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世界製材戦略の新拠点・中国木材鹿島工場(上)

欧米を中心に製材加工業への資本投資(規模拡大)が続いている。BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)や中東産油国、さらにBRICsに次ぐ潜在的経済力を持つといわれるネクスト11(イラン、インドネシア、エジプト、韓国、トルコ、ナイジェリア、バングラデッシュ、パキスタン、フィリピン、ベトナム、メキシコ)が大量木材需要国として市場に続々と参入しているためだ。製材加工業界は、まさにグローバルな競争時代に入った。こうした中で、中国木材(株)(堀川保幸・代表取締役社長。本社・広島県呉市)が茨城県鹿島工業団地に大型製材工場を新設し、昨秋から稼働を始めた。単独の製材企業では世界でもトップクラスの同社が、なぜ今、関東へ進出したのか。その狙いを探るべく、遠藤日雄・鹿児島大学教授が鹿島工場を訪れた。堀川社長との工場視察と対談を通じて、中国木材の世界製材加工戦略が明らかになる。

メイン市場の東京・首都圏にスムーズなデリバリー

遠藤教授
  中国木材が鹿島への進出構想を明らかにしたのは、今から13年前。雌伏の時を経て、ようやくその構想が実現した。だが、米材輸入量が通関数量で300万㎥(実材積数量で420万㎥)を割り、米材丸太輸入初期頃の実績にまでダウンしている今、300億円もの巨額の投資をしてまで、なぜ大型工場開設なのか。

堀川社長
  現在当社は、米マツ製品において高い国内シェアをいただいている。全国の需要を示す在来軸組工法住宅の新設着工戸数割合でいえば、大阪以西:名古屋以東が1:2だ。もちろん、名古屋以東の主力市場は東京・首都圏だ。この需要構造を踏まえると、大きく西に偏在した本社工場から、メイン市場である首都圏への物流コスト負担は大きく、メイン市場を効率よくカバーできる鹿島に供給拠点をつくることは、万が一、片方の工場が天災や火事などで被災した場合にも供給責任を十分果たしていくことが可能になる。
  また鹿島工場は、従来のメーターモジュールだけでなく、容易に2・8m、3・7m、4・6mの尺モジュールにも対応でき、原木歩留りの大幅な改善になる。

欧米の製材業に打ち勝てる3つのメリット

遠藤
  米マツ製材の国内寡占化が進んでいる。中国木材のシェアは昨年10〜11月で63%に達したと聞いている。こうした中で、世界戦略的視点から、鹿島工場はどう位置づけられるのか。

堀川
  鹿島工場開設の狙いは、対欧米製材加工業との競争力強化、この一語に尽きる。米マツの仕入価格は、現地の原木価格、フレート(船運賃)、円とドルの為替相場で決まる。現地の原木価格は米国の新設住宅着工戸数の変化などに応じて大きく変動する。現在は、サブプライムローン(低所得者向きの住宅ローン)の焦げ付き問題で米国の新設住宅着工戸数には大きな変化がある。
  また、欧州材は、数年前と比較するとユーロ高となり、原木価格、フレート(船運賃)にも変化があって、かつてのような競争力を持たなくなる。最近は、スカンジナビアやセントラルヨーロッパでは、欧州経済問題の影響もあり原木価格は一時的に低下しているが、長い目でみれば欧州材は次第に高くなる。
  さらに、ロシアは来年早々に針葉樹丸太の輸出に80%もの高率課税をかけるという。このように、外材をめぐる状況は激変している。こうした外材産地の激変に耐えられるだけの力をもった製材業を日本国内で確立することが急務だ。

