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「コロナワクチン接種後から急激に進行するターボ癌」は根拠不明【ファクトチェック】

「ターボ癌」という言葉が広がっています。新型コロナウイルスのワクチン接種後に急激に進行するがん、などと説明されていますが、専門医によると、ターボ癌という用語はありません。そのような症状に関する論文など信頼に足るデータも存在しません。

検証対象

がん患者が新型コロナウイルスのワクチンを接種すると、がんが急速に進行するなどと説明する「ターボ癌」という言葉が、ネット上で多く投稿され、拡散している。例えば、2022年12月8日にも「ターボ癌 mRNAワクチン接種後8日で癌が劇増」というツイートが拡散し、1000件以上のリツイートがついている。

ワクチン接種とがんを結び付けた同様の投稿は、「またもターボ肺癌 昨年末レントゲンでは影も形もなかったのにコロワク後8ヶ月で多発肺内転移Stage4」「ワクチン接種後急速に癌『ターボ癌』」など、ほかにもツイートされている。

ターボ癌については、ロイターなども検証記事を出している。新型コロナワクチンの接種が原因で、急激に進行する「ターボ癌」があるのかどうかを検証する。

検証過程

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、がん治療医としてYouTubeで発信し、ターボ癌についても検証したがん治療医の押川勝太郎氏に取材した。

ターボ癌(Turbo cancer)という言葉は、ネット上で世界中に拡散しているが、押川氏は「そもそもそういう用語はない」と説明する。

生命を脅かすがん細胞の悪性度を示す用語としては、良性、境界悪性、悪性、低悪性度といったものや、発生臓器や細胞の分化度(本来の正常な細胞の形態をどれくらい維持しているか)で分類することはあるものの、がん細胞を増殖速度で直接示す用語はありません

押川氏は米国立衛生研究所の医学図書館が運用する医学論文の検索データベース「PubMed」を例にあげる。PubMedは様々なレベルの医学論文を掲載しているにも関わらず、ターボ癌(Turbo Cancer)で検索しても結果は出てこない。

では、医学的な分類としてターボ癌は存在しなくても、コロナワクチン接種が原因で急激に癌が進行するケースはあるのか。押川氏はこう説明する。

治療を担当しているがん患者さんには、ほぼ全員コロナワクチンを接種してもらっていますが、コロナワクチン接種後から急激にがんが進行する印象はありません

ワクチン接種後に急激に症状が進行する例は悪性リンパ腫に限ってわずかに症例報告はありますが、因果関係は不明です。また固形がんでは報告はありません。結論としてはワクチン接種後のがん増大が大幅に増えているという報告は存在しませんが、本当の影響は長期に渡る観察研究の結果が出るまでは分からないでしょう

その上で、急激に進行する癌については、新型コロナワクチンの普及前から存在したことを指摘する。

COVID-19の出現以前、それに対するワクチンの開発以前にも、ある時点から急激に進行するがんは、色んながん種で普通にありました

日本癌治療学会が2022年2月16日に更新した資料にも「がん患者さんに特有なワクチンの副反応も報告されていません」との記載がある。

判定

ワクチン接種後に急激に症状が進行する「ターボ癌」は医学的には確認されておらず、根拠不明。

あとがき

医学情報に関する情報の見極めは、医学知識のない一般人には難しいものです。押川氏は「その医療分野のキュレーターとなるべき人を日頃から見つけておいて、疑問点を相談する事をお勧めします」と話しています。

キュレーターとは、あふれかえる情報を整理して伝える人を指します。正確で質の高い情報を伝えてくれる個人や組織を知っておくことが、誤情報・偽情報があふれる社会の中で重要なスキルとなっています。

検証:杉江隼
編集:古田大輔、藤森かもめ


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