラットフォーマーとして、こういったルール作りにも積極的に関わっていきたいと考えています。
JGA岸本・田中:
本日はありがとうございました。
本日のまとめ:
「Biome(バイオーム)」は、季節によって投稿内容のトレンドが変わり(夏は昆虫、春は植物、冬は鳥など)、いまは旅行やキャンプからの投稿が多くなっています。『Biome』は季節や環境、さまざまな興味に応じて多様な内容が投稿されるプラットフォームであり、教育や興味を持たせる大きな役割を果たしていることが明らかになりました。
「Biome(バイオーム)」はユーザーに無料で提供されており、課金要素はありません。収益は資金調達や、80万人を超えるユーザーから集めた生態系に関する有益な情報を、地方自治体や企業に提供することでの収益で成り立っています。バイオーム社はエコシステムを冷静に観察する立場であり、その維持に寄与するルール作りにもデータプラットフォーマーとして積極的に関わりたいと考えています。
本日お話を伺いまして、生態系に対するスタンスやアクションについて、かなり腑に落ちました。周囲に生息する未知の動植物について楽しみながら学べるだけでなく、そのプロセスで生態系の保全にも間接的に貢献できるという、まさに一石二鳥のサービスです。新しい機種に変更する際も、このアプリは確実に継続して使用するつもりです。
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執筆:日本ゲーミフィケーション協会 田中