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空が燃えている。

 フロントガラスから見える遠くの空は夕日で真っ赤に染まっている。音楽もない、新車のシートの匂いが残る車内で私はアクセルを踏み込む。

助手席のお前は言う。「死ぬ前にやりたいことはなんだ?」
私はすぐに答えることができない。
お前は言う、「アクセルを踏め。もっとだ。」
私は強く踏み込む。スピードメーターの針が投石機のように回る。
お前は言う。「死ぬ前にやりたいことはなんだ?」
私はすぐに答えることができない。
お前は言う。「アクセルを踏め。遠慮はいらない。」
私は強く踏み込む。エンジンが鯨のように吠える。
お前は言う。「死ぬ前にやりたいことはなんだ?」
私はすぐに答えることができない。
お前は言う。「手をあげろ。ハンドルから手を放せ。」
私はハンドルから手を離した。
お前は言う。「速度を落とすな。もう一度聞く、お前が死ぬ前にやりたいことはなんだ?」
私はすぐに答えることができない。高速道路の壁が緩やかに弧を描く。
お前は言う。「お前が!死ぬ前に!やりたいことはなんだ!」
私は言う。「このまま駆け抜けたい。」
お前は言う。「それでいい。」

高速道路の壁が迫ってくる。私は加速を続ける。視界から空が消える。後部からクラクションが聞こえる。タイヤはアスファルトを削る。

視界から車が消える。灰色の壁が迫る。全てがスローモーションに。

衝撃。

上下左右全てが無になる。助手席のお前は消える。

俺は全てを手に入れる。

停止。

傾いた視界にもうフロントガラスはない。

遠くで空が燃えている。

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