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小説☆セックス、トラック&ロックンロール・シリーズ

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中古レコード屋の雇われ店主 サキ が遭遇する、少々ストレンジかつビザールな出来事を描く連作短編小説♪
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#カセットテープ

セックス、トラック&ロックンロール・あの娘にこんがらがって…10

形ばかりの秋も終わりを迎えそうな頃、店へ顔を出したルミ姉さんから、川崎が婚約をして警察を退職したという話を聞かされたアタシは、薄いヴェールを被されたような自分に気付きながら、それを知られたくない一心で押し黙っていた。 ルミ姉さんは、品出し寸前のシングル盤の束を一枚ずつ取っ替え引っ替え眺めながらそんなアタシへこう話し掛けた。 「ま、そーいうもんよ……」 アタシは、瞬時に頷き返すことでレスとしつつも、その脳裏には意識と無意識の狭間で横たわっていたあの日を彷徨って

セックス、トラック&ロックンロール・あの娘にこんがらがって…9

シャッターの下りた音が、眠りに沈んだ住宅街を鋭利に震わせた。反射的に顔を向けた二人の中年男性は、シャッターを背にした制服姿の女子校生が足早にその場を立ち去っていくのを不審げに見送った。二人は、ワンボックスの社用車の運転席と助手席に仲良く座っていたが、制服を追うべきか、どうするかで意見を交わしたものの、鋭利に響いたシャッターの余韻が二人に強いたのは、店内への突入だった。嫌な予感がしたのだ。そもそも住宅街の裏通りというリスキーな場所に路上駐車をし、中古レコード屋‛ロスト&ファウン

セックス、トラック&ロックンロール・あの娘にこんがらがって…8

アタシは、飛んでいた。360度青い青い空の中を……。どちらが上で、どちらが下かも判然としない青のトンネルを飛んでいた。 進んでいるのか、後退しているのか、それすらハッキリせず、いつまでもどこまでも青、青、青……、気分がイイどころか、どーにかなってしまいそうな境地へと達して、もうかなり経ったはずだ……。もがいても、足掻いても、何も変化はなく、青一色なのだ。 そんななか、うっすらと音楽が聴こえていて、ただその事だけが、アタシを正気の側に踏みとどまらせていた……。

セックス、トラック&ロックンロール・あの娘にこんがらがって…7

JKの話は一通り終わった。さて、真意の程は……? このところの川崎の動きは、なんとなくJKの話を裏書きしているような気がしなくもなかったけれど、それはようするに川崎さんが警察の名の下にアタシを騙している、そういうことでもあって、だからこそJKの話を否定したい誘惑にかられるアタシという存在もまたあるのだった。 だからこそ、アタシがやれること、ううん、やれるべきことは一つしか考えられなかったから、アタシとJKは今、こうして連れ立って抜き足差し足で階段を降りているという

セックス、トラック&ロックンロール・あの娘にこんがらがって…6

「先輩、違うって! ハメてなんてないからッ……。第一、アタシじゃないからね。え、何が? だから、アタシが殺したんじゃないってこと! 本当だって! マジで! そもそもさ、馬場流してたら、ナンパされてさぁ、え? そう、小遣い稼ぎで客探してたら、うってつけそうな背広のオジさんが声掛けてきてさ。で、オジさんが先に部屋取って、そこから部屋番号スマホに連絡もらって、アタシそれから部屋向かったの。それでさ、シャワー前に軽くプレイして……どんな? 隅から隅まで

セックス、トラック&ロックンロール・あの娘にこんがらがって…5

店へ戻ると、酔い潰れた川崎さんが、カウンターへ突っ伏して眠っていた。アタシは、カウンターを挟んで寝息を立てている川崎さんをしばし眺めてみたが、その内にそんな彼女へ顔を寄せると、唇をすぼめて、そのおでこの辺りへ息を吹き掛けてみた。フェイクじゃなかった、完全に落ちていた。いや、そのはずだ。そして、なんだか、彼女の髪は少々臭い、心なしか潤いに欠け、パサついてもいた。手入れをする暇もないぐらいに、あのJKはヤバい案件なのだろうか……? で、顔を戻したアタシは、飲み掛けのワインボ

セックス、トラック&ロックンロール・あの娘にこんがらがって…4

「よし、その腹積もりがあんなら、わかった。ところで、サキ、先ずはそのホテルからさっさと出ろ。サキの話の通りなら、JKがチクるかもしれないしな、とにかく一刻も早く出るんだ」 アタシは、言い付けを守ろうとしてさっきメイドが開けてくれた件のドアへ向かい、ノブを握った。が、死体に後ろ髪を引かれたわけでもないだろうけど、そう、多分弱気や不安、そういうヤツの合わせ技だろうか、フッと足が止まった。アタシは、そんな調子だからか、妙に素直な情けないレスを返した。 「けどさ、アタシの

セックス、トラック&ロックンロール・あの娘にこんがらがって…3

店先で缶コーヒーを飲む不貞腐れた呈の川崎を尻目に、アタシはトラックを駐車スペースへと乗り入れ、イグニッションを切った。その手は微かに震えていたが、その震源地が今さっきまで居たホテルの部屋なのは間違いなかった。 時計を見遣ると、なんだかんだ5時40分過ぎだった。 アタシは、大きく溜め息を吐いてから、トラックを降りた。このまま、建物沿いに奥へと進んで、裏口から入る手もあるかなと一瞬考えたが、それになんの意味があるというのか……却下、 小細工は要らない、ニュートラルで臨んで、

セックス、トラック&ロックンロール・あの娘にこんがらがって…2

「先輩、これカッケー、なんか腰揺らしたくなるゥ」 「案外、センス良いね、アンタさ」 JKは目張りの決まった瞳でもってウィンクすると、腰を揺すり始めた。アタシは、そんなJKを眺めながら、‛こいつ、結構な値段取ってんだろうな‚って思っていた。 「先輩さー」 アタシは、その声にフッと我に返って、こうレスった。 「気安いんだよ、後輩」 JKは、腰を揺らしながら話を続けた。 「先輩、ここさ、時給幾ら?」 「バイトは、要らない」 「

セックス、トラック&ロックンロール・あの娘にこんがらがって…1

   そのショートカットのJKが、店へ顔を出すようになって約1ヶ月が過ぎた。彼女はスラリとした体型で、水色の半袖ブラウスに濃紺の短いスカート、ナマ足優先のショート・ソックスには、赤いコンバースのハイカットをいつも合わせていた。     週2、3度は現れて、最低1回は何かを買ってくれるので、良いお得意様なのは間違いなかったが、会計時の当たり前の遣り取りを別にすれば、普通の日常会話をしたことはなかった。もっとも、その会計時の遣り取りにしても‛これ下さい‚から始まって、最近では‛こ