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アメリカの保護主義が生んだ「Buy American法」とは?

こんにちは、自由主義研究所の藤丸です。
今回は、アメリカの規制を紹介しようと思います。

なぜ日本の規制ではなく、アメリカの規制かというと、
日本の話では、どうしても感情が入ってしまうので、
規制そのものを冷静に客観的に考えることが難しい
場合があるからです。

アメリカの規制の話からその問題点を知り、
その後に日本の類似の政策の是非も考えてもらえれば嬉しいです。

また、アメリカのシンクタンク「ケイトー研究所」の論文を意訳・要約して紹介することで、アメリカの自由主義系シンクタンクの見方を知り、
日本でも参考にしていきたいと思います。

※「ケイトー研究所」についてはこちらの記事をごらんください😊


今回紹介するアメリカの規制は
「Buy American法(バイ・アメリカン法)」です。

この規制は、
「アメリカの保護貿易政策の32個のうち、最もひどいものを投票で決めよう」というケイトー研究所の企画、
「2023 PROTECTIONIST MADNESS(2023保護主義者の狂気)」で、
みごと第2位を獲得しました‼

つまり「アメリカの保護政策の中で2番めにひどい規制」です💦


この論文(2023年2月)の結論は、
「連邦政府の請負業者に米国製品の使用を強制することは、
 あらゆる種類の経済的弊害を生み出す」

1,バイ・アメリカン法とは何か?

「バイ・アメリカン法」とは何か?

「バイ・アメリカン法」は米国の一つの法律ですが、
実際には、連邦政府の支出に関連するいくつかの異なる規制を示しています。これらは「産業保護政策」が生んだ規制です。
具体的には以下のA~Fの6つが代表的です。

A,1933年に制定されたバイ・アメリカン法
連邦政府の機関は、
「実質的にすべて米国内で採掘、生産、製造された物品、材料、または供給品から製造された」物品を優先的に調達しなければならない。
この「実質的にすべて」を具体的に定義していないので、
歴代大統領はそれを曖昧にしてきた。
「実質的にすべて」を示す範囲は、以前は50%だったが、
トランプが55%に引き上げた。
現在はバイデンが60%に上げ、2024年に65%、2029年に75%に再び引き上げると約束している。

→連邦政府が購入する品物は、米国国産品を優先しろ、というということですね。
このような産業保護は、共和党も民主党も両者とも促進しているようです。

B,1941年のベリー修正条項
アメリカ国防総省が購入する品物について、
繊維、衣料、履物、食品、手工具または計測器(平皿や食器を含む)の5つのカテゴリーに該当する場合は、100%国内産でなければならない。
その後、1973年に「特殊金属」に対する制限が追加された。

C,2009年のキセル修正条項(アメリカ復興再投資法)
アメリカ国土安全保障省が購入する品物について、
繊維、衣類、履物は、アメリカ製のものを購入しなければならない。

D,1904年の軍用貨物優先法および関連する海事法(ジョーンズ法含む)
米軍は貨物や人員の輸送に米国の船舶を使用しなければならない。
またその他の特定の物品(アンカーチェーンなど)は米国製を使用しなければならない。

→国防総省や国土交通省や米軍に対する、より具体的な規制です。
これらは安全保障を名目にしながら、
実際には、安全保障を悪化させています
(これは後日noteに書きます)。

E,1978年に制定されたバイ・アメリカン法とその関連法規
州や自治体が行う場合も、
連邦政府が資金を提供する交通プロジェクト(高速道路、公共交通、航空、都市間旅客鉄道(アムトラックを含む)、水インフラなど)に適用される。
含有量の基準は製品によって異なるが、
鉄、鋼、および関連する製造製品は、米国内で完全に(100%)製造されていることが条件。

→鉄、鋼は完全に国産品、とは厳しいですね💦

F, Build America, Buy America Act(BABA)
2021年11月バイデン大統領は、インフラ投資・雇用法(IIJA)に著名した。
これに含まれるBABAは、産業保護政策の対象となる公共事業の範囲を以下のように拡大し、これによってコストは更に大幅に増加した。

(1)プロジェクトの範囲の拡大:輸送や水関連だけでなく、ほとんどの公共事業(ダム、ビル、送電施設など)を対象とする、
(2)建設資材の範囲の拡大:通常の鉄鋼製品に加え、非鉄金属(銅など)、プラスチック・ポリマー系製品、ガラス、複合建材、木材、ドライウォールを対象とする。また、IIJAの資金で購入される製造品は、米国内で生産され、少なくとも55%の米国産の原材料を使用しなければならない。

