総合流通No.1 𠮷田繁・JKHD会長の新戦略(下)
世界同時不況の影響を受け、国内トップのJKホールディングス(株)(以下「JKHD」と略)も、直近の業績予想を下方修正せざるを得なかった。ただ、𠮷田繁・代表取締役会長兼CEOは、これまで大きな不況を乗り越えてきた経験から、目の前の売上げに一喜一憂することはない。真の不況克服に向けて、住宅・木材業界を未来に向けて根底から立ち直らせる戦略を練っている。その構想とはいかなるものか。𠮷田会長が持論を語る。
合板メインは不変、注目はOSBとスギLVL
遠藤
JKHDの主力商品である合板の先行きはどうみているか。
𠮷田
日本は、アメリカに次いで世界第2位の合板消費国だ。合板は、今後も不可欠の住宅資材であり続けるだろう。昭和15年生まれの私は、父が合板の卸売り(丸𠮷商店(株))を経営していたこともあって、小学生の頃からベニヤの名前、サイズ、値段まで把握していた。合板業の発展とともに成長してきたことになる。
学生時代をアメリカで過ごし、帰国後、丸𠮷商店のグループ会社の一つである合板工場の経理担当として働いた。当時の合板業界は過剰生産気味であり、工場数も多かった。東京都内にも3つの合板工場があった。
遠藤
九州にもかつては15〜16の合板工場があったが、現在は1社しかない。合板業界の再編淘汰は厳しいものがある。
新木場タワー最上階の会長室で将来へのビジョンを語る𠮷田繁氏
𠮷田
装置産業である合板業は、工場を大型化して合理化とコストダウンを進めることが不可欠だ。また、工場の稼働率を高めるためには、原木の安定的な確保が極めて重要になる。
遠藤
合板先進国であるアメリカの現状はどうなっているのか。
𠮷田
アメリカでも、合板工場の大型化と集約化が進んでいる。興味深いのは、OSB(オリエンテッド・ストランド・ボード)の生産量が増えてきていることだ。ツー・バイ・フォー工法が主流のアメリカの住宅市場では、建売業者がOSBをよく使う。
遠藤
日本ではOSBの利用量は少ない。
𠮷田
OSBをつくる工場はないし、流通量もたかがしれている。圧倒的に合板のウエイトが高い。ちなみに、カナダも合板主流だ。
OSBは、湿度の高いところには向かないので、日本ですぐに普及することは考えにくい。しかし、世界的に森林資源が枯渇してくると合板用の原料が不足し、OSBにシフトしていく可能性はある。OSBの生産性は極めて高いからだ。アメリカのOSB工場は、1シフト10人以下で、月間10万㎥以上を生産している。ただし、一連の生産ラインを導入するための設備投資は約150億円程度になる。要するに、製紙工場並みのプラントを整備することになるわけで、日本でこれだけの投資に踏み切る企業が出てくるかどうかだ。
遠藤
住宅資材は新製品開発が盛んだ。注目株の商品はあるか。
𠮷田
スギを使ったLVLには注目している。まだ流通量は多くはないが、ニーズはある。もう少ししたら、住宅市場での認知度が高まっていくのではないか。欧米の状況からみて、今の10倍程度の流通量になってもおかしくはない。
日本のネックは人件費、汎用品では国際競争に負ける
遠藤
合板用丸太の輸入が難しくなり、国産材への原料転換が進行している。針葉樹合板のシェアも高まっている。国際的な視点から、国産材合板の競争力をどうみているか。
𠮷田
日本の木材加工業が抱えている最大の悩みは、人件費の高さだ。世界トップレベルの給料を払いながら、輸入品との価格競争に巻き込まれたら、絶対に負ける。汎用性のある単純な製品ではなく、特色のあるオンリーワンの製品を供給していくべきだ。
今後、世界の木材市場で大きな影響力を発揮するのはロシアだろう。森林資源の蓄積量が際立って多い。丸太輸出関税の80%引き上げは1年先送りされたが、ロシア政府は自国内の工業化を進める路線をとり続けるだろう。今のところ、針葉樹合板は国産材の独壇場という様相だが、かりにロシアから3×6(サブロク)判の合板が入ってくるようになったら、国産材合板にとっては脅威になる。
また、中国の存在感も大きくなるだろう。北京と上海のあたりにはポプラが多く、南部にはユーカリが豊富だ。その周辺に合板工場が数多くある。製造される合板の品質にも問題はなく、世界最大の合板生産国になるのではないか。
真の不況脱出には、国民全体の意識改革が不可欠
遠藤
国産材にとっては、厳しい時代が続くということか。
𠮷田
日本の住宅・木材業界が国際競争の中で生き残っていくためには、住文化のレベルを高めていかなければならない。まだ、住宅に対して、雨露をしのげればいいという感覚が強い。これでは、日本のマーケットは安価な汎用品の叩き合いの場になってしまう。
日本は、世界で一番きれいな森林のある国だ。これを維持するためには、業界全体を活性化しないといけない。国民全体で森林や木材の大切さを再認識する必要がある。
東京ボード工業(株)の新入社員とJKHDグループの新入社員が合同で花粉の少ないスギの植林を行った(4月15日、千葉県)
JKHDでも、意識改革を進めるために、新入社員による植林を行っている。我々は合板主体のビジネスをしている。したがって、合板を大事に扱うことが、社是の一つだ。安い合板をつくって価格競争に陥ってはならない。新入社員達は、自ら植えた木を、30年・40年後に自分で売ることになるかもしれない。そういう意識を持つことで、合板を見る目が変わってくる。こうした取り組みを業界だけでなく日本全体に広げていくことで、消費の底上げができる。そのことが、日本市場を本当の意味で〝再生〞することになる。
(『林政ニュース』第365号(2009(平成21)年5月27日発行)より)
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