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風来のシレン6は本当に面白いのか?

風来のシレンシリーズ14年ぶりの完全新作『不思議のダンジョン 風来のシレン6 とぐろ島探検録』が1月25日にリリースされました。

風来のシレンシリーズには根強いファンが多く、久しぶりの新作を喜び、楽しんでいる人の声がSNSでは多く見られます。自分もその一人で、今作も発売日に購入し、「とぐろ島の神髄」クリアまで夢中でプレイしました。

しかし、自分が嬉しかった・楽しかったということと、作品の善し悪しは別問題です。この記事では、風来のシレンシリーズにおける今作の特徴を分析し、レビューします。


評価の観点

まず、「楽しかったということと、作品の善し悪しは別問題」とはどういうことか。ゲームは楽しければ、それで良いのではないか。

様々な考え方があるだろうが、この記事ではあくまで「楽しさ」に焦点を当てつつも、「楽しさの度合いは、作品やプレイヤーによって差がある」という前提で評価をしたい。『風来のシレン』および『不思議のダンジョン』シリーズは、筆者にとってはどの作品も面白いが、シリーズ内での当たり外れはある。また、風来のシレンは誰もが簡単にプレイできるシリーズではないので、多くの人が楽しめるようにする工夫も必要だ。

具体的には、以下の観点からシレン6を評価していく。

・「新入り」の観点
風来のシレンを初めてプレイするプレイヤーが、スムーズに、高確率で「つわ者」の状態になれるか

・「つわ者」の観点
風来のシレンシリーズを好み、長期間プレイしているプレイヤーが、より深く、長く楽しめるか

「つわ者」の観点では風来のシレンシリーズ内の比較が多くなるが、「新入り」の観点では風来のシレンシリーズ全般に当てはまる内容も多くなるだろう。

「新入り」の観点

不思議のダンジョンの問題点

不思議のダンジョンに代表されるローグライク全般に共通する問題として、プレイヤーがゲームの進行を感じにくいことが挙げられる。ローグライクは、一度死ぬと冒険が初めからやり直しになる「パーマデス」が大きな特徴で、厳密なパーマデスの下では冒険に失敗するとゲームの中には何も残らない。

そんな中、ローグライクに慣れたプレイヤーは、失敗した冒険から知識を蓄え、自身の上達を感じることができる。これがローグライクの醍醐味の一つで、プレイヤーは上達を実感すると同時に、ゴールに近づいていることも理解できる。

一方、「新入り」は何が望ましい状態なのかを把握していないため、上達の実感が難しく、ゲームが停滞しているように感じてしまう。このようなプレイヤーはモチベーションを失い、ゲームから離脱しやすい。

進行感を与える手法

不思議のダンジョンシリーズは、この問題に様々な形で対処してきた。不思議のダンジョンシリーズの元祖『トルネコの大冒険』では、チュートリアルダンジョン終了後「死亡時に持っていたお金を貯めて自分のお店を大きくする」ことが目的のうちの1つとして示される。
また『トルネコの大冒険』および初代『風来のシレン』では、冒険ごとに到達フロアおよび所持品などに応じたスコアが算出され、初代『風来のシレン』には高いスコアを褒める演出(風来番付)があった。

プレイヤーを称賛することで、プレイヤーの視点は「クリアできなかった」から「お金が貯まった」「何階まで進めた」に変化する。ゲームの進行感が与えられるのだ。

さらに『トルネコの大冒険』では、お店がある程度大きくなるとアイテムの保管機能(倉庫)が追加され、「リレミトの巻物」(脱出の巻物)で持ち帰った装備を繰り返し使い、鍛えることが可能になる。
不思議のダンジョンシリーズはアイテム育成の要素を強めていき、保管・持ち帰りはシリーズを追うごとに徐々に容易になっていった。アイテムの育成はパーマデスの原則に反しており、ローグライク本来の楽しみ方ではないとはいえ、人気がある。ついには、死亡時に装備を失わないタイトルも現れるようになった。