→最近のバイデンの政策でも、産業保護政策は大幅に進められています。


さらに、特定の商品やサービスに適用されるバイ・アメリカン規制も多数あり、その内容は、明らかなもの(防衛関連商品)から不条理なもの(ホワイトハウスの家具、学校給食など)まで様々です。
バイ・アメリカン法に相当する州法では、州内購入を義務付けることもあり、調達がさらに制限されることも少なくありません。

2,バイ・アメリカン法の例外


このように細かく厳しい規制ですが、以下のものが例外としてあげられています。

コストがかかりすぎる場合
 (例:米国版が外国の代替品より20~50%高い場合)
十分な量や満足できる品質の米国製がない場合
・米国製を優先することが「公共の利益と矛盾する」場合
米国と相互貿易協定を結んでいる国の製品が問題になっている場合
主に防衛関連(欧州を中心に27カ国)、自由貿易協定(20カ国)、世界貿易機関の政府調達協定(EU27カ国を含む48カ国)など、米国が相互貿易協定を結んでいる国の製品の場合。

しかし、実際には例外が適応されることは多くありません。
政府説明責任局は、
2017会計年度の連邦政府の購入品に占める外国製の最終製品の割合はわずか4%(1960億ドルのうち78億ドル)だったと発表しています。
2014年の米国の調達支出のうち、(最終用途だけでなく)あらゆる種類の物品とサービスの輸入はわずか7.5%で、調査した6つの経済圏の中で最も低い割合でした。
 

3,バイ・アメリカン法の弊害

■コストの増加。税金が無駄になる

バイ・アメリカン法は「対象輸入品に26%の関税をかけるのと同等」なので、国内同等品の価格をほぼ6%引き上げ、
「ほとんどどこでも買う」代替案と比較して、
米国政府は年間約1000億ドルの追加コストを負担することになります。

高価な(そして欠陥のある)地下鉄車両、非常に高価な橋、高価な輸送バスなど、数え切れないほどたくさんの例があります。

■複雑さ、書類作成などによる遅延の増加

バイ・アメリカン法の結果、面倒な書類作成という悪夢が生まれました。再生法の資金で部分的にでも賄われるプロジェクトはすべて、書類作成の要件を満たす必要があります。
つまり、参加するすべての請負業者、サプライヤー、メーカーが、供給される部品が復興法のバイ・アメリカン条項を満たしていることを証明する、異なる書類一式に記入し提出しなければならないのです。
たとえ10ドルでも、すべての部品が「米国製」の要件を満たしていることを証明する認証、書類作成、証明が必要で、
プロジェクトが遅延する大きな原因となっています。

(例)
連邦交通局(FTA)が、サクラメントでのガス移設のための230万ドルの払い戻し契約について、バイ・アメリカン法を見直すよう要請したため、
移設が1年遅れた。結局、430万ドルのコスト増で完了した。

また、何が「米国製」なのかの判断も解釈の余地があります。
バイ・アメリカン法では「部品」は米国製である必要があるが、
「サブ部品」はそうではないため、
中国製のモーターが「部品」とみなされるかどうかによって、
「米国製」のスタンディングデスクが「米国製でない」ことになりかねません。
このように、バイ・アメリカン法の複雑な問題は、
弁護士や競合企業の戦場となり、コスト増加とプロジェクト遅延の両面で、私達を苦しめることになります。

(例)
2011年、ニューヨークのメトロポリタン交通局(MTA)は、2つの業者がフィンランドの消火システムを使用することを承認した。MTAの数ヶ月に及ぶ調査の結果、バイ・アメリカン法に準拠したシステムであると判断された。

しかし2013年、この契約を知った競合他社が連邦交通局に苦情を申し立て、連邦交通局は長期の正式調査の後、2015年(4年後!)にMTAの判断を覆し、アメリカ製のシステムに交換するよう要求した。


■米国政府機関がなんとか避けようとするバイ・アメリカン法

バイ・アメリカン法が深刻な負担だとを示す最もわかりやすい証拠は、
米国政府機関自身がそれを回避しようとし続けていることです。

例えば、十数州が「連邦補助金交換法」を制定しています。
これは、「連邦高速道路資金」を「州の交通資金」に少額の手数料で交換することを、地方機関に認めるものです。
州の資金で地方プロジェクトを実施し、
バイ・アメリカン法などの規制を回避することを目的としたものです。

