はは、はしる 逃亡ひとり旅日記 note版
はは、はしる について
「はは、はしる 逃亡ひとり旅日記」は、
母親歴7年、36歳会社員・じぇっきゃによる、旅行エッセイです。
内容は、2024年3月23日に「吉祥寺ZINEフェスティバル」において紙の本で発行するものとほぼ同じですが、2点違うところがあります。
・写真を1点増やし、キャプションをつけました
・ホテル名などの情報を一部消しました
以上の点、ご了承ください。
紙の本で読みたいなあ、という方は、各種イベント、もしくは
こちらの通販でどうぞ~(3/24販売開始予定、在庫なくなり次第終了です)
→ https://jetcat.booth.pm/
この文章を書くことになった経緯は、こちらの記事に書いてあるので、よかったらご覧ください。↓
はは、はしる 逃亡ひとり旅日記
はじめに
「お母さん」は、忙しい。
こどもを産んで、はや7年になる。
たかが7年、されど7年。小学6年生が大学生になってしまうような長い長いこの期間、わたしは、多くの「お母さん」になった女性たちと同じく、 「自分」をとりあえずどこかに置いて過ごしてきた。こどもより先に起きてお世話、急いで仕事をして、終わったらこどものお世話。寝かしつけで寝落ち。こどもがいなかったころ、長い夜をどう過ごしていたか、もうほとんど思い出せない。
そろそろ、自分が「お母さん」であることに慣れてきてもいいころだと思うのだが、まだまだ、自分がべつの生き物をこの世に産み出して、そして育てているなんて、信じられないような気持ちで、毎日やみくもに、走りつづけている。
いやあ、「お母さん」ってすごいなあ。大変だなあ。
え?いやいや、
長くね? つらくね?
もうちょっと「自分」のこと、しても、よくね?
そろそろ、「自分」が死にそう!
そんな時に、わたしは逃げるように旅に出る。
はじめは近く、だんだん遠くに。
本書は、その逃亡ひとり旅の記録である。
一泊二日 水道橋
コロナ禍が勢いを増していた2020年12月、上半期から続いた自宅待機などの疲れが限界に達していたわたしは、夫に交渉をもちかけた。家族から離れて自由になる時間をとるため、1泊ずつ交代で外泊をしてリフレッシュしない? と。
夫も、なにか息詰まったものを感じていたのだろう。その提案はすんなり通って、先にわたしがひとりで外泊することになった。
外泊! ひとりで外泊なんて、独身のときもあまりしたことがなかったし、最近では数年前に夫と大喧嘩して財布だけ持って家を出た時以来だ。その時は、最寄り駅近くのビジネスホテルに1泊した。素泊まりで、ただお風呂に入ってテレビを見てひとりでスマホを眺めながら寝ただけだったが、天国みたいだった。久しぶりにベッドをぜんぶ使ってぐっすり眠り、翌日は心も軽くなっていたように思う。またあのスッキリした朝が迎えられるなんて…。
さて、どこに泊まろう。土日だと、家に残った側がこどもの世話をする時間が長くなり大変なので、外泊は平日。つまり翌日には出社しなければならない。会社に行きやすく、かつ非日常感が味わえる場所… ということで決めたのが、会社から歩いて行ける水道橋駅、東京の中心・東京ドームのとなりにそびえたつ、東京ドームホテルだった。
ジャニオタであるわたしは、東京ドームホテルに憧れをもっていた。ジャニーズのコンサートが東京ドームで行われるとき、ドームホテルの客室の窓には、宿泊しているファンによってたくさんの飾りつけがなされる。公式グッズのうちわなどだけではなく、黒い紙を切り取って作ったメッセージや、イルミネーションまで。コンサートが終わって駅まで歩く途中で、その窓たちを眺めるのがひとつの楽しみだった。
東京に住んでいる以上、「あの光」のひとつになることはない、と思っていたけれど、今ならその体験ができる。幸い、コンサートのない平日の宿泊料金はかなりオトクだった。
待ちに待った宿泊当日。チェックインは3時からだが、最大限に旅の気分を出すため、有給休暇をとって午前中に家を出た。まっすぐ向かったのは、ホテルではなく、東京ドームシティの楽園こと、「スパ ラクーア」である。
スパ ラクーアは大好きな施設だ。サウナがいいとか、ヒーリングバーデ(岩盤浴)がいいとか、いろいろな点があるけれど、何よりも、女性をメインターゲットにしていることが丸わかりなところがいい。キャッチコピーからして「キレイが、さめない」である。館内も女性やカップルがかなり多く、女性専用の休憩場所があったりと、女性がひとりで行っても気兼ねなく楽しめるようになっている。男性がメインターゲットになりがちで、男性専用なんていうのも多いお風呂施設においては、貴重な存在なのだ。
お風呂とサウナに入り、アカスリに身を任せてアカチャンレベルに全身つるつるにされたあと、館内着に着替えてなんとなく南国っぽい休憩所でビール。窓からは東京ドームシティが見下ろせる。最高。
その後も何度かお風呂に入ったりモヒートを飲んだりちょっとウトウトしたりして夕方まで過ごした。
すっかりゆるみきった状態でホテルのチェックインを済ませると、「プレゼントです」といって小さなボールのオーナメントをひとつ渡された。もうすぐクリスマスだからか。家ではまだクリスマスツリーを飾っていない。こどもと一緒に飾ったら喜ぶかな、と思いながらポケットにしまった。
外が見えるエレベーターに乗り、中くらいの階層に向かう。案内されたのは、大きな窓からさきほどまでいたラクーアと東京ドームを眺められる部屋だった。思ったより広いしキレイ! やっぱり高いところからの景色にはテンションが上がる。ちょっと窓辺にひざを立てて座ってみたり、自撮りしてみたりした。
ホテルでの夜には、あの動画を見ようとか、この本を読もうとかいろいろ準備してきたのに、お風呂に入りすぎたのか、もう眠い。夕食を軽く済ませて、バーで1杯飲んで部屋に帰ってきたら、すぐ寝てしまった。ぜんぶ自分のペースである。ストレスなし。最高。
翌朝は、チェックアウトしてそのまま徒歩で会社に向かった。東京ドームから会社までは徒歩10分くらい。改めて、小さな旅行である。そうだとしても旅行先から仕事に向かうなんて、ふだんのわたしだったらぜんぶ嫌になってもおかしくなかったが、足取りは軽かった。会社に着くと、同じ部署の人が「平日に近くのホテルになんで泊まるの?」みたいな質問を投げかけてきた。この解放感がわからないなんて、ふだん育児や家事をしてないと宣言しているようなものだ。かわいそうだなあ。
つぎにもし外泊の権利がもらえたら、こんどはゆっくり二日休みをとって、温泉付きの旅館かホテルに泊まろうと考えながら家に帰った。浴衣でゴロゴロするのもやってみたいし、もっと「おこもり感」があってもいいかと思ったのだ。
1日半ぶりに会ったこどもは、なぜか記憶より大きく見え、そしてめちゃくちゃ可愛かった。ホテルでもらったオーナメントを渡したら、「宝物だ!」と言って、背中がチャックで開くタイプのダッフィーのぬいぐるみの中にしまっていた。
ちなみに、夫の外泊は新宿にしたらしい。映画を連続で見て、そのまま近くのホテルに泊まって、とても楽しかったそうだ。よかったね。
一泊二日 箱根
二度目のチャンスは、突然訪れた。2021年8月、急に夫が「実家にこどもと2人だけで帰省する」と言い出したのだ。夫とこどもが2人で帰省するのは、こどもが生まれて5年、初めてのことだった。
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