一方、昨今のローグライトでは冒険をすることで冒険外のポイントが貯まり、ポイントにより冒険の前提条件を有利にできるシステムが多く見られる。
『トルネコの大冒険』の倉庫のアンロックもこのシステムに似ているし、『風来のシレン』の「合成の壺」や旅仲間のアンロックもこのシステムの一種と言えるだろう。

まとめると、不思議のダンジョンがプレイヤーに進行感を与える手法は、以下の3つに分けられる。

・演出による称賛
・パーマデスの緩和
・前提条件の改善

「パーマデスの緩和」と「前提条件の改善」はゲームを進行させるが、「演出による称賛」はプレイヤーの印象を変えるだけでゲームを本当に進行させるわけではないことに注意しておこう。
必要なのは進行している感覚であって、実際の進行は手段の1つに過ぎないし、進行していることにプレイヤーが気付くまでは意味がない。『トルネコの大冒険』のお店のように、複数の要素が混合されているものも多い。

序盤の進行感の弱さ

こうして見ると今作の問題が浮かび上がってくる。まず「演出による称賛」は初期の不思議のダンジョンと比べると貧弱になっている。「パーマデスの緩和」も、持ち帰りの難化からやや貧弱になっている。「前提条件の改善」は、改善される要素がいくつかあるが、昨今のローグライトと比較すると分かりにくい。

一部の「新入り」が主張する「パーマデスに対する不快感」は、パーマデスではなく、進行感の欠如を指摘していると捉えるべきだ。何によって進行感を与えるべきかは別として、序盤の進行感が弱いのは確かなので、この指摘は一理ある。

敵が強すぎる

序盤の進行感の弱さを助長するのが、モンスターの強さである。今作の冒険序盤のモンスターは、恐らく歴代で最も強い。危険度やクリア率を見ても、低層での死亡が多い。

これはある意味では初心者に優しい。「接敵するときは先手を取る」「1:1で戦う」「負けそうになったら後退する」や、「冒険後半になるまでは全ての部屋を巡回する」などの基本ができていないプレイヤーを必ず殺すという意思を感じる。今作は、選択肢の少ない冒険序盤の難度を上げることで、基本動作の学習をプレイヤーに強要している。

しかし、このような方針なのであれば、冒険への挑戦自体に報酬(称賛含む)が欲しかった。今作の「パーマデスの緩和」「前提条件の改善」がプレイヤーに示されるまで少し時間がかかることも考慮すると、今作の最序盤は「新入り」にかけるストレスが強すぎる。

また、モンスターの戦闘能力の高さは序盤だけに留まらず、終盤まで一貫している。詳しくは後述するが、このデザイン方針はプレイヤーのケアレスミスを強く咎めるため、ミスをしやすい「新入り」に挫折感を与えやすい。「演出による称賛」はなおさら重要になる。

中盤の落とし穴

「とぐろ島」突破以降のUXにも難点がある。この記事では「とぐろ島」を「序盤」、「とぐろ島」突破以降を「中盤」、「とぐろ島の神髄」を「終盤」と区分するが、理想的な「新入り」の体験は、序盤に自然とゲームを継続する気になり、中盤で終盤に必要なことを学び、終盤を苦労の末に踏破し「つわ者」になる(打算的に言えば、今作の購入を他人に勧め、次回作の購入も決意する)というものだろう。

今作の中盤は、「とぐろ島の神髄」に登場する要素を1つずつ学べるルールのダンジョンが多く、終盤につなぐ役割を意識した構成になっている。
筆者は中盤のダンジョンを多くはプレイしていないので、ダンジョンのクオリティを詳しく評価することは難しいが、少なくとも一貫した意図をもって各ダンジョンのコンセプトを設定したことが伺える。

