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中山間地域再生の起爆剤・中国木材大朝工場

山村が崩壊の危機に瀕している。とくに、「限界集落」(65歳以上の高齢者が半数以上を占める集落)を多数抱える中山間地域は深刻だ。しかしその一方で、森林資源は充実している。これを利用した再生策はないのか。そこで遠藤日雄・鹿児島大学教授は、広島県を訪れた。広島県は自動車、造船、鉄鋼の御三家を中心に瀬戸内海工業地帯の中核を占める。その背後の中国山地では深刻な中山間地域問題を抱えているが、現在ここで、大規模国産材製材工場開設のプロジェクトが進んでいる。その推進役2人(広島県農林水産局の渕上和之・農林整備部長〈広島県原木流通協議会会長〉、中国木材(株)常務取締役の大野英輔・生産本部長)にプロジェクトの目的、意義、今後の展望などを語ってもらった。その中から、新たな中山間地域再生策が見えてくる。

国産材“無風地帯”に全国トップクラスの大型工場

広島県北広島町に、広島県が造成した大朝工業団地がある。浜田自動車道大朝ICのすぐそばという好立地条件だ。その一角(18ha)に、中国木材(株)(本社・広島県呉市、堀川保幸社長)の大規模国産材製材工場(以下、中国木材大朝工場)と、そこへ丸太を供給するひろしま木材事業協同組合(以下、ひろしま木材事業協組)が運営する丸太集出荷施設が開設される(第336号参照)。来年夏頃には稼働する予定だ。大朝工場の初年度丸太消費量は3万㎥、5年後には10万㎥を目指し、最終的には30万㎥の消費を計画している。実現すれば全国トップの超大型国産材製材工場になる。

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整備が進むひろしま木材事業協同組合の集出荷施設

遠藤教授
中国筋6県、とくに広島、山口はこれまで国産材にとって〝無風地帯〞だった。それが、兵庫県に県産材供給センター(第328号参照)ができつつあるし、鳥取県ではスギLVLの(株)オロチ(第340号参照)が稼働を始めた。また、島根の日新グループや大阪の林ベニヤ産業(株)が合板用丸太として中国筋のスギ・ヒノキの集荷に本格的に乗り出した。その中で今なぜ、お膝元の広島県産材なのか。

大野常務
弊社としては広島県産材に関心がなかったわけではない。これまでも広島県から県産材を使ってくれないかというアプローチはあった。

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中国木材の国産材戦略を説く大野常務

遠藤
広島県には、かつて林務部があった(笑)。

大野
国際競争力をもつ製材工場を開設するからには、1日の原木消費量が300〜500m3は必要。しかし、県内の森林組合や素材生産業者からは「そんなトンデモナイ量を出材できるわけがない」という否定的な声が返ってくる。本格的な製材ビジネスとしてやっていけるのかという不安があった。

遠藤
その不安を払拭したのは?

渕上部長
広島県原木流通協議会の設立だ。同協議会は、中国木材大朝工場へ丸太(ラミナ用のB材)を安定的に供給するための体制づくりを目指している。具体的には、ひろしま木材事業協組の集出荷施設へ丸太を供給する母体となる。協議会のメンバーは広島県、森林総研水源林整備事務所、広島県農林振興センター、森林管理署、市町、大規模森林所有者、森林組合など。会長には私が選出された。

遠藤
話は前後するが、広島県にとって今なぜ中国木材なのか?

