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あきたこまちRは「放射線育種米」で危険だ、は誤り【ファクトチェック】

秋田県の特産米の新品種「あきたこまちR」について「放射線を照射した危険な米」などの言説が拡散しましたが、誤りです。農産物の品種開発の過程で放射線を照射する事例は他にも多数あり、放射線が米に残るわけではありません。


検証対象

2023年2月、米どころの秋田県が「あきたこまち」を新品種「あきたこまちR」に切り替える方針を打ち出した。それに対して、X(旧Twitter)やYouTube上などで、「日本のお米が本当に危ない」「2025年以降、米のほとんどが放射線育種米になる」など、危険視する投稿が拡散した(例1例2)。

言説が拡散した背景には政治家からの発信もある。23年11月14日に参議院議員会館で「あきたこまちR 何が問題なのか」と題した集会が開かれた。参加した福島みずほ社民党党首はXで「#放射線育種米」とつけて、集会の様子をポストし、180万の閲覧数があった。

また、立憲民主党の川田龍平参議院議員は、集会参加後自らのブログで「放射線育種米であることから、安全性の評価、そして一気に全量転換していくことに拙速すぎないか、消費者に対する説明が果たされているのか不安は払拭できていません」と発信している。

検証過程

「あきたこまちR」と開発の背景

あきたこまちRは、従来の特産米「あきたこまち」と、放射線を照射して品種改良した「コシヒカリ環1号」を交配して開発した新品種だ(秋田県「あきたこまちR」紹介ウェブサイト)。

秋田県は鉱山の影響で土壌に含まれる、人体に有害なカドミウム対策に取り組んできた。国内の米のカドミウム基準値は0.4ppm以下で、これまでもその基準以下になるように稲作を実施してきた。さらに、海外のより厳しい基準値(香港、シンガポールは0.2ppm、EUは0.15ppm)を見据えて、カドミウムを吸収しにくい米の開発が始まった。

その成果が秋田県農業試験場が開発した「あきたこまちR」だ。カドミウムを吸収しにくいよう放射線を照射して国が開発した「コシヒカリ環1号」と「あきたこまち」を交配させ、その後7回にわたって「あきたこまち」を交配させることで誕生した。これまでの「あきたこまち」と成長や収量、味は変わらないまま、カドミウム濃度は著しく低いという。

秋田県の公式サイトではこう説明している。「放射線育種された品種のお米は、生育中の水稲や収穫後のお米に直接放射線を照射しているものではなく、育種の最初の段階で、一度だけ放射線を照射して突然変異を起こさせたものです。その後、農業上有用な性質を持った個体を何世代も選抜しているので、新しい品種として登録されるまでには、何年も経過しております。したがって、お米に放射線が残っていることはなく、もちろん自ら放射線を出すものではありません」

放射線を使った品種開発

農作物栽培は、これまでも気象変化への対応や病虫害を予防するために放射線の照射も含め様々な手法で品種開発が行われてきた。米では、「レイメイ」「キヌヒカリ」など、梨では、特有の黒斑病に耐性のある「ゴールド二十世紀ナシ」が育成されている(農林水産技術会議資料)。

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、放射線に詳しい「国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 高崎量子応用研究所」の小林泰彦専門業務員に取材した。小林氏はこう語った。

そもそも、新しい変異体というものは自然界でも出現します。例えば、自然の中でも自然放射線や細胞内の活性酸素などが遺伝子に傷をつけて変異を起こすことがあります。それはまさに生物進化の過程であり、進化の原動力です。
 
細胞の中の遺伝子に傷がつくと、細胞はそれを元通りに直そうとしますが、その過程でごく稀に微妙な直し間違いが起きることがあると考えてください。それが「変異」です。
 
直し方がダメで、その細胞が死んでしまった場合は変異にはなりません。
細胞が死ななくても子孫を残せない、あるいは変異が子孫に伝わらない場合も、変異は後に残りません。

今では、そうした「子孫にも伝わる」変異が自然の中で自然に偶然に起こるのをただ待つだけではなく、薬剤や放射線を使って人工的に加速して効率的に起こすことができるのです。これが「変異誘発育種」です。
 
得られた変異(あるいは新品種)が人間にとって有用か有害かということは、遺伝子に傷がついた原因とは関係ありません。変異が起きた発端、すなわち遺伝子に傷がついた原因が、自然によるものだろうが、人工的なものだろうが、何の関わりもないのです。
 
野生の原種から様々な栽培種を育ててきた何千年も前からの伝統的な育種も、薬剤や放射線を使って効率的に新品種を得ようとする現代の育種も、偶然得られた多くの候補の中から良いものを選び出して農業に役立てようとする点では何も変わりません。

もしかしたら、放射線を使って育成した品種には放射線や放射能が残っているのではないか?と素朴な不安を抱く人がいるかもしれませんが、もちろんそれは全くの誤解です。

判定

「秋田県が開発した米の新品種『あきたこまちR』は、放射線育種米で危険だ」は誤り。開発の初期段階で一度放射線を照射しただけで、放射線の影響が残るわけではない。

あとがき

あきたこまちRは危険だという情報が拡散する事態に対し、秋田県は「農家への誹謗中傷などが寄せられることがある」と注意を呼びかけています。実際にX上には「あきたこまちRを作らないでくださいとDMが届く」などと風評被害に不安を抱く農家の投稿もあります。

JFCが秋田県農林水産部水田総合利用課に取材したところ、23年の4月頃から「あきたこまちR」に関する電話での問い合わせがくるようになり、これまでに100件以上にのぼるとのことです。その多くは不安を訴えるものや苦情だそうです。

あきたこまちRが危険だという言説の背景には、放射線に対する不安と品種開発への誤解が存在します。ネット上では「放射線育種米」という言葉で「あきたこまちR」や「コシヒカリ環1号」を危険視する言説が拡散していますがネット上の造語と見られ、複数の専門家が安易に拡散しないように呼びかけています(NHK)。

検証:宮本聖二
編集:古田大輔


検証手法や判定基準などに関する解説は、JFCサイトのファクトチェック指針をご参照ください。

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