しかし、唯一の持ち込みなし・未識別・通常ルールのダンジョンである「ヤマカガシ峠」は、あまりにも難しすぎるし、「マゼルン」も出現しない。
「ヤマカガシ峠」がストーリー上、比較的目立つ部類のダンジョンであることから、「新入り」にとっての落とし穴になっている。また、未識別ダンジョンで装備を強化するプロセスも学ばせるべきだ。

「鬼木島」の発展として、通常ルールかつもう少し長いダンジョンが望ましかったのだが、現状の「ヤマカガシ峠」ならば存在しない方が良い。
恐らくここでは「即降り」を学習させたかったのだろうが、それなら即降りに適したアイテムを多めに出すなど、もう少し「説明」するべきだったし、ボスが居ることも即降りと矛盾している。

新入りの観点のまとめ

・序盤(特に最序盤)の進行感に課題あり
・モンスターの戦闘能力の高さが、進行感の欠如をより深刻にしている
・中盤はおおむね優れているが、「ヤマカガシ峠」は罠

これは筆者の個人的な考えだが、『風来のシレン』の序盤・中盤は「新入り」向けに振り切ってしまう手もあるのではないだろうか。

後述するが「つわ者」は終盤を重視する反面、序盤・中盤にはあまり拘りがないため、序盤・中盤を「つわ者」向けのチューンにするメリットはあまりない。また、終盤のダンジョンを「警告!このダンジョンは上級者向けです。クリア後の挑戦をおすすめします」などのダイアログを出しつつゲーム開始時からアンロックすることで、「つわ者」が序盤・中盤をプレイしなくて済むようにすることも不可能ではない。

もちろん序盤・中盤を簡単にするだけでは、序盤から終盤へのつながりが切れ、「新入り」が「つわ者」になる道筋が失われてしまうのだが、少なくとも現状は「新入り」にとってベストな状態ではないと感じる。
しかしこのような抜本的なモデルチェンジは、不確実性が高く、工数も多くかかるため、今作ではなく次回作以降の課題と捉えるべきかもしれない。

今作の特徴

次は「つわ者」の観点から今作を掘り下げていくが、その前に今作の特徴の中で一目でわかるものを片付けておこう。

UI

操作感はおおむね良く、軽快に行動できる。また、細かな便利機能が数多く追加されており、シリーズで最も優れたものになっている。所持アイテムの価格が店内で分かる仕様や、手帳(図鑑)・探検録の追加も嬉しい。道具手帳は価格でソートできればもっと良かった。

グラフィック

あまり魅力的ではない。「つわ者」にとっては視認性が高ければ問題はないし、愛着のあるキャラクターは最低限魅力的に表示されているものの、グラフィック自体が誘因要素にはならない。「新入り」が敬遠する要因になるのではないかと心配になるが、そこまで悪くはないと信じたい。

廃止されたシステム

前作から廃止されたシステムのうち、目立つものに絞って触れる。

・夜
一部のダンジョンで、一定ターンごとに「夜」になるシステム。「夜」は視界が狭く、出現モンスターの攻撃力が極めて高く、モンスターへのダメージは無効化される。シレンは8個の「技」を1フロアにつき1回使える。

通常戦闘は封じられ「技」が極めて強力なため、それまでどのような状態であっても「夜」はいつも同じような行動をすることになる。また、モンスターの攻撃力が高いことで、ケアレスミスによって即死する可能性が高くなる。したがって「夜」のあるダンジョンは、似た行動をミスをしないように繰りかえすプレイになりがちで、面白くない。廃止は順当。

・装備成長
敵を倒すと装備中の武器・盾に経験値が貯まり、強さの基礎値・印のスロット・修正値の上限が増えるシステム。
装備の乗り換えを難しくするため、序盤の引き(運)の影響度が上がり、中盤以降の選択肢が減る。面白くないので廃止は順当。