地方自治体が連邦政府規制(バイ・アメリカンやその他の規制)を回避するために時間とお金を払うことを厭わないということが、
連邦政府規制の負担の深刻さを示しています。


■輸出の減少(そして外交問題)

これは目に見えにくい弊害です。

昨年ヨーロッパとカナダで問題となったように、
このようなアメリカの保護主義政策のせいで、
同盟国が他の経済問題や地政学的問題(中国問題など)でアメリカに協力することが難しくなっています

バイデン政権は BABA を実施する際に、
貿易協定上の義務を無視する可能性があり、
米国の貿易政策を巡る国際紛争やこれらの市場における米国企業に対する報復がさらに増える恐れがあります。

■意図しない結果

アメリカの他の産業政策にもよくみられるように、
バイ・アメリカン法も、経済全体に目に見えない多くの歪みを生み出し、政策目標を損なっています。

(例)
地方の交通機関が、より高価(東京やソウルのバスは米国のバスの半額)で燃費の悪い米国製バスを購入するはめになった。
その結果、アメリカ人は質の低い不便な公共交通機関を利用しなければならなくなり、交通渋滞を増やし環境に害を与えることになった。

国際競争から守られることで、国内のバスメーカーは技術革新に努力しなくてもよいようになった。
つまり政府規制が、メーカーの技術革新を阻害しているのだ。

2019年の政府諮問委員会の報告書は、バイ・アメリカン法とベリー修正条項によって、米軍が最先端製品を使用できなくなり
「最先端の容易に入手できる製品やソリューションを効率的に調達することに逆行する」と警告した。

通信会社や水関係の会社からも、BABAの新制度について同様の懸念が
出されている。
彼らは「今日のグローバルなサプライチェーンにそぐわない規制は、最新かつ最も革新的な技術の利用を妨げることになる」と主張している。

■マクロ経済的コスト

他の保護主義政策と同様に、バイ・アメリカン法も、
有限の資源を、生産性の低い努力に向けることで、
米国経済に広範なコストを課しています。

2017年の論文では、経済全体の(一般均衡)モデルを用いて、
特定のバイ・アメリカン規制を廃止し、
調達コストの節約分を納税者に還元した場合にどうなるかを確認した。

その結果は、306,000人の新規雇用、220億ドルの追加経済生産(GDP)、米国の製造業への影響はごくわずか(この部門は「バイ・アメリカ(n)に強く依存していない」ため)。

仮に政府が節約分を納税者に返還しなかったと仮定しても、
バイ・アメリカン規制を止めることで、
建設雇用の増加、政府プロジェクトの迅速化と改善、技術革新の促進、賃金上昇など、経済全体に重要な利益をもたらすことは間違いない。

この研究の著者は、「バイ・アメリカン法は、雇用と経済成長を促進する政策として失敗していることは明らかである」と結論付けている。

4,まとめ


バイ・アメリカン法は、
コストがかかる割に成果が少なく、政府の目的を損なうだけでなく、
多くの歪みを生みます

これは関税のようなものですが、官僚主義、不確実性、不透明性、他の政府政策との直接的な関連性を考えると、関税よりもはるかに悪いです。

ではなぜ民主党政権でも共和党政権でも、
こうした規制が続くだけでなく、拡大されているのでしょうか?

それは、「政治」です。
特に、旧来のバイ・アメリカン法には、
それを維持するために激しいロビー活動を行う受益者が存在します。
鉄鋼業界は数年前にそうだったし、BABAによって適用された業界(木材、ガラス、光ファイバー)もそうです。
これらの企業の算段は否定できません。

例えばニューバランス社は、2014年に1730万ドルのの契約を獲得するために、わずか23万ドルのロビー活動を行い、保護主義のベリー修正条項によって契約を獲得することができました。

これらのロビー活動費は、もっと生産的な目的に使うことができたはずなのです。
しかし、政治家や官僚が税金を配ることに熱心で、
有権者がこのような問題にほとんど気づいていない場合、
企業経営者が、ロビー活動で莫大な契約を手にするという楽な道を選ぶことは、必ずしも不合理ではないのでしょう…。

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以上です。最後まで読んでくださりありがとうございました😊

自国の産業保護政策については、賛成意見の方も多いと思います。
「国産」「日本製」は、なんとなく望ましいと感じます。
しかし、このアメリカの例のように、
それを「強制する」ことは、様々な問題を引き起こすのです。


この論文は、こちら ↓ に載っています。


次回は、このような産業保護規制と国家安全保障についての論文を紹介したいと思います。


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