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4万 ha の社有林を積極活用、三井物産フォレスト

4万haを超える三井物産(株)の社有林を管理している三井物産フォレスト(株)(東京都千代田区、橋本芳博社長)が、4月1日付けで100%出資会社の物林緑化(株)を吸収統合し、新たなスタートを切る。日本を代表する総合商社が森林を所有する目的は何か、そしてどのように管理していくのか――霞が関ビルにある同社を訪ねた遠藤教授に、橋本社長及び同社を主管する三井物産CSR推進部社有林・環境基金室の緒方陸夫マネージャーが、社有林経営の新たなビジョンを語った。

物林緑化を統合、4月から1社体制で73カ所を管理

遠藤教授
まず、三井物産が所有する山林の現状を教えてほしい。

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橋本芳博・三井物産フォレスト社長

橋本社長
保有山林(「三井物産の森」)は全国73カ所にあり、合計面積は4万4096haになっている。これは日本の国土面積の約0・1%に相当する。民間所有の森林面積では、王子製紙(19・3万ha)、日本製紙(8・2ha)に次ぐ規模だ。

遠藤
「三井物産の森」と三井物産フォレストとの関係は?

橋本
三井物産の子会社である当社は5年前に設立され、「三井物産の森」の管理を任されている。また、孫会社にあたる物林緑化(株)が森林施業などを行ってきた。この2社体制を、4月1日から1社体制に統合する。

130周年に抜本見直し、「原則長期保有」を確認

遠藤
企業が森林を所有する意義をどのように考えているか。

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緒方陸夫・三井物産CSR推進部社有林・環境基金室マネージャー

緒方マネージャー
当社は明治30年代から山林の取得を始め、昭和30年から40年代にかけて、2次にわたる造林10カ年計画を策定し、資源の充実と国土保全等に努めた。かつては、社内に山林部があり、伐採収入を財源にして森林整備を行っていたが、昭和50年代後半からの材価低迷で採算が合わなくなり、山林部も昭和60年に廃止になった。その後は、企業資産として管理していたが、平成18年の旧三井物産設立130周年の際に、社有林を見直す社内横断的なタスクフォースが設置され、保有意義を根本的に議論した。そして、同年10月の経営会議でタスクフォースの答申が承認され、「原則長期保有」の方針が確認された。社有林は、営業資産としての保有意義は現在なくなっているが、再生可能な天然資源であり、多様な公益的機能を持っている。そうした機能を継続して発揮させることは企業の社会的責任であるとした。平成19年からは、社有林の主管部署をそれまでの不動産管理部からCSR推進部に移し、①長期の保有②適切な管理③積極的活用――を目的に管理している。

橋本
企業の環境貢献が問われる時代になり、社有林を積極的に活用できる分野が出てきている。例えば、森林環境プロジェクト。NPOなどの社外組織が「三井物産の森」で森林環境教育プログラムを実施するための「使用許諾ガイドライン」を作成し、各地で間伐体験や自然観察会などを開催している。また、昨年4月からは「社有林における資源調査」を開始し、生物多様性の保全にも取り組んでいる。

年間の管理コストは11億円、条件次第で天然林誘導も

遠藤
「三井物産の森」を保有し続けるコストはどのくらいになっているのか。

緒方
年間にかかる保育・維持経費は約11億円だ。これに対し、伐採収入が2億円、補助金が3億円で、残りの6億円を本社からの補填で賄っている。当然、経費の削減に努めなければならない。
このため、18年3月に、今後30年を見通した「社有林長期運営方針」を立て、人工林約1万7600haのうち、9100haは間伐を繰り返して天然林状態に誘導し、8500haは循環施業を継続するという方向を打ち出した。それまでは、皆伐再造林を人工林管理の基本にしていたが、これでは採算が合わないため、伐期を延長し、施業も3段階にランク分けした。人工林を構成している樹種や育ちの良さ、周辺の林産業の環境、補助金制度などの条件を勘案して、ランク分けを行っている。

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「三井物産の森」の分布図(約8割が北海道にある)

遠藤
直属の作業部隊も抱えているようだが。

橋本
作業班を抱えている山林事務所が、帯広(北海道)、平取(同)、紀伊長島(三重県)の3カ所にある。これらの事務所では、社員が自ら作業を行っており、森林経営の実態や施業に伴う必要経費などを正確に把握することができる。このほか、沼田山林(北海道)は地元の業者に施業を依頼しており、その他の山林も森林組合や地元林家などに適宜管理や施業をお願いしている。
自分が管理を任されている森林をどう育てていくかを考えるのは、現場で働いている方々にとって一番の楽しみではないか。だから、自分達の思いを管理計画に十分に織り込んで、長い視野で取り組んでほしいと社員には言っているし、林業技士や森林インストラクターなどできるだけ多くの資格を取得できるよう支援している。

林業再生が本当のCSR、市場の変化に対応する

遠藤
日本のトップ企業の1つである三井物産が森林を所有する以上、やはりビジネスとして林業経営で収益をあげていくことが求められるのではないか。

橋本
そのとおり。総合商社として利益を上げているので、三井物産全体として社有林を支えられるという恵まれた環境にあることは事実だ。ただし、この環境に甘えてはいけない。
直面している課題を産業的に解決していくことが、本当の意味でのCSR(企業の社会貢献)になる。林業の再生がなければ、日本の森林は持続的に経営・管理できない。そのためには、国産材の売り先である川下の動向をよく見ていかなければならない。

遠藤
主たる需要先である住宅市場の変化は激しい。とくに、世界的経済危機の影響は深刻だ。

緒方
マーケットの動向を無視して、従来型の林業経営を続けていてもうまくいかない。合板や集成材のシェアが伸びている一方で、ムク製材の需要確保が課題になっている。枝打ちをして通直・完満な木を育てても、果たして売り先はあるのか。いわゆるA材というものが、本当に必要とされているのか。総合的に点検し直し、資源量の多いスギをマーケットに供給して成り立つような林業を考えいかなければならない。そのために、「三井物産の森」の中にモデル的な実験地をつくるほか、研究助成を行っている「三井物産環境基金」なども活用して、新しい林業に挑戦していくことを考えている。

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遠藤日雄・鹿児島大学教授

遠藤
社有林の二酸化炭素(CO2)吸収量などをビジネスベースで評価し直すことは考えられないか。

緒方
森林が吸収しているCO2量を、公正なルールで取引できるような制度がほしい。カーボン・オフセットなどで評価することはできるが、環境報告書に掲載できるという程度では、企業の食いつきはもう1つだ。現在のような厳しい経済状況の中で資金拠出を得るためには、さらに踏み込んだインセンティブがいる。

橋本
三井物産という会社は、創設時から日本をひっぱっていこうという気概があった。現在も、経営上の最重要課題の1つに、「大切な地球と、そこに住む人びとの夢溢れる未来作りに貢献する」ことを掲げている。この理念は、「三井物産の森」の管理・経営にも共通する。中興の祖である故・水上達三社長は「造林して将来の社有資産の造成に寄与しひいては国策にも沿い三井として率先、緑化の実を残す」という言葉を残している。この思想を受け継ぎながら、社有林の積極的な活用を続けていきたい。

(『林政ニュース』第361号(2009(平成21)年3月25日発行)より)


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