・食料の腐敗
「おにぎり」の役割を持つ「バナナ」や「仙桃」が、フロアの移動によって熟したり、腐ったりするシステム。「保存の壺」を引けていないときにインベントリの管理が面倒になるだけのシステム。廃止は順当。

新システム

多くあるが、これも目立つもののみ。

・デッ怪
マイルドな「夜」。「夜」の問題点を引き継ぎ、ミスったプレイヤーを即死させるシステムになっている。「石を投げる」など対処法がワンパターンなことも似ている。フロアを巡回すると強力なアイテムが貰えるというポジティブな面も追加されているが、「夜」が少しマシになった程度で「不要」の範囲を抜け出せていない。

・神器
装備成長の代わりに、最初から強い装備が低確率で落ちている。落ちている装備のバリエーションが増えること自体は楽しい。問題は、落ちている装備の強さの上振れ方がどの程度かだろう。少なくとも装備成長よりはマシなシステム。

・どすこい状態
食料の腐敗を導入したときも同じ問題意識があったのかもしれないが、風来のシレンシリーズの「満腹度」はあまり機能していない。
食料の出方が平均より少なかっただけで餓死するゲームは面白くないので、食料は必要数より多めに出さないといけないが、そうするとプレイヤーは餓死のリスクを感じない。

要するに「餓死するかもと思わせて何らかのトレードオフを突き付けつつ、実際は餓死しない」バランスを作るのが困難なので、常に「餓死しない」と感じられる。風来のシレンの食料は、狩り・風待ち(旧作)など、何らかの特殊な行動の引換券に過ぎない。

「どすこい状態」は、食料の使い道を追加することでこの問題を解決しようとしている。とはいえ、「どすこい状態」になるには事実上「にぎりへんげ」による「大きなおにぎり」の量産(オニギライズ)が必須なので、食料ではなくオニギライズの価値を上げるシステムになっている。
必須というほどのメリットはないので、現状あってもなくてもいいシステム。メリットが大きかったとしても、オニギライズをプレイヤーに強要するだけなので、結局は不要なシステムかもしれない。

・クロンの挑戦
挑戦を達成できるかできないかが、特定のアイテムを持っているか(使うか)によって決まることが多く、あまり面白くない。あってもなくてもいいシステム。

・熱狂の祭り
これは面白い。不思議のダンジョンはターン制のゲームだが、時間をかけて考えれば大抵の状況における短期的な最適解は出るので、プレイヤーの不注意を咎める側面が強いことは否定できない。

ここでリアルタイム性を導入すると、注意力以外の技量を測ることができる。不思議のダンジョンのタイムアタックが人気なのはそのためだが、不思議のダンジョンにはリアルタイム性を嫌うプレイヤーも多いため、リアルタイム性の強要とは相性が悪い。
熱狂の祭りはリアルタイム性を強要せず、かつポジティブな要素として導入しているため、ゲームの面白さの幅を広げている。しかし「道具寄せ」はこのシステムの特徴を潰してしまうため、できない方が良かっただろう。

変更点の評価

・UIは史上最高
・グラフィックはしょぼい
・不要なシステムがなくなった
・新システムは大体あってもなくてもいい

「つわ者」の観点

必要なのはボリュームではない

「つわ者」の観点で重要なのはリプレイ性だが、リプレイ性に必要なのはボリュームではない。クオリティである。

「つわ者」にとってのメインコンテンツは、持ち込みなし・未識別・99Fのダンジョン(いわゆる「もっと不思議」)だが、優れた「もっと不思議」は高いリプレイ性を持つため、「もっと不思議」のクオリティが高ければ、その時点である程度のリプレイ性は担保される。

