手編みの手袋
「太陽をサッカーボールの大きさだとすると、私たちの星はゴマ粒くらいで70m先を回っているの。太陽から一番近い別の太陽(恒星)までは4.7光年だから、50㎞も先よ」
「へー、宇宙空間ってスカスカなんだな。銀河同士が衝突しても素通りか」
「そうよ、星と星がぶつかるなんてごくごく僅か。たった一億個くらいね」
「なんだ、大したことないんだね」
昼休み、16万光年離れたマゼラン星雲が光速で接近しているという怖い会話をした。近い将来、つまり16万年先に衝突するという。彼女は天体物理を専攻する理系女子だ。
だが夕方、もっと怖いニュースを聞かされる。
昼間話した、その僅か4.7光年先の恒星付近から、大量の放射性物質の発生が観測されたという。どうやらその星の衛星の一つに知的生命体があって、原子力で発電をするという恐ろしい行為をしていたらしい。
我々の先祖が1000年前にしでかしたのと同じ過ちだ。
「このまま線量が増え続けると爆発だわ」
「でも4.7光年じゃ助けに行きようがない」
「祈ってあげましょう」
彼女は涙ぐんだ。
クールだけれど優しい娘だ。
そこが気に入って、近く一緒に暮すことになっている。
「そうだ、忘れてた。お誕生日おめでとう。私の手編みの手袋よ」
彼女は気を取り直しバッグから包みを取りだした。
「ありがとう」
と受け取って手にはめようとした時だった。
本当にこれからの生活を彼女に委ねて太丈夫かという思いがよぎった。
手袋に指が五本もついている。
余った一本がブラブラと邪魔じゃないか。
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