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鹿島工場のプライベート桟橋で荷下ろしをする専用大型船

遠藤
  堀川社長の経営哲学である「製材業は流通業」(製材コスト:物流コスト=1:3・5)という視点からみると、鹿島工場のメリットはどうなるのか。

堀川
  第1に、北米から日本への航海日数が短縮される。呉港よりも往復で4日の短縮、航海距離で12%分の短縮になる。1日4万ドルのフレート(船運賃)とすると、16万ドルの流通費削減につながる。
  第2のメリットは、外航船の大型化が実現できたことだ。呉港は3万2000トンクラスなら問題ないが、4万6000トンクラスになると、潮の干満により積み量は約10%も制限を受けることがある。これに対して鹿島工場のプライベートバースは、外航用と内航用の2つからなり、水深12m、全長220mある。4万6000トンクラスの外航船が常時満船で潮待ちせずに入港が可能になったことで、効率は10%アップする。結局、20%の流通コストダウンが実現できる。トータルで年間15億円の経費削減になる計算だ。
  さらに、第3のメリットとして、丸太在庫能力のアップがある。鹿島工場の原木ヤードは10万㎥、つまり2シフト1か月分の在庫が可能だ。呉よりも敷地面積が広いので、本船薫蒸(本船を岸壁に停泊させ船倉内にガスを注入する防疫薫蒸)ではなく、天幕薫蒸ができる。これも原木船の効率向上となりコスト削減につながる。

遠藤
  ところで、鹿島工場の目玉は、米国の最新鋭製材システムを導入したことだと聞いているが。

自動製材・自動選別……、徹底したハイテク工場

  そこで、堀川社長は遠藤教授を新工場へと案内した。車で視察してもたっぷり1時間かかる広大な敷地を有する。工場内では、米マツ丸太消費量1シフト5万㎥/月体制に向けて着々と整備が進んでいる。2シフトが実現できれば、年間120万㎥の巨大な製材工場になる。機械設備も時代の先端をいっている。本邦初の超大型スラバー付きダブルツインソー製材システムは最小末口径16㎝から最大70㎝まで製材でき、最大分速168m、製材処理能力は13・5本/分(4m換算)。このほか、シングル台車、ツインオートなど世界レベルの機械を設置している。

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オペレーションルームから最適木取りなどをコントロールする(左は堀川社長)

遠藤
  麻雀に「一気通貫」という言葉があるが、まさに「一気通貫」のシステマティックな超大型量産工場だ。まるで欧米の製材工場にいるようだ。

堀川
  丸太が自動で入り、自動で製材され、製材品は自動で選別されるというのが、この工場の特徴だ。徹底した省力化とハイテクノロジーの製材システムにしている。

北米最新鋭システムの導入が国産材振興にもつながる

  工場を案内されているうちに、遠藤教授の脳裏に昨年8月に訪れた北米西海岸(米国ワシントン州、オレゴン州。カナダのブリティッシュ・コロンビア州)の新大型量産製材工場が浮かんできた。北米西海岸では1992年〜1993年のウッドショック(環境問題で連邦有林が伐採規制に踏み切り米材価格が高騰)で製材業界の淘汰が起こった。中小製材工場は、丸太が入手できずに転廃業を余儀なくされた。そして2000年代に入ると、1990年代の製材業界を牛耳っていた製材工場が市場から退出。これに代わって登場してきたのが、シェラパシフィック、ハンプトンアフェリエーツ、スティムソンランバー、シンプソンランバーといった超大型の量産製材工場だ。これらの工場に共通しているのは、徹底した省力化とハイテクノロジーに裏付けられていること。製材加工業が著しい進化を遂げているのである。その特徴の1つに、丸太のカットから製材加工過程の要所要所に据えられたスキャナーがある。最適歩留まりとニーズに適した製材加工を瞬時のうちに読み取り、次の過程に情報を送るシステムだ。鹿島工場は、この北米最新鋭の製材システム(米国USNR社)を導入したのである。玉切り過程には、合計6つの丸鋸が据えられており、12m丸太を最適サイズにカットしていく。

遠藤
  川柳に「国際派ただのアメリカかぶれかも」というのがあるが、鹿島工場は堀川経営哲学の魂が込められた和魂洋才の工場だ。「和魂」とは、当然国産材の振興を見据えてのことだが。

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ハイテクノロジーに裏付けられた米国製最新鋭製材機械

堀川
  そうだ。米マツ製材の割合はゆくゆくは鹿島:呉=6:4にしていくつもりだ。鹿島で欧米と競争し、呉では米マツとスギの異樹種集成平角(ハイブリッドビーム)の生産量を増やしていく計画だ。(次号につづく)

『林政ニュース』第338号(2008(平成20)年4月9日発行)より)

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