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福島第一原発の処理水と汚染水の違いは何?海洋放出は危険?【ファクトチェックまとめ】

日本政府が夏ごろに始める方針を示している福島第一原発の処理水の海洋放出に関して、国内外で不確かな情報が拡散しています。処理水とは何か。環境への影響は。ファクトチェックのポイントをまとめました。

※新たな誤情報の検証を更新していきます(最終更新2023年12月13日)。

参照資料は、各省庁や東京電力から、また、2023年7月4日に公開された国際原子力機関(IAEA)の「福島第一原子力発電所ALPS処理水の安全審査に関する包括的報告書(以下、IAEA報告書)」などです。


処理水か汚染水か

2011年3月11日の東日本大震災による津波で、福島第一原発ではウラン燃料を冷やすことができなくなる事故が起きました。燃料は格納容器内で溶け、今も温度を下げるための冷却水をかけ続けています。使用された水は放射性物質で汚染され、雨水などと混ざって毎日約90トンずつ増えています。これを「汚染水」と呼びます。

汚染水は原発の施設内に並ぶ1000基を超える巨大タンクに貯められますが、2024年の前半にはタンク容量に限界が来る見込みです。日本政府は、トリチウムを除く62種類の放射性物質を国の安全基準を満たすまで取り除くように設計した多核種除去設備(ALPS)を使って「汚染水」を浄化処理し、海に放出しようとしています。

この浄化処理後の水を「ALPS処理水」と呼びます。日本政府や東京電力は処理水と汚染水を明確に区別しています(復興庁東京電力)。

英語でもContaminated water(汚染水)、Treated water(処理水)と区別され(東京電力)、IAEAもALPS treated waterと表現しています(IAEA)。

IAEA報告書

処理水を「トリチウムが含まれているから汚染水だ」などと表現する人もいます。しかし、その表現では浄化処理前の水か、処理後の水なのかが不明確になります。処理水が汚染されているかは次の項目以降で説明しますが、いずれにしても処理水を汚染水と呼ぶのはミスリードになる恐れがあります。

処理水には何が含まれているのか

ALPSは薬液による沈殿処理や吸着材による吸着など、化学的・物理的性質を利用した処理方法で、トリチウムを除く62種類の放射性物質を国の安全基準を満たすまで取り除くことができるように設計した設備ですが、トリチウムは除去できません(東京電力)。

IAEA報告書にも次のような記述があります。

ALPS処理工程ですべての放射性物質が除去されるわけではないことに注意することが重要である。 少量の異なる放射性核種は、処理後も水中に残っており(ただし、規制値をはるかに下回っている)、トリチウムはALPSシステムではまったく除去されない。

(IAEA報告書P3、筆者訳)

トリチウムは危険か

東京電力はトリチウムについて、以下のように説明しています(東京電力)。

トリチウムは普通の水素に中性子が2つ加わった水素の仲間で、三重水素とも呼ばれる放射性物質です。水素とほぼ同じ性質を持っているため、酸素と結びついて、主に水として存在し、自然界や水道水のほか、私たちの体内にも存在します。ベータ線という弱い放射線を出しますが、そのエネルギーは小さいため、紙1枚で遮ることができます。日常生活でも飲水等を通じて体内に入りますが、新陳代謝などにより、蓄積・濃縮されることなく体外に排出されます。

カナダ原子力安全委員会(CNSC)は、ウェブサイトにトリチウムの健康への影響について「比較的弱いベータ線源で、皮膚を透過するには弱すぎる。しかし、極端に大量摂取すると、がんリスクを高める可能性がある」と書いています(CNSC)。

IAEA報告書はALPS処理水の放流によって毎年放出されるトリチウムなどの放射性物質の総量について「宇宙線と大気上層部のガスとの相互作用など、自然のプロセスによって毎年生成されるこれらの放射性核種の量をはるかに下回ることに留意すべきである」と記しています。

