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中小の救世主トーセン、集成材・2×4部材に進出・上

新年を迎えた国産材業界は、波乱の真っ直中にある。新設住宅着工戸数の減少や建築様式の変化により、製材工場の経営環境は激変、倒産・廃業が後を絶たない。その一方で、大手住宅メーカーや2×4住宅メーカーの“国産材シフト”が目立つ。危機と好機がないまぜになったような状況だ。
文字どおり岐路に立つ国産材業界の中で、一際輝きをみせている企業がある。栃木県矢板市に本社を置く(株)トーセン(東泉清寿・代表取締役社長、第317号参照)だ。「母船式木流システム」(以下、「母船式」と略)という独自のビジネスモデルを確立し、提携工場が着実に増加、年間原木消費量も20万m3を上回るまでに成長した。中小規模の製材工場にとっては、さながら“救世主”のような存在になったトーセン。その成長力の源泉にあるものは何か。遠藤日雄・鹿児島大学教授が同社を訪ねた。

「母船式」の工場数は21に拡大、20万m3体制確立

遠藤教授が向かったのは、トーセンの「第3母船」である群馬県産材加工協同組合(群馬県藤岡市、代表理事は東泉社長)。最寄りのJR本庄駅に降り立った遠藤教授を出迎えた東泉社長は、いきなり切り出した。「昨年末に提携工場が1つ増えた。これで全部で21社になった」。

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東泉清寿・トーセン代表取締役社長

遠藤教授
3年前にこの工場を視察した際の提携工場数は15だと記憶している。グループ工場数が増え続けているのは、「母船式」が関係者から支持されている現れとみてよいか。

東泉社長
今はとくに中小規模の製材工場にとって、経営を維持していくことが難しい時代だ。毎年500~600の製材工場が廃業に追い込まれている。年間で1000億円以上の富が消えている計算だ。この現状に、何とか歯止めをかけなければならない。

「わけあり」工場を見捨てず、技術と雇用を守る

遠藤
かつて南氷洋で盛んだった捕鯨の母船とキャッチャーボートになぞらえたトーセンのビジネスモデルは極めてユニークだ。経営難に陥っているが、資金支援や経営指導をすれば再生可能な工場は少なくない。そこに手をさしのべることが待たれているのだが、実際にはなかなかできるものではない。

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東泉
「母船式」を頼ってくる製材工場は、「わけあり」なところが多い(笑)。だから、弊社の経営方針を理解し、実行できるところでないと、提携はできない。そこは厳しく峻別している。

国産材の製材技術には、非常に奥深いものがある。柱など単品を量産するのならば無人化工場もあり得るが、需要が増えている羽柄材製品などを安定的に出荷する体制をつくるのは難しい。入社2~3年の社員でやろうとしても無理だ。その点、今まで製材工場をやっていた人達は、採算性や歩留まり、品質、用途などを熟知している。だから、この人達の力をキャッチャーボードとして活かす。ただ、乾燥機もないし、売れ筋の情報も不足しているから、母船が補う仕組みがいる。現在、母船はこの工場を含めて5つある。乾燥機は合計で48基になった。

母船5工場の概要

第1母船(KD 生産能力2,500m3 /月)KD 物流センター・KD 加工センター(栃木県矢板市)
第2母船(KD 生産能力1,500m3 /月)県北木材協同組合塩谷工場(栃木県塩谷町)
第3母船(KD 生産能力2,500m3 /月)県産材加工協同組合(群馬県藤岡市)
第4母船(KD 生産能力2,000m3 /月)大田原工場(栃木県矢板市)
第5母船(KD 生産能力 600m3 /月)新潟北部木材加工協同組合(新潟県岩船郡)

遠藤
母船式のメリットは、提携工場がつくった各種製品を母船工場に一元化することで、設備稼働率を高め、乾燥などエネルギーコストを削減するところにある。だが、真の狙いは、それだけに止まらないのではないか。