逆にクオリティの低いダンジョンは、せいぜい数回しかプレイされないため、「1000回遊べるダンジョンRPG」に求められるリプレイ性に対し、大きな貢献はできない。

そのため「つわ者」の観点では、今作の「もっと不思議」である「とぐろ島の神髄」のクオリティを精査していく。

敵の攻撃力がプレイ感を決める

最初に結論を書いてしまうと、「とぐろ島の神髄」のクオリティは残念ながら高くない。難易度が低すぎるだけでなく、退屈に感じやすいのだ。

今作の最も重要な特徴は、モンスターの攻撃力の高さだろう。不思議のダンジョンのモンスターの一部は、通常攻撃以外の行動をしてこないため、プレイヤーの防御力が相対的に高ければ、多くのモンスターが無害になる。モンスターのプレイヤーに対する相対的な攻撃力(プレイヤーの受けるダメージ)によって、不思議のダンジョンのプレイ感は大きく変わる。

・低攻撃力
多くのモンスターが無害になることを許容する。具体例は外伝(アスカ)

・中攻撃力 + 低回復力
体力の自然回復を少なくし、連戦時の消耗を激しくする。具体例は4、5

・高攻撃力 + 高回復力
正しくない戦闘をすると死のリスクがある。具体例は今作

近年の風来のシレンは、徐々にモンスターの攻撃力を高めている。モンスターの攻撃力が低ければ、盾を強化することで多くのモンスターを無害にできるため、強化のプロセスを学ぶことがゲームの大きな要素になる。
一方、モンスターの攻撃力が高ければ、盾をある程度強化しても依然として多くのモンスターは脅威であり、常に対処に気を使わなければならない。

この方針にはもしかしたら、攻略セオリーがゲーム実況やSNSによって瞬く間に拡散される現代に合わせ、「知識の習得」から「プレイの正確さ」にゲームの比重をシフトさせる意図があるのかもしれない。この視点で見ると「夜」や「デッ怪」の試みも、攻撃力上昇の流れと一貫している。

敵が強すぎる(2回目)

しかし、この方針にもやはり「夜」に似た問題点がある。

まず、プレイヤーのケアレスミスを過度に罰する。確かに「なんかボーっとA押したら、いつの間にかHP減ってて死んだ」はプレイヤーの過失だし、罰されても仕方がない。しかし、プレイヤーに要求する能力のうち「長時間、集中し続けること」の比重が大きいゲームが面白いかは疑問だ。

また、今作のように敵の攻撃力が全体的に高い場合、大半の敵が同じプレッシャーをプレイヤーにかけることになる。プレイヤーはどのフロアでも、似た種類の、似た程度のプレッシャーを感じ続ける。「中攻撃力 + 低回復力」と異なり、戦闘ごとにHPがリセットされるため、状況の幅も乏しい。「とぐろ島の神髄」のプレッシャーは、多様性や起伏に欠けている。

ケアレスミスに対する罰を緩和する役割を持っているのが「復活の草」だが、本質的な問題は多様性や起伏の欠如であって、「復活の草」はプレッシャーの水準を全体的に引き下げることしかできない。
結果として、緊張感のない似た局面が繰り返される印象になっている。「復活の草」の量は明らかに多すぎるが、ここから「復活の草」を取り除いても、単純作業を正確に続けるゲームになるだけだろう。

単調な99フロア

ダンジョンの「華」であるモンスターの特殊攻撃も、同じ問題を抱えている。

「とぐろ島の神髄」は、80Fから99Fまでほぼ同じモンスターが出現し続けるなど、モンスター出現テーブルのバリエーションが少ない。また、深層の特殊攻撃も従来の「もっと不思議」と比較すると弱い。これにより、一部の「印」や「腕輪」を持っているだけで、フロアの脅威が激減する。さらに「白紙の巻物」で「ねだやす」ことで、各フロアの最大の脅威をゲームから退場させることができる。

特殊攻撃も通常攻撃と同様、多様性に欠け、最も重大な脅威をアイテムによって排除できるため、中程度の脅威がダラダラと続いている。

この単調さに拍車をかけているのが「マゼルン」種の配置だ。従来の「もっと不思議」では、「マゼルン」や「怪盗ペリカン」など、合成能力を持つモンスターは一部のフロアにしか出現しなかった。
このことは、装備が強くなるタイミングをゲームデザイナーが指定していることを意味する。

