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遠藤日雄の緊急対談 波紋呼ぶ中国木材の宮崎県日向進出計画

今、九州の林材業界で最も沸騰している話題は、国内最大の製材企業・中国木材(株)(本社=広島県呉市)の宮崎県日向進出計画だ。それもそのはず、同社が今年3月に明らかにした計画案では、日向細島港の工業団地に年間30万㎥のスギ丸太を集荷し、製材工場と集成材工場を建設するという桁はずれの内容となっているからだ。メディアは、地元業界の賛否両論も含めて、この問題を連日大きく報じている。
中国木材の日向進出の真意は何か?地元業界の反対にどう対応するのか?――憶測も含めたさまざまな見方が飛び交う中、遠藤日雄・鹿児島大学教授が、急遽、堀川保幸・中国木材社長へ「対談」を申し込んだ。日向進出計画の狙いを説明する堀川社長の口からは、壮大なスギ国際戦略の一端が明らかにされた。

旭化成社有地30㏊の購入話は「渡りに船」

遠藤教授
  腰を抜かさんばかりに驚いた。中国木材伊万里事業所が新たに隣接地を買収して、大・小径材の大型量産工場を新設するという話(第300号参照)を聞いてから1年も経たないうちに、日向進出計画を耳にしたからだ。
 
堀川社長
  九州進出直後から次の国産材事業拡張の用地について、港の評価、10万坪規模の事業用地の有無等を検討していたところ、日向細島港で旭化成社有地の売却が検討されているとの情報を得た。弊社にとっては「渡りに船」という判断で進出計画を進めるに至った。ただし、土地はまだ購入はしていない。
 
遠藤
  「渡りに船」とはどういう意味か。
 
堀川
  はじめから「日向ありき」の話ではないということだ。
   以前から私は、弊社の全国プレカット・配送センターを中心に、ハイブリッドビーム(米マツとスギの異樹種集成平角)生産のための丸太、ラミナ集荷、ハイブリッドビーム製造の拠点づくり構想を抱いていた。これらの拠点から半径100㎞をメドにB材、C材丸太を集荷する。また、ラミナの製造過程で発生する樹皮(バーク)、おが粉、チップの高度リサイクル利用を図るというものだ。
  例えば、弊社の東海事業所(静岡県大井川町)なら周辺に東海パルプなど製紙工場が多い。ボイラー燃料用の樹皮やチップを低い物流費で販売できる。大型製材工場を開設する場合は、これらの端材処理をいかに効率的にできるかがカギだ。また、呉の本社から大井川事業所へ弊社の製品を船輸送した場合、帰り荷としてラミナを積める。
  こうした構想を進める中で、新たな拠点候補として浮上してきたのが、日向の話だ。あらかじめ日向進出を睨んでいたわけではない。「渡りに船」といったのはそういう意味だ。

年間30万㎥の集荷・加工拠点を3期計画で整備

  中国木材は茨城県鹿島に大型米マツ製材工場を新設した(第299号参照)。この6月から試運転を開始する予定である。この鹿島進出に伴い、呉本社の米マツ製材を縮小し、そのぶんハイブリッドビームの生産量を増やす計画だ。
  ここで、堀川社長の経営哲学である「製材業は物流業」(物流コストは製材コストの3・5倍かかるから、製材経営にとって物流コスト縮減は最大の課題)という観点から、新たな拠点候補地である日向の位置づけを見直してみよう。日向港から呉港まで、豊後水道から瀬戸内海を経ると、1日あれば船で往復できる。海運利用により物流コストを縮減できる“適地”といえる。
 
遠藤
  現在、呉ではどれだけのハイブリッドビームを生産しているのか。
 
堀川
  月間にハイブリッドビームを2000㎥、その他集成材・米マツ・レッドウッドを5000㎥、計7000㎥の生産だが、鹿島工場が操業を開始するので、ハイブリッドビーム1万㎥、米マツ・レッドウッド2000㎥、計1万2000㎥の生産体制にしていきたい。そこでさしあたり、本社、伊万里あわせて月間2万㎥のスギラミナが必要となる。これが、日向進出を本気で考え出した直接的な理由だ。

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日向進出計画について説明する堀川社長(右)と遠藤教授

遠藤
  日向の工場建設の具体的な計画は?
 
堀川
  第1期でラミナ用B材丸太の集荷に全力をあげる。5年間かけ、年間30万㎥の集材拠点を目指す。第2期は、20トンクラスの大型バイオマスボイラーを設置する計画だ。乾燥機をもたない地元製材工場や集成材生産に取り組むメーカーからの委託乾燥も考えている。伊万里事業所では既に地元工場に門戸を開いている。第3期は、30万㎥のスギ丸太集荷体制をベースに集成材生産に取り組む。総投資額は、用地取得費を含めて約70億円を予定している。

国際競争に勝つには国内スギ丸太の4割が必要

遠藤
  最終的なイメージは、中国木材伊万里事業所につながるが、かりにこうした拠点を全国につくった場合、中国木材としてスギ丸太は年間どれだけ必要になるのか?
 
堀川
  中国木材を含め国産材集成材メーカーが、欧州産集成材に負けないようコストダウンし、その市場をとることにより、全国で300万㎥以上の国産材(B・C材含め)が、有効利用される可能性がある。
 
遠藤
  300万㎥!
  わが国のスギ丸太生産量が約776万㎥だから、その4割弱になる。毎度のことながら、壮大な構想には度肝を抜かれる。
 
堀川 
  国産材における中国木材の役割は、コストを下げ、ジャストインタイムのハイブリッドビーム販売体制を確立することで、欧州産レッドウッド平角との競争に勝つことだ。スギの国際戦略とは、こうした観点から論じるべきだ。
  国際競争力という観点からの生産規模に関しては、必然的なものがあり、これを曖昧にして製材工場、集成材工場を計画していくことは、過去の繰り返しになることを、国産材に携わるもの全員が意識しておかなければならない。

日向進出は地元の合意が大前提になる

遠藤
  中国木材の日向進出には、地元や周辺地域の製材業界を中心に反対の動きが出ている。原木の確保が一層困難になるという不安が大きいようだ。一方で、造林・素材生産業界は進出賛成の請願書を日向市に出すなど温度差が出ているが。

堀川
  地元の合意を得られるまでは進出しない。反対の理由に耳を傾け、時間をかけて弊社の構想を説明すれば必ずわかってくれると確信している。最終的には、川下で得られた利益を山元に返す仕組みを構築することだ。この点では一致できる。全力を尽くしたい。決意を新たにしているところだ。

『林政ニュース』第316号(2007(平成19)年5月16日発行)より)

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