東泉
弊社では、母船式とともに、関東地方の山裾に提携工場を整備していくウッドロード構想も進めている。これにより、山元への利益還元を図りたい。そして、地域に雇用の場を創出したい。

弊社の従業員数は220名になった。昨年10月には全社員が集まって運動会を開催した。1年に1回は、みんなが顔を合わせて気持ちを1つにする機会がいる。母船式の根本にあるのは、信頼関係だ。例えば、母船工場と提携工場の役割分担を決める際に、契約書を取り交わすようなことはしない。ものづくりは人づくりであり、意欲をもって働いてもらえる場をいかにつくれるかが勝負だ。

新潟に集成材加工拠点、平角の“国産化”に挑む

東泉社長は、遠藤教授を工場内に連れ出した。様々な製品がよどみなく流れていく加工ラインの前で、今年からラインナップに加える新商品の構想について語り始めた。その1つは、集成材だという。ムクKD(人工乾燥)材で地歩を固めたトーセンが集成材に進出するというニュースは、業界内で話題のマトとなっている。

当面、集成材生産の拠点となるのは、昨年、母船式に加わった新潟北部木材加工協同組合(岩船郡)だ。新潟県内最大の製材加工施設として平成15年に開設された同工場は、経営悪化により一昨年12月に民事再生法の適用を申請(第356号参照)。東泉社長は、民事再生の費用(900万円)を負担し、同組合の経営陣(理事)を全面的に入れ替えるなど、再スタートの環境を整えてきた。同工場では、新たにスギとヒノキの異樹種集成材などを加工していくという。

遠藤
一口に集成材といっても製品には各種あるが、何を主力にするのか。

東泉
ターゲットは平角だ。住宅に使われる木材の割合をみると、柱は18%であるのに対し、平角は28%を占める。だが、平角に使われているのは、圧倒的に外材だ。ここを“国産化”したい。

遠藤
確かに、国産材が最も弱い分野は平角だ。とくにムク材の場合、大手住宅メーカーが要求する強度を担保できないことがネックになっている。

東泉
弊社も、国産ムクKDの平角を売っていこうと、ここ3~4年努力してきた。しかし、ムク材の場合は、どうしても強度が1本1本不揃いになってしまう。高い強度を示す場合もあるのだが、バラツキがあると大手住宅メーカーは使ってくれない。そこで集成材にしてE95(ヤング係数)ならE95で均一化させて、大量注文に対応したい。集成材ならば、曲がり材や欠点材なども有効利用できる。ムクで使える材はそのまま活かし、何らかの「わけあり」材は集成材に加工する。そうした使い分けが臨機応変にできることも母船式の強みだ。

安価なPB商品を計画生産、4月からスタッド販売

遠藤
集成平角も手がけるということは、大手住宅メーカーの“国産材シフト”に手応えを感じているということか。

東泉
そうだ。明らかに流れが変わってきている。面白いものをお見せしよう。これは、昨年からつくり始めた個々の住宅メーカー向けのFJ(フィンガー・ジョイント)間柱だ。国産材版のPB(プライベート・ブランド)商品という位置づけだ。一般の間柱よりも価格は安く、m3当たり4万円前後で販売している。住宅メーカーには、事前に品質を確認してもらい、注文を出してもらっている。だから、弊社なりに生産計画を工夫して、低コストで加工・供給ができる。この価格帯ならば、外材製品に間違いなく勝てる。

遠藤
小売業界で目立ってきたPB商品が、国産材業界にも登場してきたとは驚きだ。ところで、今年は集成材のほかにも、新商品を用意していると聞いたが。

東泉
4月くらいから、2×4住宅用の部材を販売を開始する予定だ。2×4住宅は年間10万戸が建っているが、使用されている部材はオール外材。ここも“国産化”していくべきだ。具体的には、スタッドの供給を始めていく。すでに、三菱地所ホーム(株)などと、安定供給の調整に入っている。(次号につづく)

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住友林業(株)向けのPB商品(FJ間柱)

(『林政ニュース』第380号(2010(平成22)年1月13日発行)より)


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