渕上
広島県としては、林業を産業として自立させるとともに、中山間地域振興の視点から今回のプロジェクトを起こした。中国木材を主力エンジンにして関連産業を活性化させ、中山間地域経済を再生するという構想だ。公共事業もこの5年余りで半減した。なんとか今回のプロジェクトで森林資源の利活用を図り、地元の雇用創出に結びつけていきたい。

「押し出し」型は時代遅れ、「引き出し」型で活路拓く

遠藤
中国木材・堀川保幸社長の〈製材業は物流業〉という有名なテーゼがある。物流コストは製材コストの2・5倍に相当するから、製材経営にとって物流コストの軽減が大きな課題になるという考え方だ。この堀川テーゼにしたがって、中国木材の製材加工工場はいずれも海に面しているか、その近くにある。しかし、大朝工場は中国山地のど真ん中に開設されるが。

大野
臨海型工場のサテライト(衛星)と位置づけている。言葉を換えると、瀬戸内工業地帯と中山間地域を有機的に結びつけるビジネスと考えている。

遠藤
森林資源の充実を背景に、森林組合を事業主体として国産材製材工場を開設し、川下へとマーケティングを進めていく従来の「押し出し」型ビジネスモデルは時代遅れになったということか。

大野
「押し出し」型はプロダクト・アウト(つくってから売り方を考える)方式になりがちだ。不必要なモノまで押し出してしまうので無理が生じる。これに対して、今回のプロジェクトはいわば「引き出し」型ビジネス。「売れるものをつくって提供する」マーケット・イン方式だ。

渕上
マーケット・イン方式の大型製材が中山間地域を活性化させる。需要も引き出す。雇用も引き出す。元気も引き出す(笑)。

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中山間地域の再生に手腕を発揮する渕上部長

ヒノキ集成平角を商品化、金融危機は予断許さず

中国木材大朝工場の製材の基本は、スギのラミナ挽きとしている。生産されるラミナは中国木材・郷原工場(呉市)へ送られて米マツとスギの異樹種集成平角(ハイブリッドビーム)になる計画だ。さらに、ヒノキの有効活用による新商品も生産する構想だ。

遠藤
新工場開設で新たな需要を引き出すとは、例えばどういうことが考えられるのか。

渕上
広島県江の川流域(特に県有林や公社造林地)には、ヒノキが多い。この用途開発によって、新たな需要を引き出したい。

大野
すでに弊社では、ヒノキの集成平角を製造・販売している。

遠藤
ヒノキの集成平角?強度面で問題はないのか。

大野
欧州産レッドウッド集成平角の場合、ヤング係数は105〜120と言われている。これに対してヒノキは95。ただし手入れの行き届いたヒノキ林分であれば105はクリアできる。

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遠藤日雄・鹿児島大学教授

遠藤
ところで、大朝工場開設の課題はなにか。

大野
最大の課題は世界的な金融危機による急速な円高だ。円はドルに対してもユーロに対しても急騰し、欧米木材産地の対日輸出コストの軽減をもたらしている。特に、弊社は平角(米マツドライビームとスギと米マツのハイブリッド)やスギ集成管柱中心の製材加工業だけに、欧州産地の動き(レッドウッド集成平角やホワイトウッド集成管柱)は気になるところだ。

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遠藤
欧米の木材・建材需要が減退している中で、悪い悪いといっても国際的にみれば日本の住宅・木材市場は健全だ。それだけに、今後欧米がどう出てくるか、国産材にとって予断を許さない状況だ。すでに欧州では日本向け製材・加工業を再開したとも聞いている。今後、中山間地域再生策を考える場合の欠かせない視点だ。

渕上
広島県森林・林業行政の課題は、素材の増産体制をいかにして構築するかだ。意外に思われるかもしれないが、広島県と山口県のスギ・ヒノキの蓄積量は宮崎県に匹敵する。森林資源は十分にある。広島県にはチップを扱う素材生産業者が少なくないが間伐には馴染みが薄い。高性能林業機械の導入による近代的な間伐技術の習得が課題だ。最終的に40万m3の素材生産量を目指すが、例えば1事業体当たり2万m3の素材生産量であれば、20事業体の育成が県としての課題となる。

遠藤
中山間地域再生の切り札として、広島モデルの実現に期待したい。

(『林政ニュース』第354号(2008(平成20)年12月3日発行)より)


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