3%のインフレは必要なのか?~経済成長とデフレ
今回は、オーストリア学派の経済発展論が簡潔にまとまっている記事を紹介します。
ミーゼス研究所のHPに一昨日(2024年8月20日)に掲載されたPaul F. Cwik氏の”Do We Need 3% Inflation? Economic Growth and Deflation”です。
※下記から全文が読めます。
※一部意訳しています。太字や注は筆者です。
3%のインフレは必要なのか?~経済成長とデフレ
経済を成長させるものは何なのでしょうか?
関税の引き下げでしょうか?税率の引き下げでしょうか?経済規制と官僚制の削減でしょうか?
これらのどれもが経済成長を刺激・促進するかもしれませんが、これらは決して経済成長を引き起こしてはいません。
経済成長は、起業家が生産コストを削減する新しい生産方法を採用することで生じます。
コスト削減には多くの種類があります。新しく発見された資源はコストを下げます。生産時間、労働、資源を減らす新技術もコストを削減します。また見逃されがちなことですが、比較優位の法則に従った資源配分(訳注:世界的な分業のこと)もまたコストを下げます。
この点を明確化するために、1日に1000単位の生地を生産する起業家を考えてみましょう。
もし彼が労賃と資本設備の維持に1日5000ドル使っているとすれば、平均の生産費用は生地1単位あたり5ドルになります。さらに、市場では1単位の生地が6ドルで売れるとすれば、起業家は(税やその他のコストを無視すれば)20%のリターンを得ていることになります。
今、資本設備の改良方法が発明されたとしましょう。それは木綿の新しい生産場所、労働者のスキルの向上、比較優位の法則を反映した生産の調整のどれでもかまいません。重要な点は、生産コストが下がるということです。
彼はそれによる追加的な利益を自分で消費しても良いですが、もしそうするなら、もっと大きな利益を逃すことになります。追加的な利益を自分で消費する代わりに、商品価格を下げれば、競争相手の多くの顧客を引き付けることができます。そうすれば、売上と収入が増加するでしょう。
こうして会社は繁栄し、関係者全員が得をします。労働者はより生産的になり、その結果、彼らの実質賃金は上昇します。顧客はより多くの生地を安く手に入れることができます。会社がうまく行けば、投資家やサプライヤーも得をします。時間が経つにつれて、競争相手は同じような(あるいはより良い)改良方法を採用しなければ、倒産の危機に瀕するでしょう。
起業家のコスト削減によって、社会全体が豊かになるのです。
経済成長は、経済全体で均質なわけではありません。成長が「デコボコ」になるのは、各産業でのコスト削減の程度が違うからです。その結果、ある商品の値段は劇的に低下し、別の商品ではわずかに低下、あるいは価格が上昇する商品さえあるでしょう。全部を総合すれば、価格はデフレとなります。言い換えれば、各人の購買力が増加するということです。
その結果、人々が買える財とサービスは増えます。あるいは、その余剰を貯蓄することもできます。各市場のレベルで価格が調整されるにつれて、不均衡状態はすぐに解消されます。全体として、経済が成長するときにはデフレが生じるでしょう。
この結論が重要なのは、通過供給(マネーサプライ)を増加させることには、経済的な意味がないことになるからです。
「通貨」の需要と供給には、「他の財」と同じルールが当てはまりますが、通貨はある決定的な側面において、他の財と異なっています。
通貨は使用されても、それはなくならないということです。対照的に、リンゴを使う(消費する)とき、それはなくなってしまいます。消費されるのです。クルマを運転するときも、ゆっくりではありますが、車はだんだんと消耗されてしまいます。しかし、通貨を使うとき、それはなくなりません。
使用された1ドルは、使用前とまったく同じです。通貨の形態によってはすり減ったり、傷んだりしますが、その名目的な価値は維持されます。
言い換えれば、使い古した1ドル札、または4個の25セント硬貨、あるいは銀行口座にある1ドルの持つ購買力は、完全に同じなのだ。
なぜ通貨供給を増やす必要があると主張する人がいるのでしょうか?
通貨供給量を増やす経済的な理由はまったく存在しませんが、そこには大きな政治的理由があります。
簡単に思いつくのは、なぜ犯罪者が通貨を偽造するのか?という疑問です。
答えは自明です。彼はほとんどコストなしに購買力を欲しているのです。
同じ論理は、かつて錬金術によって鉛を金に変えようとした努力にも当てはまります。誰が通貨を作り出したのか、それが偽造の犯罪者であれ、神秘の魔法使いであれ、あるいは中央銀行であれ、まったく同じ経済原理があてはまります。
つまり最初に通貨を作り出した者の勝ちであり、最後に得た者が負けるのです。これは「カンティヨン効果」と呼ばれ、1720年代初期に初めて記されました。
カンティヨン効果によって、新しい通貨が最初に使われたときは、現在の価格で交換されます。この通貨の新しい買い手はそれを使って市場で入札し、財・サービスを入手します。こうした財・サービスの入札によって、市場での価格が上昇します。
第2段階では、その他の人々も新しい通貨を持っています。彼らもまたそれを使って、自分のために財・サービスを手に入れます。またしても、こうした活動によって価格には上昇圧力がかかります。すべての価格が同じ程度の影響を受けるわけではありません。稀なことかもしれないが、価格が低下する財もあるかもしれません。新しい通貨が経済に広がるときは、均質に(あるいはまったく同じスピードで)広がるわけではありません。この分析は、ステップ・バイ・ステップの過程を考慮しなければなりません。なぜなら、マクロ経済的な総量の分析では、こうしたミクロ的な効果を見逃してしまうからです。
もし新しい通貨が多様な経済セクターに、さらには異なった時間に注入されるなら、その結果は異なったものになるでしょう。
重要な点は、ある人々は新しい通貨へのアクセスが未だにできない時点で、すでに、より高い価格に直面するということです。その結果、彼らの実質的な富は減少します。
カンティヨン効果は、こうして最初に新通貨を得たものが勝者になること、そしてまた最後に得たものが敗者になることを示しています。富は、通貨を最後に得たものから、最初に得たものへと移転されるのです。
我々の経済において、新しい通貨を最初に使うのは誰でしょうか?今日、通貨には何の裏付けもありません。それは無から作り出されるのです。法定通貨とは、まさに「宣言された通貨」という意味であり、命令の言葉によって生まれたものなのです。今や魔術によって鉛を金に変える必要はなく、中央銀行と銀行システムのコンピュータのキーボードを押すことによって新しい通貨は無限に創造できます。
アメリカの中央銀行である連邦準備制度は、政府の財政政策と金融・銀行制度を提供しています。これらの組織が新しい通貨を最初に受け取ります。彼らは、他の全員を犠牲にして利益を得るのです。新しい1ドルは、以前から存在する1ドルの購買力を低下させます。その他の全員の富が減少するのです。
実際のところ、政府や中央銀行には通貨供給を増やす理由があります。中央銀行には、人々に3%のインフレは2%よりも望ましいと説得する理由もあります。政府や中央銀行には、それが自分たちにとって得になるからです。しかし、残念ながら他の多くの人々にとってはそうではありません。
カンティヨン効果は、通貨拡大の短期的な影響を教えてくれます。私がもうすぐ出版する書籍で詳細に説明してするように、もし通貨の拡大が続くなら、それは景気の変動を生み出すでしょう。拡大的な通貨政策は、長期的な影響として貯蓄率の低下、資本の消費、将来的な生活水準の低下、通貨そのものの崩壊さえも生み出すでしょう。
ミーゼスは次のように書いています。