また、復興庁のFAQでは「ALPS処理水を海洋に放出した場合の1年間の放射線影響は、自然界から受ける放射線の影響の10万分の1未満」と説明しています(復興庁)。

トリチウムは、世界中の原子力関連施設からも各国の法令に則る形で海洋に放出されており、その総量はこれから東電が予定しているALPS処理水の放出量を上回っています。

環境省「トリチウムの年間処分量」

処理水の海洋放出の環境への影響は

IAEA報告書の概要では以下のように述べています。

IAEAはALPS処理水の放出が、放射線に関連した社会的、政治的、環境的な懸念が出ていることを認識していますが、包括的な評価に基づき、東京電力が現在計画しているように、ALPS処理水の放出は人々と環境に対する放射線影響がほとんどないと結論付けました。

東京電力が運営する包括的海域モニタリング閲覧システム(ORBS)では、福島県や環境省や東京電力など各機関が福島県沿岸で採取した海中の放射線物質のデータを包括的に確認できます。

https://www.monitororbs.jp/

安全性を独自に調査してきた韓国政府は2023年7月、「放出が計画通りに実施されれば、放射性物質の濃度などは基準に適合しており、韓国の海域に与える影響は限定的だ」とする報告書を発表しました。トリチウムの影響も低いと述べています(NHK朝日新聞)。

IAEAは日本から「賄賂」を受け取っているのか

ここまで東京電力や日本政府からの発表だけでなく、外部からの評価も検証に盛り込むためにIAEA報告書を引用してきました。

しかし、IAEAがALPS処理水の海洋放出は「国際基準に合致している」と結論づけたことに関して、「日本から多額の分担金や賄賂を受け取っているからだ」「日本の関係者が職員にいる」などという主張があります。

7月10日午前の内閣官房長官記者会見において、松野博一官房長官は次のような点を指摘しています。

  • IAEAの分担金は国連の分担率に準じ、加盟国の支払い能力によって決まる

  • 2023年予算における日本の分担率は7.758%、(海洋放出に反対する)中国は14.505%

  • 国連関係機関はできるだけ幅広い地域から職員を採用する

その上で以下のように結論づけました。

IAEA報告書は、IAEA自身が選定した外部の国際専門家を含め独立した第三者の立場から科学的知見に基づいて関連する国際安全基準に合致しているかどうかを評価したもので独立かつ中立のものと評価しています。

実際に、IAEAの報告書に関するチームには、IAEA事務局の専門家と、アルゼンチン、オーストラリア、カナダ、中国、フランス、マーシャル諸島、韓国、ロシア連邦、イギリス、アメリカ、ベトナムからの独立した専門家が入っています(IAEA報告書の概要)。

また、これらの公開されている分担金以外に「賄賂があった」という主張については、根拠が不明です。

残る懸念は何か

IAEA報告書の概要は末尾で、こう記しています。

IAEAとタスクフォースの作業は、今後も長い年月継続します。福島第一原発に常駐し、リアルタイムなモニタリングデータの提供を含め、国際社会が利用可能なデータを公表します。関連する国際安全基準を継続的に適用することで、国際社会にさらなる透明性と安心感を提供する、追加的なレビューおよびモニタリング活動の継続が想定されています

安全性や透明性の担保が今回の報告書で終了するわけではなく、今後も継続的に実施されます。環境省の専門家会議は7月14日、放出開始後から当面は週1回採水し、1週間程度で結果を公表すると決めました(朝日新聞)。

また、実際の環境被害がなかったとしても、風評被害は起こり得ます。風評への不安から福島県漁連が「基本的には反対」と述べて、漁業への支援を求める動きを福島民報などが報じています

※このファクトチェックまとめは、世界的に注目を集める福島第一原発からの処理水の海洋放出について、今後も情報を更新していきます。


【更新】新たなファクトチェック

検証:古田大輔 
編集:野上英文、藤森かもめ、宮本聖二


検証手法や判定基準などに関する解説は、JFCサイトのファクトチェック指針をご参照ください。

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