キングスネークブルース
音楽に夢中になったのは16歳の頃だ。
サンハウスの「Drive」というアルバムのA面1曲目「キングスネークブルース」のイントロを聴いたあの瞬間。
それまでも音楽は大好きだった。中一の頃ラジカセが欲しくて、親から中間試験で全科目80点以上取ったら買ってくれるという約束を取り付けて、見事に達成し、ソニーのラジカセを買ってもらった。それからカセットテープにダビングしてもらったビートルズを馬鹿みたいに聴き、ベイシティローラーズの嵐が吹くし、ラジオから流れてくるナタリー・コールのミスターメロディやアル・グリーンのベル、ボブ・ディランのコーヒーもう1杯、いとこにダビングしてもらったディープパープル、エアロスミス、レッドツェッペリン、そしてストーンズ!、それに加えてセックスピストルズやダムドにトムロビンソンバンド、NHKのヤングミュージックショーはほぼ欠かさず見ていて、ブライアン・フェリー(クリス・スぺディング!)やストーンズのパリ公演!ボブ・マーリー、キッス、デヴィッド・ボウイ(エイドリアン・ブリュー!)に憂歌団!
なんかめちゃくちゃだった。ジャンルなどわかるはずもなく、目や耳に飛び込んでくる音楽をひたすら浴びてるような感じだった。楽しくて仕方なかった。
キングスネークブルースのイントロのギターだ。
ピーヴィーのアンプをフルテンで歪ませて、フェイザーがかかってる音(この頃鮎川さんはフェイザーを使ってる)、なんかすごい音聴いたって震え上がったし、このひとの音は血でわかる!って思った。テープが延びてへたってしまうまで聴いた。
遠い海の向こうのビートルズやストーンズをぼくの手元まで手繰り寄せてくれたギターの音、それがぼくにとっての鮎川さんだ。
それからは早かった。それまで聴いてきた頭の中や鼓膜にこびりついていた音楽が身体中を駆け巡った。ドクター・フィールグッド、パイレーツ、カウント・ビショップスやスティッフ・リトル・フィンガーズ、イギー・ポップ(ストゥージズ含む)フーやキンクス、マンフレッドマンやゼムにゾンビーズ、サーチャーズ、マディ・ウオーターズ、ハウリング・ウルフにジョン・リー・フッカー、ジミー・リードにスリム・ハーポ、オーティス・レディング、サム・アンド・デイブ、スモーキー・ロビンソン、テンプテーションズにフォー・トップス、書き出したらきりがない。それぞれ年代やジャンルなど相変わらずぐしゃぐしゃだったものが整理されて、貪るようにいろんな音楽を聴きまくった。
フォークギターは持っていたが、案の定エレキが欲しくなって、ストラトを買った。レスポールは自分には似合わないと思ったのだ。新しいフォークギターを買うと母親をだまして買ってきたのがストラトだったため、当然のごとくめちゃくちゃ怒られた。エレキを買ったら不良になると母親はまだ思い込んでいたのだった…
新聞配達のバイトをして、買ったストラトの月賦を払った。夜中遅くまでラジオを聴いたりしてたから、朝起きれずに何度母親にたたき起こされただろう。
あるときピンジャックにギターケーブルをさすことができるコネクターを見つけて、わくわくしながらラジカセのマイクって場所にギターケーブルを差し込んで音を出したら、見事に歪んだ音が出てめちゃくちゃうれしかった。うれしくて弾きまくりラジカセがすぐに壊れたのは言うまでもない。
スピーカーが破れただろうし、中の回路もやられたに違いない。妹が持っていたラジカセを借りてしばらくしのいだ。
とにかく音楽のことしか考えられなかった。
キングスネークブルースは今でも「Drive」のアレンジが一番好きだ。