「君はサッカーで生きていくつもり?」17歳ギティは「無理だね」と当然のように答えた‐エスパニョール選手寮生活日記⑳
ある意味、このエスパニョール選手寮で生活しているからこそ聞ける、全て意味を含めた質問だと思う。
「君はサッカーで生きてくつもり?」
核心をつく質問
フベニールA(高校生Aチーム)のFW、17歳のGUITI(ギティ)と話していた。
「KAZU(筆者)はジャーナリストなんだろ、普段はどんな仕事をしてるんだい?」
2004年当時、同じようなことをよく聞かれた。その度に、GUITIだけではなく他の人とも、以下のような会話になったのを覚えている。
KAZU「原稿を書いて、新聞社とか雑誌とかWEB媒体に送ってるんだよ」
GUITI「スペインのメディア?」
KAZU「いや、日本のメディア。知らないと思うけど○○とか○○とか」
GUITI「移動の飛行機代とかホテルは、会社が出してくれるの」
KAZU「うーん、だいたいは自分で払って、原稿料から払う。有名な人だったら違ったりするけどね」
そんな流れの中で、自然と出てきた質問だった。
GUITI「KAZUはサッカーで生きていくつもり?」
僕は一瞬、答えに迷った。
言葉の強さと自信
高校生のころ「サッカーライターになりたい」と思ってから数年。幸い、24歳になって、いくつかの媒体に原稿を出させてもらうようになった。
でも、”そんなストレートに聞くのか”と感じたのを覚えている(別に全然悪いことじゃないんだけど)
KAZU「う…ん。そのつもりだよ」
ちょっとだけ、歯切れの悪い言葉で答えた。
それは後から考えると、自信がなかったり、経験が浅かったり。そんな自分の曖昧さが、返事になって表れたのだろうと思う。
だから、同じようにGUITIにも聞いたんだ。
KAZU「君は?サッカーで生きていくつもり」
GUITI「オレは無理だね」
曖昧に答えた私とは対照的に、あっさりと当然のように、17歳のGUITIは答えた
ホンモノが近くにいると、人は身の程を知る
KAZU「どうして、そう思うの?」
GUITI「俺よりうまいやつはいっぱいいるからね」
重ねて言うが、エスパニョールユースはスペイン国内トップクラスの強さである。このチームに入っている時点で、同年代からすればサッカーエリートだ。GUITIはスタメンではなかったが、それでも有望な若手なのに違いはない。
そんな彼が、すでに「もうプロでは無理だろう」と認知しているのが意外だった。続けて聞く。
KAZU「じゃあ、誰が食べていける?」
GUITI「難しいだろうね。フランシスはいいプレーヤーだけど・・・」
フランシスは前の試合でも10番をつけてた、チーム1のテクニシャン。あとDF3番の子(※)と、右サイドハーフのマンチェスター・Uから声がかかってるという子の名前を挙げていた。
この子達はスペイン代表の下のカテゴリーにも召集されているらしい。
(※)彼の名はディダックという。後にACミランに移籍するDFだ
実際、今のエスパニョール2軍から1軍にあがれるのも、1年代に2~3人いれば良し、ぐらいのもの。モノにならない人間は、他のチームに行く。
そうなると将来的に、スペイン2部、3部・4部リーグに所属するようなセミプロチームにいってサッカーを続けるのが、ある意味スタンダードな道。他に仕事をしながら、夜はサッカーを続ける。あるいはサッカーから遠ざかっていく。そんな人たちが、たくさんいるのだ。
そして、この世代のトップにいる子達でも、目の前にそういう道しか広がっていないことを知っている。別に感傷的になることではなくて、それが当然なのだ。
ホンモノが近くにいると、人は身の程を知る
GUITIは続けた。
「でも、選手としてトップチームは無理だろうけど、サッカーには関わっていきたいと思ってるよ。KAZUみたいに、ジャーナリストの道だってあると思ってる」
よく考えると、同い年にメッシがいて、たまに同じピッチで戦っているのだ。たぶん、そんな環境にいると、人は考えることが違ってくる。GUITIだけじゃなく、高校生ですでにコーチになるのを見越して、ライセンス取得の勉強をしている選手もいるらしい。
そんな多様性が、日常の中で否が応でも積み重なっていく経験が、サッカー強国スペインを支えている気がした。
この子達はただサッカーを楽しむために、ここに来ているわけではない。
どう生きていくかを模索しているんだ。それを改めて感じた、GUITIとの会話だった。
いったい、ここに何人、サッカーで飯を食っていこうと決めている人間がいるのだろう。そんなことを考えた、夜だった
↓よければ1話から順番にどうぞ【目指せ!ドラマ化】
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