装備が強くなるタイミングを指定し、絞り込むことで、装備の強さと敵の強さの関係にムラが生じる。装備が強くなった直後は相対的にプレイヤーが強く、装備強化をしばらくしていないときは敵が強い。さらに、装備強化をしていないときは合成素材がインベントリを圧迫するため、インベントリ容量も苦しい。

このインベントリが厳しく、敵も強い状況から、合成というプレイヤー自身の行動によって一気に抜け出る瞬間が従来の「もっと不思議」の大きな「快」である。

また、合成タイミングの指定は、合成準備のタイミングを指定することでもあるため、プレイヤーが各フロアをどのような目的意識でプレイすべきかも示唆している。
端的に言えば「マゼルン」は、ゲームに起伏をもたらすとともに、99F踏破の主要なマイルストーンである。今作は、多くのフロアで「マゼルン」種が出現するため、従来の「マゼルン」が持っていた、起伏やマイルストーンの機能が失われている。

つわ者の観点のまとめ

・モンスターの通常攻撃が全体的に強く、特殊攻撃が弱いため、プレッシャーに多様性がない
・モンスターの出現テーブルのバリエーションが少なく、一部のアイテムによって脅威を激減させることができる
・「マゼルン」が多くのフロアで出現するため、起伏が失われている
・これらのことから、緊張感の薄い、似た状況が繰り返される印象になっている

今回の「もっと不思議」である「とぐろ島の神髄」は、残念ながら「1000回遊べる」ダンジョンではなかった。これが一部の「つわ者」が指摘する「ボリューム不足」であり、実際に不足しているのはボリュームではなく、クオリティである。

ここからは筆者の好みの問題だが、「低攻撃力」「中攻撃力 + 低回復力」「高攻撃力 + 高回復力」の中で、「低攻撃力」と苛烈な特殊攻撃および貧弱なアイテムを組み合わせた「裏白蛇」系の方針の新作もプレイしてみたい。
いずれにせよ「不思議のダンジョン」や「もっと不思議」のゲームデザインは、方針策定の段階からいくつかの選択肢があり、個別具体的な調整の前に、どのような方針でゲームデザインに臨むかが重要になるだろう。

総評:再出発を期した中級者向け作品

『不思議のダンジョン 風来のシレン6 とぐろ島探検録』は、初心者には不親切で、上級者には物足りない作品と言わざるを得ない。

今作に相応しいプレイヤーは、初心者と上級者の間のプレイヤーだろう。

例えば、「ゲーム実況を見ており、シリーズの概要を知っている」や、「昔、不思議のダンジョンシリーズをプレイしたことがあるが、やり込んではいない」や、「未経験だが、高難度のゲームへの耐性には自信がある」などのプレイヤーだ。
このようなプレイヤーにとっては、今作の不親切さや物足りなさも丁度いいかもしれない。将来Steam版がリリースされることを期待しよう。

また、UIは不思議のダンジョン史上最も優れており、前作にあった不要なシステムも一掃された。

そういう意味では今作は『風来のシレン』14年ぶりの再出発に際し、新たな足場を固める役割を果たそうとしている作品と言えるだろう。今作の物足りなさはあくまで「不足」であって、DLCや次回作での改善にも期待できる。国内累計出荷数がシリーズ最速で20万本を突破したというリリースが出ていたが、自分は『風来のシレン』は全世界で200万本売れるポテンシャルのあるシリーズだと信じている。

最後にパッケージ裏面の最上部に記載されている文章を引用する。

数多の風来人達よ再び集え!
旅はまだまだ終わらない!

旅が終わらないよう願っている。
不思議のダンジョンは、プレイヤーにとってもゲームデザイナーにとっても、まだまだ広大な迷宮だ。

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