僕の師匠はマスター。
今、僕は酒を提供する仕事に就いています。
ですが僕はもともと酒には全く興味がなくて、どちらかといえば飲まないほうだったし、日本酒やワインに差があるなんて全然知らない、世間的には下戸でした。
大手ファストフード企業を退職して、カフェバーの店長になったのは6年前。
酒を提供する側になりました。
カフェバーではビールはもちろんのこと、ウイスキー、日本酒、ワインなどもあるし、簡易的なロングカクテルなんかもあります。
提供する側になった僕ですが、当初酒というのを全く理解していなかったんです。
「高ければおいしい」
「有名であればいい」
それぐらい理解がなかったんです。
そんな僕がメニュー構成をしてお酒のラインナップを初めて変えたころ
「酒の師匠」と呼ぶべき方と出会いました。
その方は近所で宴会メインの居酒屋さんを経営されていて「マスター」と呼ばれていました。
フレンチ出身の料理人でとにかく飲むことに目がない。
そんなマスターが店にやってきて僕が選んだ日本酒について尋ねられたんです。
「この酒はなんで選んだの?」
正直なんで選んだか?という明確な理由は無かったんです。
なんとなく。だったんです。
真面目にメニュー構成を考えている方からしたらとんでもない理由です。
そうして明確な理由を説明することができずにいるとマスターから
「次の休みに俺のところへ来い。」と。
なんだかよくわからないけどマスターの店に行く事になりました。
マスターのお店は宴会がメインなんですけど、建物1階には立派なバーカウンターがあって常連さんはそこで飲むみたいなんですね。
マスターの紹介じゃなきゃ座れない特別なカウンター。
そんな席に僕は通されました。
すこし経つとマスターがカウンターの奥から出てきて話をはじめました。
「さて、日本酒のことだけれど、、、
マスターは酒に関することを僕に丁寧に説明をしてくれました。
ウイスキーのラインナップのあれこれ、マスターが好きな銘柄。
リストのファースト、セカンド。
ブルゴーニュー、ボルドー、フランス、南米、ニューワールド、ワインベルト。
本醸造、純米、吟醸、日本酒。
コイーバ、ダビドフ、ホヨードモントレー、シガーのこと。
たくさん教わりました。豊富な知識は実際に飲んだことのあるマスターの経験によるもの。教科書ではない体験です。
その後、僕は何度もマスターのもとに呼ばれバーカウンターに座らせてもらいまいた。
そのたびに話に出てきた酒や他のものを僕に試させるのです。
DRC、1級シャトー、とてつもない銘柄。買えば数十万する代物をいただきました。しかし格付けの意味の無さも同時に教えてもらいました。
「はたして、その人にとってそれは美味しいのか?」
「いい時間と体験だったと思えるのか?」
「大事なのは銘柄を飲むのではなくて、楽しく過ごせる時間を提供できたのか。そのための予備知識として酒を知るのは、提供する側にとっての責任だ。」
そう教えてもらいました。
何も知らなかった僕には本当にありがたいことでした。
そこからはお店のメニューリストにもきちんと意味を持たすことができるようになっていきました。数年経ち、マスターになぜそんなに僕に一生懸命に教えてくれるのか聞いたことがあります。
そうしたらマスターは
「美味しいものを提供するにはその経験が必要。頭でっかちになるな。体験は体が感じているから嘘をつけない本当の言葉になる。それを伝えたかった。そして君はその大切さを感じ取ってこの店は良くなった。」
そう言ってくれたのです。
僕の師匠はマスター。
酒の縁があり来月から新天地で働きます。
本当にありがとうございました。